メモ:アニメ批評は本当に存在しないのか?

私がアニメ業界に入って一番びっくりしたのが、まさにつくってもつくっても批評がないこと/昔はまだ多少は批評があった気がするんだけど、最近はもうアニメ雑誌も誰も読まないし、一方で作品の数だけは増えてどんどん消耗品になっていて本当にもったいない。いまはもう95%くらいの作品はオンエアが終わったら消えていく(押井守)
https://www.cinra.net/article/202303-oshiimamoru_ysdkrcl

 少し前、「アニメ批評」の不在を嘆く、押井守監督の発言が話題を呼んだ。

 第1回新潟国際アニメーション映画祭の宣伝として行われたあるインタビューで、押井監督は、「95%くらいの作品はオンエアが終わったら消えていく」と、今のアニメの語り継がれなさと、アニメ批評の不在を指摘した。ツイッターでは「ほんとアニメはちゃんと批評されないとなと思う」など賛同する声が多数挙がった。

 ところが、本職のアニメライターからは「「批評の不在」を語る人はたくさんいても、それを実践する人は少ない」(藤津亮太さん)、「議論をやってばかりで、実際に書かない人が多い」(前田久さん)と、冷めた反応が出ている。なぜか。原因はもしかすると、押井監督やその賛同者が「いま行われているアニメ批評」にほぼ言及していない、というところにあるのかもしれない。

 たとえば、藤津さんは、昨年文庫化された『アニメ「評論家」宣言』(ちくま文庫)など、すでに5冊以上の「アニメ評論」を単著として出版している。ほかにも、ライター・氷川竜介さんは日本アニメ史を振り返る『日本アニメの革新』(角川新書)を出版したばかりだし、アニメ界で最も〝濃い〟メディア「アニメスタイル」の編集長・小黒祐一郎さんが昔編集に携わった『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会』も復刻されたばかりだ。

 アニメ批評の不在を嘆く人々は、なぜこれらの固有名詞を出さないのか? 高瀬康司は? 石岡良治は? 渡邉大輔は? 土居伸彰は? アニマゲドンは? 藤田直哉や杉田俊介の物語批評は? 文芸フリマの同人誌は? 「アニメーション研究」とは異なる、いわゆるアニメ批評的な文章を書いている人はたくさん存在する。なのに、「批評の不在」を嘆く人々は、なぜ彼らを応援せずにただ嘆くだけなのか? たぶん、その存在を知らないからだ。

 アニメ批評は既に存在している。問題は、それが広く読まれる回路・土壌を持たないこと、マネタイズしにくいこと、その結果、人材が育たず、発表の場もなく、記事も量産されないことにある。「批評の不在」を嘆いてる暇があるなら、既に存在している批評を応援したり、それがより読まれるよう拡散するべきだ(能力があるなら書くべきだ)。ところが、そもそもアニメ批評は広く読まれていないので、大半の人はこういう話題が出ても「アニメって批評されないよね〜」と軽く話すだけで、また次の話題に移って、そのまま忘れられてしまう。こういうことが繰り返されている内に、当事者である書き手たちはウンザリしてしまったのかもしれない。

 だが、押井監督の言うことが丸きり的外れだとも思わない。私の知る限り、『すずめの戸締まり』には──いまだ公開中にもかかわらず──様々なメディアからおびただしい数の批評が寄せられたが、毎クール放送されるテレビアニメは、たとえその季節ナンバーワンの人気を誇っていても、商業メディアでの批評は皆無、ということが珍しくない。アニメ映画は、あらかじめ存在していた映画批評の枠組みで論じられているが、テレビ放送作品にはそれがなく、アート系作品、MVにはより絶望的にない。この現状をまず憂いなければならない。参考までに、今クール一番人気だった『お兄ちゃんはおしまい!』の関連記事一覧を貼っておこう。(終)

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《書籍・雑誌》
[原作者]巻頭特集=スタッフインタビュー・ねことうふ、キャラクター設定資料集【メガミマガジン】23年4月号

《レビューほか》
[羽海野渉=太田祥暉]『ぼっち・ざ・ろっく!』から『お兄ちゃんはおしまい!』まで 作画アニメの才能と表現の繋がり【KAI-YOU】23/02/19
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