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レカネマブ、正直どうなの?

ついに承認されてしまいそうだ。まあ、時間の問題だったのだが。

この薬に関しては、以前にも少し触れたので引用しておく。

 疾患の原因究明は重要だ。当然だ。治療や予後予測に極めて有用からだ。でも、それが少し行き過ぎている感じがする。例えば、最近のADに対して抗体医薬を使用しよう、という流れには何とも言えない違和感を感じている。認知機能低下が発症した段階ですでにアミロイドβの沈着はかなり拡大しているという。だから、かなり早期の段階でないと加療効果が低い、という。ならば、この流れの行きつく先は「発症前診断」である。生理現象であるはずの「老化」がどんどん医療化されていくことを手放しに許容していていいのか?この医薬の利用は、明らかに家族集積性があるケースに留めるべきではないか?
 また、脳浮腫・脳出血発症リスクがどうしても気になる、特に高齢者に広く使用するにはリスクが高いように思う。ADは進行の個人差があまりにも大きいことも問題だ。そもそも進行には患者を取り巻く環境要因の影響がかなり大きい。どこまでが薬剤の効果なのか、本当に判断できるのか?脳内のアミロイドβが減ったことと認知機能改善を単純にイコールとして良いのか?そもそもアミロイドβ蓄積以外の要因もある、という説も少なくないというのに?ただし、若年性ADに関してはほぼ例外なく進行は早いので、この方々には例え認知機能低下がある程度進行した状態であっても使用するメリットはあるかもしれない。例え無効であったとしても。

 まあ、いくら私ごときが懸念を表明したところで、使う医者は使うのだろうし、希望する患者は希望するのだろう。仕方ない。それにしても高い・・

 薬本体も高額だし、アミロイドPETがセットになることを考えると、さらに高額になる。高額医療制度でカバーすると大変なことになりそうだなぁ、とは思う。いや、高額でも有効性が高ければ許容すべきだろうが、私にはこれに高い有効性があるとは到底思えない。

一応、根拠となっている第Ⅲ相試験はNEJMに掲載されている。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212948

アブストラクト和訳👇

 この治験の主要評価項目はClinical Demantia Rating(CDR)という評価法である。結果は上記👆の通り。確かに経時的に差が開いているように見える。
 これに関しては、4つ文句を垂れておく。
① まず、仮にこの結果が有効性を示しているとしても、レカネマブ群とプラセボ群のわずかな差が18か月以降も維持されることは、「期待」と「(楽観的な)想定」でしかない。つまり、長期的な「効果」は誰にも分らない。2年、3年と使ってみないと分からない。だから、2週に1回行う投与の「ゴール」は想定されていない。
もちろん、長期的投与による負の影響など、だれも知らない。
② 「QOL(生活の質)改善」ではなく、あくまでも「認知機能改善」をターゲットとした治験の主要評価項目として、そもそもCDRが適しているのか、という根本的な疑問がある。QOLを改善させるものが「認知機能改善」だけではないのは言うまでもないことだ。
③ その点を置いておいても、治験期間中の18か月の効果は正直大したことはない、と思う。CDRスコアの合計点(CDR-SB score)の18か月後の増加がレカネマブ群1.21点に対してプラセボ群1.66点、わずか0.45点の差、である。下にCDRの日本語版を提示しておく。果たしてこの差を、「有効」と考えていいのだろうか?費用の面はもちろん、「2週間に1回の静脈内点滴を継続する」という身体的・精神的負担に見合った効果と考えていいのだろうか?

 上記の朝日の記事の中で、治験に協力した医師が👇のように言っていたらしい。このCDR変化のわずかな差と、この医師の印象は一致するように思う。

約30人に薬を投与したこの医師は、効果を実感できるのは「3人に1人程度」と印象を語る。

朝日新聞「期待の認知症新薬、承認へ 対象は早期の人のみ 治療の流れや価格は」より

④ そもそも軽度認知障害(MCI)を評価したいのなら、MCI評価ツールとして最もスタンダードなMoCAによる評価を行わないのはどうしてなんだろう???不思議だ。

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二次評価項目は以下の4項目。

ADAS-Cogはアルツハイマー病に特化した認知機能評価法として広く使用されている。私としては、これが最も重要な結果なのでは、と思うのだが??
最大90点(点数が高いほど認知機能低下)で、18か月後にプラセボ群5.58点増加に対して、レカネマブ群4.14点増加と、レカネマブ群の方が1.44点増加が抑制された、とのこと。CDR-SBの結果と同様の感想しか出てこない。
しかもこれ、何だか15か月目ごろから、わずかに認められた「有効性」が頭落ちになっているように見えるのだが、気のせいだろうか?
 
ちなみに、今まで上げた各検査法については下記のページにうまく整理されており、CDRは5番目、ADAS-Cogは7番目、MoCAは8番目に説明がある。

 

 あとの2つの評価法👆は使ったことがないのでわからない。でも、評価法としては適している、という論文はあったので一応貼っておく。

 レカネマブ投与でアミロイドβが減るのはそもそもの大前提なので、この結果は当たり前だろう👇

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 以上、繰り返しになるが、この薬剤の「効果」に関しては「費用の面はもちろん、『2週間に1回の静脈内点滴を継続する』という身体的・精神的負担に見合った効果と考えていいのだろうか?」と言う疑問しか出てこない。
 
 そして、この薬剤の最も懸念される副作用として、脳浮腫・脳出血がある。しかも、無視できない頻度で発生している発生可能性を投与前に予測するために有用な検査があるのだが、我が国ではその検査体制が整っていない
 この辺りについては改めてまとめたい。


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