本との出会いが減るということ

 たまたま隆祥館書店店主の二村さんのnoteを見つけた。
 書店のことは以前から存じ上げている。
 いつか行ってみたいと思っているが、お店の所在地があまりにも大都会すぎて、人混みが苦痛な人間としてはなかなかハードルが高い。
 二村さんは、惜しまれつつ終了したラジオ番組「おはようパーソナリティ道上洋三です」でお声は何度か拝聴したことがある。その時も出版業界について話しておられたのを聞いたが、今回拝読した出版取次について書かれていた👇の内容が非常に興味深かった。
 本屋好きにとっては、書店が8%かそれ以上のマージンを取られることや、いきなり配本0になることなどは、かなり由々しき事態だと感じた。

今、ひとりの書店主として、伝えたいこと  7月、8月と、これまで以上に廃業に追い込まれる書店が増えていった。|二村知子 隆祥館書店 (note.com)
「今、ひとりの書店主として、伝えたいこと」を、勇気を振り絞って書いてから、その後に起こったことを書きました。|二村知子 隆祥館書店 (note.com)
「今、ひとりの書店主として、伝えたいこと」を、勇気を振り絞って書いてから、 雨にも負けず、嵐にも負けず、雪にも負けないと踏ん張っていたが。。。一難去って、また一難、コミックが、、、|二村知子 隆祥館書店 (note.com)
 隆祥館書店は「小さな書店」とはいえ、発信力も影響力も結構あるので(ひとえに店主のバイタリティーによるものだろう)、出版社の協力を得やすいのかもしれない。でも、そうでもない書店はしんどいだろうな、と思う。

 つまり、小さな書店では、需要が確実にある書籍が取次から卸されないケースがそれなりに多い。それを無理に卸してもらおうとすると、書店の利益が大きく損なわれる。かといって利用者からの要請に答えなければ、利用者が離れていく。ということらしい。
 目の前の需要を逃しているという意味では、書店だけでなく出版社にとっても損な話なのかもしれない。

 とはいえ、取次会社としては、無駄な在庫を抱えたくないだろうし、書店側から売れ残りを気軽に返品されることも困るだろう。それならば販売力があり、しかもある程度自前で在庫を抱えることができる大規模なチェーン書店に優先的に卸したい、と考えるのも当然といえば当然だと思う。
 取次業界の話は、アルファベータブックスの春日俊一氏のnoteで話題になっていることぐらいしか知らないが、出版取次自体の経営が相当苦しいようで、2大大手(ほぼ2社の寡占状態らしい)であるトーハンと日販ですら、生き残りに必死のようだ。
 大企業が崩壊することが社会に与える影響はあまりにも大きい(経済的にも心理的にも)ので、彼の企業が大手チェーンでもない街の小さな書店のことまで考えている余裕はないのかもしれない。
本は売れているのか?|飯田橋の小さな出版社の社長です。 (note.com)
出版の未来は…|飯田橋の小さな出版社の社長です。 (note.com)
コンビニではもう雑誌も本も赤字の商品になってしまったのか|飯田橋の小さな出版社の社長です。 (note.com)

 私の属する医療業界も問題が多いけれど、他の業界も同じなのだろうな、と感じる。
 医療業界でも、アメリカかぶれの人間が蔓延させた「市場原理主義」と、必要な変化を拒む「既得権益」がぶつかるばかりだ。
「『守るべきもの』は絶対に守るが、『守るべきもの』のための変化であれば拒まない」という真の保守的発想は常に傍流に追いやられている。
いや、そもそも大多数の「守るべきもの」が「私と、私が属する世間」に留まり、大義が存在しない、というのが正しいか。であれば、ますます絶望的だ。
 現場は現場で、新しもの好きで目立ちたがり屋の秀才どもが吹聴する「改革」とか「刷新」とか「維新」とか「ver2.0」などの口にするのが気持ちよく、耳心地もいいが中身は極めて空虚な言葉に容易くたぶらかされ、勝手に混乱している有様だ。
ここ数年、そのような状況に拍車がかかっており、常にニヒリズムに陥りそうになっている・・・・

 書店の苦境に関して私自身ができることは、「紙の本を応援したい書店で買う」ことぐらいしかなさそうだ。便利なので、どうしても通販や電子書籍を使ってしまいがちなのだが、そこをぐっとこらえなければならない。

書店が減っていくと・・・

 利用者として最も悲しいのは、月並みだが「本との思わぬ出会いの機会が減る」ことだ。

 私の自宅周囲は、大都会でもないのに書店が3つもある。非常に恵まれていると感じている。そのうち、大手チェーン書店は1つのみで、2つはいわゆる「街の小さな本屋さん」である。
 
 大手チェーン書店は、当然ながら、売れ筋ばかりが並ぶ書店だ。フロアは広くないので、本当に売れ筋しか目立たない。正直、ふらりと覗いても特に面白味はないが、今世の中で何が売れているのかを知るためには良い。
 街の本屋さんのうちの一つは、駅裏にある。どちらかというと学用品や教科書販売など、地域とのつながりが強い本屋さんだ。私の娘も度々お世話になっている。
 
 私が最も好きなのは、もう一つの街の本屋さんである。一応チェーン店だが、規模的には「小さな街の本屋さん」である。
 もちろん、店頭に売れ筋の本は並んでいる。でも、その横や近くにさりげなく置かれた「初めて出会う本」と出会えることが多いのだ。大手チェーン書店では目にすることがなく、大規模書店では埋もれてしまっているかもしれない本たちと。通販サイトに提示される「おすすめ」では出会うことがなかったであろう本たちと・・・・
 店頭以外でも、決して広くないフロアに、いろいろな文化が詰め込まれており、常に新たな発見がある。売れ筋本と、売れ筋ではないけど興味をそそられる本がバランスよく並べられている。
 児童学童向けの本も充実している。なので娘たちとこの本屋に来ると、なかなか帰れない。しかし、私にとっても、長居することが新たな出会いのための時間となるので、その状況がむしろ有難かったりする。そんな貴重な本屋さんだ。
 なので、この書店がなくなると、私のQOLは間違いなく大きく低下するだろう。
 
 
別にテレビやインターネットが無くなっても人間はそうは困らない。100年ぐらい前に戻るだけなのだから、すぐに慣れる。
 でも、本はそういうわけにはいかない。歴史的に存在の重みが違うのだ。言葉が文字に書かれるのは、時間に耐えて残されるため、なのだから。

本は、人間が「野獣」ではなく「人間」として生きて行くための命綱

なのだ。

 

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