『沈黙という言葉。』

言葉の終わりには必ず沈黙がある

沈黙とは言葉への断念ではなく

時には言葉以上の力を持っている

音楽の背後に無音が潜んでいるように

言葉は沈黙によって支えられているが

言葉にとらわれている時には気づかない

言葉が終わった時にはじめて意識されるもの

それが沈黙であり

沈黙とは現象であり

現象とは存在である

沈黙とは決して、言葉の消失のことではない

そんな見すぼらしいものではない

沈黙は言葉と同じように人間の精神を形成しているエレメントなのだ

言葉の背後には沈黙あり

沈黙の背後には言葉あり

まだ言葉と沈黙が分かれていなかった時代には

人々は無音の音を聞き分け

言葉の背後にある沈黙に思いを馳せた

沈黙は言葉が無くとも存在し得るが

言葉は沈黙が無くては存在できない

沈黙は言葉の母であり、言葉が最期に還る場所

昔々、ひとりの修行僧がいた

師匠は禅の和尚でありながら坐禅もせず、お経も読まず、仏の教えも一切いわない

ただ、修行僧たちのために野菜を作って暮らしていた

そんな師匠のことを修行僧は心の中で馬鹿にしていた

時は経ち、師匠は死んで修行僧も大人になっていた

ようやく修行僧は全てを理解する

師が沈黙によって全てを伝えようとしていたことを

何十年も一緒にいながら、自分はまだ一度も師に出会っていなかったことを

修行僧に沈黙という名の光明が訪れ、はじめて師の存在の大きさを思い知り修行僧は涙した

向かい合っても何も語らない

でも、その思いはどこまでも果てしない

地平線のように広がり、太陽のようにあたたかい

沈黙と沈黙でしか伝わないもの

とても静かで、全てがある場所

それは決して言葉にすることはできない。

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