『おかえり。』


ある日、道路のわきに立っている女性がいた

しばらくすると、小さな女の子が駆け寄ってきて

気づいた女性は満面の笑みを浮かべ、そして手をひろげて

小さな女の子を抱きしめる


「おかえり」

「ただいま」


たったそれだけのことなのに

その光景は名画のように美しく、沈む夕陽のような悠然さでぼくの心を無抵抗にした

優しさが波を打ち、愛しさが凪いでいる

無垢な親と子の間にあるやわらかな伝達

それを表現する言葉を探していたぼくを再び黙らせた

ふたりが去った後のアスファルトは

まるで夜光虫が漂う海

ただ、そこだけが異世界に続く道のように青く光って見えた。

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