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JBFが出会った人たち #2 小路 輔(WEBマガジン「初耳 / hatsumimi」編集長兼代表)

アート、ファッション、フード、サブカルチャー……次々と新しい文化が生み出されている、台湾。そんな台湾の“面白さ”にいち早く着目し、最先端のトピックスを発信しているのが小路輔さんだ。現地のクリエイターやビジネスパーソンとの交流や、日本のプロダクトを台湾で展開する中で感じた、“海外展開に必要なマインド” とは——。

——台湾に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?

小路 もともと旅行会社にいたので度々訪れてはいたんです。それが強い興味に変わったのは、7年くらい前に起きたひまわり学生運動がきっかけです。いわゆる学生運動なんですが、その広がり方や市民の熱がものすごくて。「明治維新や大正デモクラシーに近いムーブメントのようなものが起こるかもしれない」という予感があり、そのうねりを間近で感じてみたいと思って台湾に飛び込みました。

——飛び込んでみて、いかがでしたか。

小路 政治だけでなく、文化面でも圧倒的なパワーを感じました。たとえば、台湾には「文創」と呼ばれるムーブメントがありました。文創は「文化創意」の略語で、簡単に言うと古き良きカルチャーをアップデートする活動です。たとえば、+10(テンモア)という靴下のブランドは、台湾の伝統産業である靴下づくりに、クリエイティブやデザインの視点からアップデートすることで新しい価値を生み、台湾だけでなく日本でも大人気になりました。その範囲は建築から飲食、ファッションまでとても幅広いんです。

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写真提供:+10(テンモア)

——なぜ、伝統的なものがフューチャーされるのでしょうか?

小路 個人的な意見ですが、台湾の歴史は比較的浅いので、歴史に裏打ちされたアイデンティティーが見つけられていないのもその理由のひとつかと思います。日本で言う桜や富士山のような、わかりやすいシンボルがない。だからこそ、クリエイティブを通してアイデンティティーを紡いでいるんだと思います。

——「台湾文創」を支えるクリエイターたちに共通点はありますか?

小路 みんなに共通しているのは、「お金を稼ぐよりも先に、好きなこと・面白いことをしたい」という思いが強いこと。たとえば日本的な発想では、お店が成功したら2号店をオープンしがちですが、台湾ではそういう発想になりにくい。なぜなら「同じことの繰り返しはつまらないし、これ以上稼ぐ必要もない」と。価値観が同じクリエイター同士で仕事をし、やりたいことができて、身の丈にあった暮らしができればそれで満足という考え方の人が多いですね。

——それはとてもイマ的ですね。

小路 それと、ベンチャーマインドというか「まずはやってみる」というタイプの人が多いように思います。文化やビジネスだけでなく、コロナの対応にしても、台湾政府は議論に時間をかけるよりも、効果のありそうな施策を次々に実行してうまくいったものを残しました。なぜかといえば、環境が目まぐるしく変化し、先が予測できない現代では、正解を求める議論自体にゴールがなく、その時間がもったいないからです。

——そんな風土の国でジャパンブランドを成功させる秘訣はなんだと思いますか?

小路 台湾に限らないのですが、現地の文化を理解し、彼らの視点に立つことでしょう。日本でのやり方のままで展開すると、いくら商品が良くても結果を残せないと思います。それと、日本人は計画を立てて最後まで丁寧に進めることは得意ですが、一度壁に当たるとすべてがうまくいかなくなることも多い。一方で、台湾人はその場その場でフレキシブルかつスピーディーにやり方を変えます。この不透明な時代においては、後者のスタイルがフィットする。

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台湾最大級の台日カルチャーイベント「Culture & Art Book Fair」

——そうした価値観や文化の違いを意識した上で、台湾のマーケットで、日本のプロダクトやブランドの可能性はありますか?

小路 もちろんです。ぼくが2015年から台湾展開のお手伝いをしている文具店のカキモリさんはいまや大人気で、蔵前のショップにまで足を運ぶファンがいるほどです。大切なのは、長期的な視点で、商品を台湾のライフスタイルにまで落とし込んでいくこと。たとえば、豆皿は日本では醤油や調味料を入れる器として使われていますが、台湾ではアクセサリーを置く格好のアイテムとして人気になりました。やはり繰り返しになりますが、どのような文化でどんな変化が起きているかなどを常にウォッチしていくことが欠かせません。

——コロナ禍で、なかなか渡航するのも難しい状況ですが……。

小路 逆に言うと、チャンスかも知れません。台湾の日本ファンの人たちは来日できないので、日本に飢えている状況です。ブランドストーリーをしっかりとユニークに伝えられれば、モノだけを展開するというやり方がコロナ後のスタートダッシュにもなります。

——まさに、“まずはやってみる”ですね。

小路 お話したように台湾では、伝統的なモノへのリスペクトがあります。魅力的なストーリーづくりや臨機応変なプロモーションができれば、可能性は充分にありますよ。

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小路 輔 / Koji Tasuku
WEBマガジン「初耳 / hatsumimi」編集長兼代表

1979年生まれ。2002年からJTBグループでインバウンド関連の業務に従事し、2012年からスタートトゥデイ(現ZOZO)でファッション通販サイト「ZOZOTOWN」の海外事業を手掛ける。2014年に台湾と日本で起業して、2019年に朝寝坊屋(創業70余年)を事業継承する。台湾最大級の台日カルチャーイベント『Culture & Art Book Fair』『Culture & Coffee Festival』などのオーガナイザー、日本国内で8万人以上を集客する台湾カルチャーイベント『TAIWAN PLUS』のプロデューサーを務める。台湾のWEBマガジン「初耳 / hatsumimi」の運営など、日本と台湾のカルチャーやライフスタイルの交流をテーマに活動中。
https://note.com/hatsumimi_koji



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