【米国大統領選挙から考える、民主主義のあり方】

ギンズバーグ米国連邦最高判事がなくなった頃、僕の頭には”フィルバスターの行方”が浮かびました。ギンズバーグ氏の後任の承認は上院の権限です。米国上院は、フィルバスター抜きには語れないのです。そして、フィルバスターのあり方は、民主主義国家において、少数意見がどのように守られていくべきかという問いに直結します。

アメリカ上院では、フィルバスターという仕組みがあります。これは、議会少数派が気に入らない法案や決定を廃案にする強力な武器となります。かなり単純化すると、連邦議会上院では、フィルバスターを無効化し、法案を通すには、最低60人の議員の賛成が必要です。100人定数の上院で60人味方につけるのはかなり困難なことが分かると思います。

このフィルバスターには賛否両論があります。少数派の主張が多数派の渦に飲み込まれないという利点に対し、多数派の主張が全く通らず、議会が機能しなくなるという見方もあります。フィルバスターの使用は60年代後半から急激に増え、米議会の硬直の代名詞ともいえます。

フィルバスターは上院内の議事進行手続きルールなので、取りやめに法律の改正は必要ありません。フィルバスターの取りやめには、いくつか方法があるみたいです。(言葉の定義の整理:取りやめと無効化は違います。無効化はフィルバスター運用上の認められた手続きです。取りやめは、60人集めなくてもフィルバスターを使えなくする方法をここでは指します。)

そのうちの一つを使い、上院の多数派は、フィルバスター無効化に必要な議員定数を60から50に変えたりしたこともあります。これは、正確には取りやめというよりも、フィルバスターを骨抜きにする試みです。こうすることで、多数派はフィルバスターの呪縛から解放されますが、こうしたアプローチは、"nuclear option"と呼ばれます。民主党が上院で多数派だった際に、初めて、このnuclear optionを使い、フィルバスター無効化に必要な人数を強引に引き下げました。そうすると、共和党は2017年に同じことをします。このように、一方が使うと、他方も報復し、フィルバスターが形骸化することから、nuclear optionと呼ばれています。(一度使うと終わりという意味で核兵器使用と似ているため、こういう呼ばれ方になったと聞きました。)

ギンズバーグ元最高判事が亡くなり、共和党はすぐさま次の判事の指名に躍起になっています。(共和党の一連の行動は偽善と身勝手の何物でもないと考えますが、政治の世界では当たり前なのかもしれません。本旨からずれるので、ここでは詳細にはふれません。といいながら、共和党は2016年にオバマ氏が最高裁判事任命をしようとした際に、次の大統領に任せるべきと主張していました。選挙の年ということが理由です。彼らの言動には全く一貫性がありません。)

共和党がnuclear optionを再び使用しなければ、上院で少数派の民主党はフィルバスターを使い、共和党の指名を妨害できます。しかし、これまでに、民主党の議員からは、フィルバスターを撤廃すべきという声も上がっています。また、仮にバイデンが勝利し、さらに民主党が上院も取り戻し、彼の任期中に最高裁判事の任命機会が回った時に、フィルバスターがあると、共和党に同じ妨害を受けても文句を言えません。短期的に見ると有利なことでも、ある決定が慣習化され、長期的にあだとなることも考えられます。

フィルバスターが存在しない世界では、上院・下院・大統領を片方の党が取った場合、少数派の考えは理論上完全に無視できます。(もちろん、最高裁判所の抑制が効くが)一方、フィルバスターが存在すると、多数派の意見が全く実行に移されない事態が発生しかねません。特に、昨今の米国議会の深い分断を踏まえると、そう考えるのが自然です。いずれにせよ、国内世論を二分するような話題で、少数派の考えを完全無視すれば、次の選挙で大きな揺り戻しを受け、米国政治の分断がさらに深まると考えます。(政治分断と市民レベルの分断は別だと僕は考えます。)「政治レベル」での二極化が激しい今だからこそ、次のリーダーは長期的な視野に立ち行動することが求められそうです。

以下は、フィルバスターを巡る昨今の論点について、非常によくまとまっている資料。




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