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広島参院選で野党が勝利 市民運動とメディアが役割に注目

4月25日に投開票された参院広島選挙区の再選挙は、告示前の大方の予想を覆し、野党候補が勝利した。この結果、参院長野と衆院北海道2区の補選と合わせ、菅政権にとって初の国政選挙となった衆参3つの選挙で自民党は全敗した。「保守王国」広島で自民が敗れた背景には、市民運動とメディアが果たした注目すべき役割があった。
(写真は4月3日に広島市内で市民団体が開いた街頭宣伝で訴える宮口治子さん。左は応援に駆け付けた郷原信郎弁護士)

「告示後、『横一線のたたかい』と報じられたけど、実際にこんな結果になるとは思ってもいなかった」「選挙戦の現場では何が起きていたのだろう」。選挙後、市民から、よくこんな声を聞いた。
参院広島再選挙は、2019年参院選で自民・河井案里陣営が県内の首長と地方議員40人を含む100人に2900万円もの現金を配る大規模な選挙買収事件を起こしたことが発端。当選した案里氏は裁判で有罪判決が確定したために選挙は無効となり失職。この結果、やり直しの再選挙が行われることになった。
案里氏の夫である河井克行・元法相も事実上の総括責任者として自ら多額の現金を配り、現在は判決を待つ身で、衆院議員(広島3区選出)をすでに辞職している。
(写真は3月28日に県内の市民連合が開いた集会で政策協定書に調印した宮口治子さんと市民連合代表の山田延廣弁護士)

市民連合3・28集会

このような経緯と背景のもとで行われた再選挙は、「政治とカネ」が大きな争点ではあった。
自民は候補者に新人で39歳の広島出身経産官僚を擁立。買収事件と何の関係もない、清新な人物であることを前面に押し出した。あわせて大規模買収事件は、安倍首相(当時)、菅官房長官(同)、二階幹事長ら党中央幹部が地元県連の意向を無視して2人目の候補者擁立を強行したために起きた不祥事であり、広島の自民党はむしろ被害者であるかのような主張を一貫して展開した。
また、与党の公明党は、克行被告の地盤であった衆院広島3区に斉藤鉄夫・党副代表を擁立することを決め、自民と調整を済ませていた。再選挙で自民の勝利に貢献すれば、秋までにある衆院選で広島3区の斉藤氏が自民の全面支援を受けられるとの思惑で動いた。

野党陣営は今回、広島の国政選挙で初めて、野党統一候補を実現した。ただ候補の擁立は、自民に遅れること1カ月。4月8日の告示まで1カ月を切っており、出遅れは否めなかった。
候補者は福山市出身の45歳フリーアナウンサー。3人の子を育てるシングルマザーで、長男は重度の発達障害者。「弱者のために働く」と訴えた。
ただ初めての野党統一候補とはいえ、「事実上の統一」と断り書きのつく共闘だった。諸派の政治団体「結集ひろしま」が擁立した候補を、立憲、国民、社民が推薦し、共産は独自に支援する方式をとった。立憲と国民両党の支援組織である労働団体「連合」が、共産党との表立った共闘を拒んだためだと言われている。

2017年の衆院選広島3区でも、共闘をめぐり同じようなことがあった。しかし今回は違った。
県内にある3つの市民連合が候補者と政策協定を結んだだけでなく、市民連合と立憲、社民、新社会(広島の地域政党)、共産の立憲4野党とも政策協定を結んだ。候補者と立憲4野党が、同じ内容の協定を市民連合の仲立ちによって締結する「ブリッジ共闘」が成立した。
結果は、与党候補33万6924票に対し、当選した野党候補は37万860票。その差は3万3936票。共産を含む共闘の力が野党候補の勝因になったことは間違いない。
(写真は「河井疑惑をただす会」の街頭宣伝。選挙中も精力的に取り組まれた)

河井ただす会街宣

保守王国で自民が敗れた背景には、市民連合が野党共闘実現のために果たした役割のほかにも2つの要因があった。
1つは、再選挙の起点となった「河井疑惑」をめぐって検察への告発をはじめ、署名や街頭宣伝、学習会、市民集会、議会傍聴など、休む間もなくタイムリーな活動を続けてきた市民団体「河井疑惑をただす会」の存在である。粘り強く、問題の本質を浮かび上がらせる活動は、市民の共感を広げた。
もう1つは地元紙中国新聞の「決別 金権政治」キャンペーンである。
疑惑が表面化したのは週刊文春の特ダネ記事が発端だったが、その後の疑惑追及キャンペーンは他の紙誌の追随を許さないものがあった。

事件はまだまだ予断を許さない。1億5千万円もの政治資金が党本部から河井陣営に投入されたいきさつは解明されず、現金を受け取った被買収議員らは、まだ何の咎めも受けていない。
最終盤に広島で講演した郷原信郎弁護士は「克行に判決が出たら検察は必ず買収された地方議員も起訴する。これが法律の常識」と断言した。
                            (難波健治)


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