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もう一度、事業会社で新規アプリを立ち上げるなら気をつけたい「七転び」まとめ

Radiotalkという会社の代表の井上(@JD_KAORI)です。2017年に音声配信サービス「Radiotalk」を、当初エキサイトというインターネットサービスを手掛ける会社の新規事業として立ち上げました! が、その後サービスを会社として独立させることで6社の株主に出資いただき、現在は会社経営に回っています。(手法は異なりますが、同様にサービスが事業会社から独立した例でいうとMakuake, SHOWROOM, Mirrativなどがあります)

〜〜このnoteは「モバイルアプリマーケティングアドベントカレンダー2020」の25日目の投稿です。有難いことに Repro岩田さんにお声がけいただき執筆しました。参考になった方はハッシュタグ「 #アプリマーケアドベント 」を付けてシェアをお願いします!〜〜

さて、起業や経営の話は古典も含めて書籍や記事、コミュニティなど聞ける話が多く存在する一方で、「事業会社のイチ新規事業の担当者として新規アプリを生み出す苦しみ」についてはそんなに語られていないかもしれません。

今回のAdvent Calendarでは、1つのアプリを通して「上場企業のイチ新規事業の担当」の目線と「ベンチャー経営者」の目線の双方を持つ境遇の人が珍しそうだったので、これを機に「事業会社で新規事業としてアプリを立ち上げる事になった人」「新たに社内ベンチャー制度を始めたい大手企業の人」向けに新規事業の立ち上げ話を、特に成功話より失敗話をまとめたいと思います。もう一度あの頃に戻ったら同じ轍は踏みたくない...

(※逆に、「起業家」「スタートアップ経営者」にとっては役に立たない話が多いのでご容赦ください...)

ちなみに当時の様子からグロースまでのエピソードはアプリマーケティング研究所さんで語っていますのでご参考にどうぞ↓

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もう一度アプリで新規事業を立ち上げるなら気をつけたい「七転び」

【一転び】最初から「事業単体でのPL」を作ればよかった

(※普通に起業する場合は当然すぎる話なので次の項へどうぞ...)
大手企業にいると、サーバ代をはじめとしたホスティング費用、人件費、地代家賃などについて、会社全体で横断的に発生するので部署ごとにざっくり配賦している(=事業単体のコストが不明)という場合があるかもしれません。場合によっては新規事業には配賦していない、人件費を担当者レベルまで公開していない、ということも。隈なく把握することで血の通った事業計画にできれば、n年後の状態もリアルに描けて、何が足りないのか、何を優先すべきか、解像度がみるみる上がります。私の場合は会社設立して出資を受けようとしたときにようやく初めて気づいたので立ち上げ時点の解像度がカスだったなと今振り返ると思います。

【二転び】公開日、プレスリリースは打たなくてもよかった

たとえば、リリースするタイミングでプレスリリースを打って大々的にマス露出のチャンスを掴むべきか、それともベータ版としてあえてプレスリリースを打たずに小さく出して検証しながら大きくすべきか。

ステークホルダーが少なくプロダクトの改善を重ねられる状態であれば、後者のほうが圧倒的おすすめです。仮説検証の結果、まったく違うプロダクトを目指す可能性を秘めているため、大々的に集客できるクオリティまで作り込む時間がもったいないからです。とてもプレスリリースなど出せない状態でも早く世に出したほうが事業の勝ち筋を見つけるまでスムーズです。

「すでにリリース済みのプロダクトだと、マス露出の機会が減ってしまうから、リリースと同時に大々的にメディアリークしていきたい!」という話もあるかもしれません。それでも、マス露出の機会は「今」でなくても、流通額1億円突破!とか1000万人突入!といったタイミングにも作ろうと思えば作れます。必ずしも世の中に出るときにプレスリリースを打たなければならないわけではないし、保険かけて「ベータ版」としてプレスリリースを出そうとしても、そもそもベータ版いう名前がAppStoreでリジェクトされます(TestFlightでは対応)。どの段階までステルスにするのか計画的に。

【三転び】開発過程をオープンにすればよかった

二転び目のとおり、戦略的にステルスにする場合、「必要だけど最低限の価値検証に必要なわけではない機能」がかなりたくさんあります。
Radiotalkは、最初は「とにかく手軽に音声を配信する体験」に価値があるのか、次いで「配信者に集客力がなくても聴く人がオーガニックで増えるのか」をまず検証しました(=MAUを親玉KPIとして、配信UU・配信件数/UU、次いで再生回数/件、あたりが検証指標になります)。

「Radiotalk」の場合は可能資金が最大1000万円くらいだったので、最初の「手軽に配信する」以外のすべてのもの(「検索」「SNSシェア」「ログイン」)は、リリース時点では見送っています。この場合、機能がないのは「ユーザーにとって必要ない」という理由ではないので、「なんでないんだ!」というネガキャンがSNS上で活性化したことがありました。そこで、ニーズがないからではなく事業都合で開発が見送られているものについては、開発予定を事前にアピールするようにしたことで、ネガキャンは期待や応援に変わっていきました。(当時のユーザーの方ありがとうございます...)

【四転び】週次や月次で振り返る場合、キャッシュ残高も指標に入れておけばよかった

三転び目で、「最初の『手軽に配信する』以外のすべてのものを見送った」話がありました。とはいえ正直なところ、最重要の仮説検証がどれなのかわからなくなることも多々ありました...。
会社を立ち上げてからは、キャッシュ残高(残りの資金)が明確になることで、嫌でも適切なアロケーションの意識が生まれます。(例.あと2ヶ月で資金が切れる!というときに「絶対必要な証明だよね!?!?!?」と言い切れるもの以外を作る気にならない など)

社内企業でキャッシュ残高の概念がないと、継続が決定しているわけではないのに長期目線での重要度を優先してしまい最重要事項の仮説検証が遅れる恐れがあります。「マーケ予算として○○円」みたいな押さえ方ではなく、人件費含めて「総額○○円使える」という状態にしたほうが、タイミングをはずさないアロケーションが考えやすくなりました。

【五転び】そうは言っても「全部やる気概」も必要だった

四転び目で「優先度決めてやっていく」というようなことを書いたのですがそう言ってるうちにチャンスが舞い込んだりトラブルが起きたりクリティカルな課題を発見したり気づきが会ったりアイデアが湧いたりするので、成果が見えることで「超がんばればやれること」であれば計画を無視してでもやり切る気概も時には必要になります。守るべきはスケジュール通りの行動ではなく成果を出すこと。従業員の立場だと「そこまで身を削る?」と言われるかもしれないことも、事業責任者がやり切れるかどうか。成果を出すベンチャーの社長だったら皆やっています。

【六転び】チーム組成からコミットすればよかった

私は幸い会社設立と同時に意思通りのメンバーを誘えましたが、社内起業だと事業責任者が決定するのではなく「アサインされた人々とチームを組んで進める」ということもあるかと思います。もちろん結果的には希望通りのアサインにならないこともありますが、ゆくゆく採用活動を先導することも踏まえてシミュレーションする&意思を伝える努力はしておく必要はありそうです。たとえばこれくらいは提示しておきたいところ......

・すぐ必要なポジションと1年後に必要なポジション(マーケ、BizDev、広報、エンジニア、etc...の人数)
・各ポジションに求めるスキルセット(スキルを証明できる経歴とマインド。それぞれにおいて、どの程度の必要条件が満たせれば良い?)

その際、「社内にいる人から探す」ではなく「事業に必要な人が社内にいればリクエストし、いなければ採用する」つもりで考えるのがおすすめです。以前、エキサイト&株主XTech代表で弊社取締役でもある西條から、「冷蔵庫の中のものを見て料理するのではなく、作りたいメニューに必要なものを調達して」と表現されたことがあります。社内起業だと会社全体での採用戦略もあるので採用の決定権が必ずしも事業責任者にあるわけではないと思いますが、事業の成果は「人」で決まります。サービスは鏡です。妥協せずに。

【七転び】草の根活動はマジでやる(今もやる)

サービス公開前、ユーザーを0人から10人に、10人から50人に、50人から100人に...と増やしていく時期の話です。大手企業で慣れていると、「ユーザー数100人」なんて聞いたら「少な!」と感じると思いますが、新規事業の場合は必ずしも「出せば自然とユーザーが集まる」状態ではありません。最初の草の根活動をナメると本当に閑古鳥が鳴く状態になります!(詳しくは冒頭に挙げたアプリマーケティング研究所の記事に書いていただいています

人数の多い企業にいる場合は起業するより大チャンスです。全社への募集もできるし、あまり話したことのない他部署の人にも話しかけて配信を促すと知らないところで連鎖して広まります。それだけでは足りないので社外にも出向くのですが、最初から裁量があることがわかる名刺にしておくほうが効果的です。ターゲットがたくさんいる場所(例 大学、スクール)に行ったりトークイベントに出向いて楽屋に凸して名刺をばらまく、などができるとコミュニティでバイラルするチャンスが増えます。そしてプロダクトが仕上がる前の継続の仕組みは「全ての配信の感想をツイートする」「全ての配信にいいねする」など極めて地道な活動になります。

が、このあたりはプロダクトと夢中で向き合っていると「苦労」という感じがせず、むしろこれを進んでやる気になれない場合は、サービスに対して何らかのクリティカルな課題があることに自ら気づけていることのリトマス紙とも言えるかもしれません。

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プロダクトを1つ作る意識から、今は音声配信による「トーク」の力で経済圏を生み、文化として発展させる意識に変わりました。成功している社内起業型のサービスはもともと後者のつもりで生まれている印象です。
2021年もきっとまた七転びしますが必ず八起きしてサービスと事業を大きくしていきたいと思います。

<Radiotalkで募集中の職種>
アナリスト:グロース責任者
デザイナー:UIUX/2Dデザイン
エンジニア:サーバサイド(PHP)、iOS(Swift)、Android(Java/Kotlin)
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