見出し画像

多様化する生活者データを俯瞰する

マス化するインターネットが「日本の家庭」にもたらした変化とは?
インターネットが名実ともにマスメディアとなり、個人がパーソナルデータを自己管理できるようになった時代に、ますます個別化する「家庭と暮らし」を、私たちはどのように理解すればいいのでしょうか?

(※本記事は、2016年12月に当社オウンドメディア「データ流通市場の歩き方」に掲載された内容を一部改変の上転載しています。記事内の情報は初出の時点におけるものであり、現在の状況とはそぐわない部分がございますので、ご了承ください。)

インターネットの商用化から30年が経とうとしています。

「言語と国境を越えたコミュニケーション」のできる「不眠不休の情報ネットワーク」が、「無限の知識データベース」として「だれもが表現者になれる時代」の「いつでも、どこにいても快適な」「あなたにぴったりの生活スタイル」を「ストレスや遅延、無駄なコストなしで」探し、見つけ、手に取り、分かち合える。

そんな未来が夢見られていた頃、その最先端で働いてきた技術者たちも、いまではすっかりおじいさん。 ”日本のインターネットの父”村井純氏は、2015年に70歳になったそう。

「昭和」を知らない子供たちが、来年(2019年)から30歳を迎えます。蔓延するフェイクニュース、増えつづける動画広告、嵐のようなヘイトスピーチ。個人情報の流出事故も、ソーシャルメディアの炎上事件も、いまではすっかり日常茶飯事になりました。デジタルネイティブの成長とともに進歩してきた情報社会は、私たちの「暮らし」をどう変えたのでしょう?

(福田千津子・本誌編集部)


だれでも簡単に「私生活」を貯められる?

私たちは日常生活のなかで、知らず知らずのうちにデータを生み出しています。毎食の料理を撮り貯める人も、睡眠時間をスマホアプリで管理する人もいるでしょう。4年ほど前のことですが、顔写真を30年間も撮り続けて、その変遷を2分の動画にまとめ、Youtubeに投稿したアメリカ人男性が話題になりました。(出典)実に11,000枚以上に及ぶ撮影データは、それだけで貴重な資料です。「毎日コツコツ積み重ねる」作業に畏怖の念を禁じ得ません。
その最たるものが日記でしょう。天気や着た衣服、食事のメニュー、面会者、労働時間など、とにかく記録してさえあれば、ふとした時の備忘録として役に立ちます。一つひとつのデータは、個人の一瞬を切りとっただけでも、それを多くの人が積み重ねれば、社会の「動き」を掴むことにも応用できます。
それらは、パーソナルデータと総称されます。少し調べたところ、歴史的には1940年代からPersonal Dataへの関心があるようです。それは1995年に急増したあと、2001年にピークを迎え、その後は2008年にかけて、ゆるやかに低下していきます。

図1:Google N-gram「Personal Data, Personal Information, Personal history, Personal computer」

それ以降は――N-gramにデータがないので、Google Trendsで見ると――、直近10年間で目立った上昇は見られず、横ばいから微減のトレンド(図2)。他方で、Social media(ソーシャルメディア)やFake news(フェイクニュース)が桁違いに伸びています(図3)。

図2:Google Trends「Personal Data, Personal Information, Personal history, Personal computer」
図3:Google Trends「personal Data, fake news, social media, privacy」

生活者の多くは、「暮らしの記録」をさまざまな端末・サービスに蓄積していますが、それらを「パーソナルデータ」として意識的に利用しているひとは、まだまだ増えていないのでしょう。

「身近な暮らし」記録法の歴史

無名の個人が長年かけてコツコツと作り貯めた生活雑記に、なんらかの価値が見出せないか。 こうした考え方は、日本では大正時代の初頭から見られます。鈴木三重吉「綴方教室」(1937)や柳壮悦「民藝運動」、プロレタリア文学など、「ふつうの」人々の「生き方・働き方」を記録し、評価しようとする文化運動です。ふり返れば、紙の「雑誌」だってそのために編集されてきたもの。日本の生活雑誌は、「身近な暮らし」の応援団でした。

時代につれて、記録技術が発達するとともに、保存方法は「執筆」ではなく「撮影」に、「撮影」から「投稿」に、「投稿」から「配信」に変わります。1980年代以降には、ビデオカメラやインスタントフィルムが普及したことで、セルフドキュメンタリーやホームビデオ、家族アルバムなどがひとつの文化として定着します。その早い例に、鈴木志郎康による「15日間」(1980)があるでしょう。映像作家で詩人の作品です。私生活を動画作品にして公表するという意味では、「snapchat」や「showroom」の遠い遠い祖先です。

1990年代には家庭用コンピュータが急速に普及し、「暮らしの記録を簡単に集める」ことを後押ししました。ケータイ電話の普及につれ、個人ホームページや匿名掲示板、プロフィール共有サイトが、生活日誌を「投稿」する場として活用され始めます。

早くも2003年には、「ライフログ」という言葉が学術論文で使われていました(「ライフログビデオのためのコンテキスト推定」(元論文))。2003年から2004年は、日本でも関連サービスが相次いで登場した「ブログ元年」だとも言われる年です。mixi、GREE、Amebaブログがサービスを開始します。

本人の私生活が丸一日インターネット上で生中継された「なすびの部屋」(1998, 日本テレビ)を覚えていますか。これらを先駆すぎる実験例として、それから15年の歳月のなかで、「私生活を公開して(その視聴数に応じた寄付や広告収入で)稼ぐ」ことは、芸術家やジャーナリスト、芸能人だけの特権ではなくなっていくのです。

成熟するソーシャルメディアの需要と供給

2004年には、言わずと知れたFacebookが登場します。Youtubeは2005年、Twitterは2006年とやや遅いですが、それでも10年以上前のこと。2010年にはFacebookのアクティブユーザ数が5億人を突破。2012年にはYoutubeの月間アクティブユーザ数が1,000万人を超えます。ソーシャルメディアは世界的に普及していき、情報端末の主流もパソコンからスマートフォンへと移り変わります。2000年代後半には、日本国内でもソーシャルメディアのデータを用いた学術研究が盛んに。2012年にはNTTデータがTwitterと「データ再販(Data Reseller)」契約を結ぶなど、商用利用も注目され始めます。

やがて、投稿データの利用価値が専門家に知られ始めると、その危険性を訴える声も広がります。Twitter「全Tweet履歴をリクエストする」(2013)の提供や、エドワード・スノーデンによるNSAの個人情報収集の告発と機を同じくするように、オランダの若手記者ショウン・バックルスが、「Data for Sale」(2014)と題して、自身のプロフィール、位置情報、トレーニング記録、予定表、Eメール履歴、オンライン投稿、Web閲覧履歴、購買情報などを公開オークションで競売する企画を行いました。もっとも、ショウン自身も、落札者のThe Next Webも、「個人情報で稼ぐ」つもりはなく、米国IT企業がデータを寡占していく潮流に一石を投じることが狙いだったようですが。

その後もプラットフォーム企業は地球全土に拡大していき、高齢者や児童など、ITリテラシーの低い年齢層にも手にとられるようになります。瞬殺のコルバルト(2016)のように、未成年による意図しない個人情報の漏洩も問題視(?)され、EU一般データ保護規則の採択(2016)など国際外交上の懸念と圧力が高まると、大手IT企業は相次いで、Google Takeout(2016)に代表される「個人ユーザが自身のデータを取得・管理できる機能」を提供するようになりました。

パーソナルデータが「儲かる」という期待の終わり

(今年5月に経営破綻した)ケンブリッジ・アナリティカ社によるFacebookデータの不正な外部持ち出し(2018)が、政治不正疑惑もあって、国際世論に衝撃を与えたことは、みなさんの記憶にも新しいはずです。Facebook社はプライバシー設定の改善と外部業者の厳格な再審査を表明しましたが、この事件は、生活者が企業にデータを喜んで提供する気分をじわじわと委縮させるでしょう。

かたや日本のITベンチャーは、ある種の原理主義に向かっていて、タイムバンク(2018)VALU(2018)のように「個人の可処分時間を直接に取引させる」サービスが登場します。メルカリやBASEといった、個人間決済・配送サービスの急成長は、もはや言わずもがな。また、大まかな見通しとして、2020年頃まではセンサー端末の台数が増え、動画データの流通量が激増し、コンテンツ配信ネットワークがオンライン・トラフィックの70%以上を占有すると言われています(シスコシステムズ合同会社「ゼタバイト時代:トレンドと分析」(2017)より)。

四半世紀近く期待され続けてきた、一般人の創発的なコミュニケーション消費がもてはやされた時代は、いよいよ終わりを迎えるのでしょう。スマートフォンの画面の向こうは、ネット世論に支持された有名人によるコンテンツ配信と、物品や金銭の直接取引と、大予算で作られた映像の共同視聴を行う、「いくつかの閉ざされた公共の場」として統合され、洗練され、健全化していくのでしょう。インターネットが、名実ともにマスメディアになるということです。

あなたにとって「家庭」とは何ですか?

そんな時代にあって、膨大な私生活に関するデータから社会の動きを見渡すことは、簡単なことでではありません。そこで私たち編集部では、「家庭と暮らし」にまつわる調査やデータベース、公開アーカイヴを集め、16区分に分けて整理することを試してみました。この記事では、それぞれに典型的な事例を取りあげ、ごく簡単にではありますが、その分野でどういったデータが生み出されているかを解説します。

多くの調査・統計から共通して見えてくるのは、「家庭」の多様化です。晩婚や非婚により、若者の単身世帯が急増、事実婚も、DINKSも、母子(父子)家庭も、同性カップルも、ルームシェアも、高齢者の独居も珍しくなくなりました。調査テーマにも「単」「独」「個」といった漢字が頻出します。

「一億総中流」(1970年頃)から半世紀(!)が過ぎて、誰もがみんな「好きなことで生きていく」時代に変わったと痛感させられます。「視聴率が取れない」「ベストセラーが出ない」「国民的アイドルがいない」「ファッショントレンドが起きない」……。調べれば調べるほど、よく聞かれる声を裏付けるようなデータが散見されます。止まらない少子高齢化と世代間格差に、「お金の若者離れ」と皮肉る声も散見されます。

「家庭」そのものの意味が薄れつつあるのでしょうか。社会調査の担い手も、「じぶんにとって家庭とは何か?」と考え直すべきなのでしょうか。「あなたは家庭を築いていますか?」と問いかけることは、失礼に当たらないでしょうか。いろいろな疑問が湧いてきます。知るべき情報を見落とし、得られたデータを読み誤ると、時代遅れの「常識」に囚われて、周りから迷惑がられ、非難されて、ついには相手にされなくなってしまう。それは誰もが避けたいことでしょう。

「あなたの暮らし」を確かめ、裏付け、広めてくれるデータ

その一方で、「家庭」という言葉がどんなに変わろうとも、私たちはみな「暮らし」ていかなければなりません。少しでも自分らしく、豊かに暮らしていくために、「私だけの、特別なサービス」を求める意識は高まっています。その人ごとに、必要な情報がちがうのも当然です。

「どうして私だけがこんなにも生きづらいのか」と苦しくなったとき、あるデータが「同じように苦しい人たちがいる」と知らせてくれたら、それだけで小さな救いになります。 「みんなが抱える、無自覚な悩み」をいち早く突き止めれば、他人に先んじて貴重な商機を掴めるでしょう。

データとは記録された事実です。人を傷つける力も、励ます力も併せ持ちます。その意味では、あらゆる調査はジャーナリズムです。「不都合な真実」を埋もれさせないこと、「目を背けたい事実」を直視すること。そのためのセルフチェックを怠っていたら、いくら最新鋭のシステムを取り入れ、最先端の手法を買い揃えたところで、誤解と困惑をかえって助長することになりかねません。

無料の・公開されたデータを見て歩くだけでも、無自覚な「思い込み」や「偏見」に自分が囚われていないか、省みる手がかりになるはずです。ひとつずつ、見て行きましょう。

ROOM NO.1 食事・料理

食生活の調査・分析には多方面からのアプローチがあります。定番の「好きな料理・嫌いな料理」「得意な料理・苦手な料理」はもちろん、「いつ・誰と・1日何回・どこで」食事するのか。なかには「ブリ・サケ・タイを正月・祝い・普段に食べるときの調理法」なんてデータも! 西日本はブリ・タイ、東日本はサケと喫食率が顕著に分かれること、ご存知でしたか? 一方、シリアスなデータもあります。日本で廃棄される食料は「年間約2000万トン。食料全体の26%。約3300万人分の食料、金額にして11兆円に相当。世界の食料援助の総量の約4倍」。食べることが私たちの生活にいかに密接しているか、改めて実感できる分野です。

ROOM NO.2 人口統計・社会調査

日本は世界有数の統計大国です。戦後まもなくから公的統計の整備が進み、長短問わず無数の指標が毎日のように発表されます。政府や自治体、大学、企業のみならず、社団法人や業界団体、シンクタンク、NPO団体など、多くの組織が統計データを作成しています。見ているだけで気分が沈みそうなグラフがあります。ありふれた気づきが羅列されただけの図表もあります。その分、見落としや読み違え、調べ忘れ、誤解、曲解も生じやすいのでしょうが、人口統計には社会のリアルが詰まっています。社会調査は現状認識をコンパクトに伝えます。バズワードが振りまく幻想に囚われず、当たり前の事実を正しく知ることに時間を割きたいものですね。

ROOM NO.3 家計簿と将来設計

誰もがちょっぴり気になる「お隣さんのお財布事情」をまとめます。「平均的な収入って?」「生活費はどれくらい?」「ボーナスはいくら?」「貯蓄額は?」といった調査統計だけでなく、「夫のお小遣いは?」「ヘソクリしている? その額は?」といった意識調査も。一般販売はされていませんが、家計簿アプリや会計ソフトのデータ分析も事例公表が増えてきました。保険業や与信管理など、歴史の古い情報活用分野との合流も期待されます。個人向け商品のマーケティング手法も変わるでしょう。それに、調査結果を有効活用すれば、今まで相方に握られていた財布の紐を取り返せる……かもしれません!?

ROOM NO.4 暮らしの実態・消費者マインド

生活時間調査、可処分時間など消費者の生活実態に関するデータや、物価指数などの消費スコアを収録します。公開情報となるとやはり、政府や自治体、リサーチ会社によるアンケート調査結果が中心ですが、生活や消費に対する消費者意識のいまを探るために、個々人の居室により密着したデータ取得端末の開発が進む分野でもあります。スマホやSNSでの常時接続が定着し、パーソナルデータという新たな情報資産への意識が高まっています。職場と家庭へのスマート製品の浸透、民泊や家事代行といったシェアリングエコノミー、働き方改革などの新たなトレンドに、日本人はどのように対応していくのでしょうか。

ROOM NO.5 家電・電化製品

AIスピーカーをはじめ、次々にスマート化が進む家電業界。省電力型の製品が増加する一方、スマートフォンと連動したリモコン操作やライフログ管理も浸透しはじめ、ベンチャー参入も相次いでいます。かたや、電気ストーブやもちつき機など、時代の変遷とともに統計調査から姿を消していった製品も少なくありません。スマート家電や省エネに対する意識調査やいま売れているアイテム、実際の消費エネルギーは? またリコールや製品安全に関する公共情報なども集めています。

ROOM NO.6 「働き方」の一部始終

夫婦共働きが増え、職場の役割だけでなく、家事・育児も当たり前に分担するなど、勤労世代の暮らし方は変化しています。その中で、どんな不満や不安があり、将来的に何に期待するか。ビジネスチャンスにつながりそうなデータが数多く眠る分野です。働きながら家事も育児もしているワーキングマザーの実態に触れてみてください。全世代で3人に1人以上といわれる非正規労働者の雇用環境を知ってみてください。そのうえで、今後、彼・彼女らを助ける商品やサービスを生み出すことができれば、私たちの暮らしはもっと豊かで快適になるはずです。

ROOM NO.7 ライフスタイル・健康管理

最近、寝不足ではありませんか? まわりに煙草を吸う人はどれくらいいますか? ヨガを始める知り合いが増えていませんか? ライフスタイルにも流行り廃りがあります。余暇・レジャーが健康管理と密に関わるご時世です。データをとってみると、「なるほど」と新たな発見につながります。今という時代の空気を肌感覚でなんとなく察知できます。例えば、「孫疲れ」なんて言葉も生まれる昨今、「老後、体が弱ってきて、配偶者がいないとき」に「息子または娘夫婦と同居したい」と考える人は増えているのか、減っているのか。東京ガス・都市生活研究所が21年にわたって続けた定期調査で分かります。中長期のデータ蓄積が価値となる分野です。

ROOM NO.8 ファッション・着こなし

2016年度家計調査によると、被服及び履物の平均支出額は1ヶ月に10,878円。前年比名目4.3%、実質6.0%減少しています。他方で、フリマアプリやリメイクなど、「新調」以外にファッションを楽しむ手段は活況。コスプレ衣装の市場規模も435億円規模に達します。アパレルや宝飾品、時計などの国内外市場動向と併せて、研究・教育機関等が保有するファッション史のデータベース等を集めました。「手持ちの衣類や体型のデータをいちいち入力する手間」が課題ですが、Think with Google「Fashion」カテゴリに象徴されるように、スマホカメラやSNS、EC、ニュースアプリ、VR端末、クローゼットや衣服それ自体も新たなデータ源となることでしょう。

ROOM NO.9 住まいの設備

2009年から2016年の8年でシューズクローク(土間収納)設置率が倍増、いまや74%の新築物件に設えられる一方、和室・畳コーナーを設ける物件も増えているとか。働き方改革やイクメンの定着、趣味の多様化といったライフスタイルの変化、また防犯意識の高まりや住まいのスマート化によって、設備に求められる機能も進化を続けています。不動産サイトのビッグデータ分析をふまえた「理想の家」も登場し、住まいづくりのプロセスにも変化が見られます。人気の設備や防犯カメラ等に対する意識調査、住宅整備、住宅建設、建築費用、地価や流通物件の動向など、住まいの設備に関わるデータを集めています。

ROOM NO.10 家族の制度・生活史(ゆりかごから墓場まで)

家族という制度そのものが揺らいでいる昨今、私たちが早急に取り組むべき課題は何でしょうか。ひとり親、家庭内暴力、児童養護施設、養子縁組、生活保障、高齢者住宅、老人ホーム、介護施設……。重苦しい用語が並びますが、現実から目をそらさないことから始めたいものです。基本統計を頭に入れるだけでは事足りません。「少子化に関する国際意識調査」によれば、交際相手との出会いを求めるとき、日本を含め各国とも「友人に紹介を頼む」が最も高いよう。なんだか和んでしまいますね。社会課題は、その国の文化と切っても切り離せないのです。だからこそ、社会統計や意識調査だけでなく、行動データの蓄積が求められる分野でしょう。

ROOM NO.11 ソーシャルネットワーク・パーソナルボイス

モバイル端末保有率が95%に迫り、SNS利用が71%を超えるなか、情報メディアの利用目的である「コミュニケーション」のあり方が大きな変化を遂げています。対話の相手が企業や政府、社会全体にさえ広がりを持ちうる一方、オフラインの関係に基づくパーソナルなやり取りの密度も、かなりの部分がSNSに影響を受けている模様。マス・マーケティングのあり方も、報道メディア向けのメッセージ発信に終始してはいられず、インターネット上のおしゃべりへの参加と傾聴が欠かせなくなりました。通信手段が進歩するにつれて変わる、社会、家族、個人のコミュニケーションに関する調査データなどを集めています。

ROOM NO.12 自宅で育てる動植物

見ているだけで癒されるデータが満載です。「犬の品種ランキング1位はトイ・プードル、猫の1位はスコティッシュ・フォールド、人気の観葉植物1位はサボテン」「ガーデニング・家庭菜園の関心度が高い都道府県の1位は島根県」など雑談のネタにもなる統計から、「20代男性のおよそ4人に1人は家でグリーンカーテンを作ったことがある」「男性は外で“庭仕事”に凝り、女性は手軽に観葉植物やベランダガーデニング」といった属性調査も。酪農業のIT化やスマートホーム製品の普及、生態学や遺伝子工学など隣接分野の技術革新が波及するにつれて、今後、新たに取得できるデータの充実も期待される分野です。

ROOM NO.13 冠婚葬祭・年中行事

冠婚葬祭や年中行事に対する意識調査に加え、文化財や観光資源に関するデータも収録します。ライフイベントや季節の催事は、昔から個人の消費生活を大きく変えるものとして重要視されてきました。昨今では、核家族化、少子高齢化で存続が危ぶまれる、地域の伝統行事。お中元・お歳暮や年賀状といった古くからの習慣が漸減する一方、インバウンド需要やシビックテックを端緒とした地域愛ムーブメントをきっかけに、郷里の風習やお祭りが見つめ直されることも少なくないよう。恵方巻きやイースターエッグ、ハロウィーンなど新たなハレ消費が普及する一方、いちばん大切なイベントは交際や結婚記念日だったりと、パーソナル化傾向も見られます。

ROOM NO.14 じぶん磨き・身の回り品

平均寿命100年時代の訪れが現実味を帯び、終身雇用だけに依存した人生設計の限界も見えてきました。労働過多だと言われつつ、余暇時間は増加傾向。残業抑制の本格化で、「趣味の時間」の増加も見込まれます。副業推奨により本業へのフィードバックを狙う企業もちらほら。戦後の経済成長と都市化の進展により、血縁や居住地、職業による制約が弱まったことで、「自分」が主語のライフプランが容易になった分、現代人はより長く、より細かな目で「私」の差別化を迫られることになりました。情報流通の国際化が進むなか、人々はどのように心身の健康を保ち、美しさを磨いているのか。自己研鑽や趣味、美容、所持品に関するデータを集めます。

ROOM NO.15 家具・インテリア

室内にある、暮らしに必要な家具・家財のデータを集めます。例えば、日本家具産業振興会の統計は、国別の家具輸出入データや国内家具出荷額などが確認できます。「家具企業要覧」(東洋ファニチャーリサーチ)は、業界唯一の本格的なランキング誌です。この他、家具や住宅素材の3Dデータのダウンロードができるサービスも増えているようです。公開情報には、利用者(ユーザー)よりも提供者(メーカー)のデータが多いよう。一度買ったら、長いあいだ使い続ける商品であるだけに、利用者に関する長期の詳細なデータに需要が集まるであろう分野でしょうか。

ROOM NO.16 家庭の医学・科学

2015年度診療報酬改定により、大病院受診のハードルが上がり、セルフメディケーション制度も導入されるなど、医療費抑制へ向けた取組みが進んでいます。人生100年時代、医療や健康は与えられるものから、生活者一人ひとりが自己責任で守るべき存在へと変貌を遂げるのかもしれません。 人気テレビ番組の健康レシピ、症状・薬効から検索できる市販薬データベース、在宅医検索サービスなどのすぐに役立つデータや、毎週更新される地域別感染症発生件数など、家庭の医学に関するデータを集めました。また、自宅で試せる科学実験集も掲載しています。データポータビリティの権利が、日本でもこれから盛んに議論されるだろう分野です。

「生活調査」は、ほとんど再利用されていない

こうしている間にも、世界中のあちこちで「暮らし」に関するデータがどんどん生まれています。それら一つひとつをいかに効率よく探し出し、玉石混交を見極め、根気よく向き合い、忘れずに保存しておき、鋭いアイデアを導き出す助けとするか。
どこまでの作業が自動化できて、どこから先は人の目で判断しなければならないか。「自然に集まる」仕組みづくりと、「無理なく続く」習慣づくりを、暮らしのなかにどう取り入れるか。 当然ながら、重宝されるデータは時代とともに変わります。「分類法」も「整理学」も、その都度、新しく変わっていかなければなりません。
理想をいえば、複数の視点に立って、多種多彩なデータを規則正しく取って、根気よく世の中に問い続けたいものです。「あなたの好きな調味料は何ですか?」といったニッチな質問でも、5年や10年も投げかけ続ければ、生活トレンドを推し測るための立派な資料になります。
もっとも、運動不足の解消にも似て、言うは易く行うは難し。残念ながら、過去に注目された統計が、再び日の目を見ることは、さほど多くはありません。多大な時間と費用をかけて行われた調査は、公表直後こそ社内会議や外部メディアで話題にされますが、ほとんどがすぐに忘れ去られてしまう。
一つ一つのデータを「そのとき限りのもの」で終わらせないためには、 “必要なときに必要なデータだけ簡単に”取り出せる仕組みが欠かせません。コラムやブログ、リリースを定期的に発表できる企業は、通常業務に「データの流れ」を組み込んでいます。だけど、忙しい日々のなかで、あらゆる法人が自前でそれを築き上げるのは簡単なことではありません。実のところ、編集部で手分けして事例を集め、分類を考え、整理する作業は、けっこうな重労働でした。
似たような仕事が、いまの日本各地の職場で行われているのだとしたら、二度手間どころの話ではありません。人手不足がいつ終わるとも知れないなかで、「探して、調べて、まとめる業務」は、なるべく集約し、効率化したいものです。
そこで、日本データ取引所では、多忙な企業担当者の代理人として、社内に埋もれた情報を、社外に散らばるデータを、気軽にまとめられるサービスを準備しています。次の記事が公開される頃には、もう少し詳しくお伝えできればと思います。

参考データ・事例集

参考データ・事例集を作成しました。こちらからご覧いただけます。