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化学素材業界に迫る『2025年の崖』JDSCが注目する課題と打ち手とは?

はじめに

製造業GDPの2割を占める化学素材業界。半導体原料などで国際競争力を有するこの業界ですが、IT人材不足やレガシーシステムの残存がDXを妨げる『2025年の崖』に直面しています。
今回は、当社DXソリューション事業部マネージャー 高市、データサイエンティストの和田と鈴木、人材育成コーディネーター 宝、コンサルタント 髙木の5名に、それぞれが考える業界の課題と解決策についてインタビューしました。課題に対しJDSCはどうアプローチするのか。JDSCだからこそ実現できる取り組みについて詳しくお話します。



登場人物プロフィール

高市 賢志
マネージャー。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。製紙メーカーの日本製紙株式会社にて新素材の研究開発に従事し、基礎研究、用途開発、製造、サポート等を幅広く経験。20件程度の特許を出願。その後、日本アイ・ビー・エム株式会社、デロイトトーマツコンサルティング合同会社にて化学素材業界を中心に新事業の立上げや業務改革の支援に従事。JDSCでは製造業を中心にDX案件を担当。

和田 準平
データサイエンティスト。九州大学大学院機械工学専攻修了。新卒でプラントエンジニアリングメーカーに入社し、機械設計・製造業務に従事。その後データサイエンティストに転身し、異常検知や需要予測等の社内向けDXプロジェクトを複数経験。2022年よりJDSCに参画、機械設計、製造の経験を生かし、主に製造業におけるプロジェクトを担当。

鈴木 徳馬
データサイエンティスト。東京大学大学院経済学研究科修了。三菱UFJトラスト投資工学研究所にて、自然言語処理を活用した金融ニュースの研究や機械学習モデルに基づく投資戦略・新規事業開発に従事​。JDSCでは製造業を中心に機械学習モデル開発だけでなく、人材育成、データ基盤構築など幅広く推進。

宝 政樹
人材育成コーディネーター。山口大学経済学部卒。公教育を経験したあと DX に関わる AI 人材の育成支援事業に従事。述べ 1,000 名の受講者にデータサイエンス、機械学習、をはじめDX関連の数多くの研修を実施。Microsoft Certified AI Engineer, Trainer。UNIR 大学院教育テクノロジー・デジタルスキル専攻にて EdTech の導入方法やデータを活用した教育の最適化「アダプティブラーニング」を研究中。

髙木 三矢
コンサルタント。慶應義塾大学法学部卒。総合化学メーカーの東ソー株式会社にて、事業企画として原料調達、生産計画の策定、事業部の損益計算、新規外部基地の起用&オペレーション等の幅広い業務に従事。また国内営業も担当し、原料調達~製品販売までのサプライチェーンを横断した業務を経験。JDSCでは、物流領域におけるAIプロダクトの導入やDXプロジェクトの支援などに係るテーマに従事。


化学素材業界が抱えるDX課題

ー『2025年の崖※』 が取り沙汰されて久しいですが、製造業、特に化学素材業界におけるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)は進展しているのでしょうか?

(高市)
各社ごとに取り組み状況はさまざまです。DXが進展している会社は社外のリソースをうまく活用しながらDXに取り組んでいるように見受けられます。例えば旭化成や三井化学では外部から招聘したデジタルのエキスパートがリードしてDXを推進していたり、住友化学では外資系コンサルティングファームであるアクセンチュアと合弁会社を設立してDXを推進したりしています。

一方で、DXが経営アジェンダの優先トピックではないために取り組みが進んでいない会社や、DXに取り組んでいるもののあまり成果が得られていない会社も少なからずあるように思います。

※2025年の崖:経済産業省 DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

ー 化学素材業界でDXが上手くいかないケースでは、何が原因となっているのでしょうか?

(髙木)
デジタル人材不足、システムの細分化、投資の冷え込みが原因と考えています。

化学素材業界では、開発や営業などをこれまで属人的に進めてきた背景があり、業務が標準化されていないこと、システム開発をシステム子会社等に委託して進めてきた経緯があることから、全社的にDXリテラシーが低く、社内でDXを進められる人材も不足しています。

また、前述の属人的な環境下では個別のシステムが乱立し細分化してしまっていることもDXが進めづらい原因と考えています。加えて、足元ではVUCAと言われる不確実で変動の激しい時代に突入したことで、思い切った投資に踏み切りにくいこともDXが進まない原因の一つだと考えています。

ー こうした問題にどのように取り組むべきでしょうか?

(高市)
DXを成功させるには、大きなシナリオを描きつつ、実行は早く小さく始め(弊社ではよく「QuickWin」と呼んでいます)、徐々に拡大していくアプローチが適していると考えています。

成功体験を積み重ねることで、それが会社全体のDXを進める大きな力になります。このプロセスを進める中で、DXを推進する人材を育成し、会社全体のDXリテラシーを向上させることができれば、自社で柔軟にDXに取り組める風土が醸成されると考えています。

高市 賢志

JDSCが注目する課題と打ち手

ー JDSCとして注目している化学素材業界の課題は何があるのでしょうか?またその解決策についても教えてください。

(高市)
化学素材業界では、顧客要求の高まりと技術進化に伴い、高性能な素材の開発が急務となっています。

これらの素材は、自動車、電子機器、包装材料など、さまざまな用途に適用されるため、性能のみならず環境配慮などの多面的な要件を満たす必要があります。新素材の開発は、原材料の選定から配合、製造プロセスの設計に至るまで、複雑な検証作業を要求されます。特に、製品の品質と性能を決定づける材料組成や工程条件の最適化には、大量の実験データと高度な分析が不可欠であり、これが研究開発の時間とコストを増大させる一因となっています。また、2050年のネットゼロ達成に向けて、製造プロセスの環境負荷低減やリサイクル可能な素材の開発も業界にとっての大きな課題です。

これらの要求に応えるためには、従来の属人的な研究開発手法だけでなく、材料科学における最新の技術やデータ駆動型アプローチの採用が求められています。

(鈴木)
化学素材業界の研究開発においては、特に二つのアプローチが重要だと思います。

1つは、用途探索へのアプローチです。企業は従来からの研究データや公開特許情報を活用して新たな用途を探索してきました。特に特許情報の分析によって作成されるパテントマップは、技術開発の方向性を定める上で貴重なツールとなっています。しかしこのプロセスは従来多大な労力を要し、主観的な解釈によるバイアスがかかるリスクも伴います。この問題に対処するため、最先端の自然言語処理技術の応用が有効だと考えています。自然言語処理技術の活用によって大量のテキストデータから迅速かつ多角的な分析を行うことが可能になります。これにより、事業部やR&Dでのデータドリブンの戦略立案アプローチが可能となり、イノベーションの加速が期待できます。実務に直接データサイエンスが役立つ代表的なユースケースではないでしょうか。

もう1つは、開発プロセス自体の改革です。高市さんが仰るように、化学素材業界における製品開発プロセスは、初期のラボレベルから最終的な量産段階に至るまで徐々にスケールアップしていく必要があり、各段階での広範な試行錯誤が必須です。これらのプロセスは、研究者の豊富な経験や暗黙の知識に強く依存していることが一般的でしょう。しかし、マテリアルインフォマティクスやプロセスインフォマティクスの進展により、これらの開発プロセスが大きく変わる可能性があると思います。

例えば、過去の失敗を含む研究開発データをもとに、原材料の配合比や製造プロセスの条件から製品の物性を予測するモデルを構築することが可能になります。これにより、顧客の要望に応える特定の物性を持つ素材を開発するために必要な原材料の配合や最適な製造プロセスを、より迅速かつ精度高く特定できるようになるでしょう。さらに、これらのモデルを利用することで、配合比やプロセス条件の微細な変更が製品の物性にどのような影響を及ぼすかを事前にシミュレーションし、試作の回数を削減することができます。

機械学習を活用することで、研究開発の過程で培われた知識とノウハウを明示的に表現し共有することが容易になり、組織全体での研究開発の加速が期待出来ると思います。

鈴木 徳馬

(和田)
トップラインを下支えするという観点では、製造と物流の安定化にも注目しています。

製造業全般に言えることですが、製造ラインの安定稼働は製品品質や生産性の向上に直結する重要な課題であると思います。特に、化学素材業界の製造ラインは老朽化が進んでいるものも多く、設備トラブルを未然に防ぐ取り組みは今後ますます重要度が増してくると思います。

設備稼働を通じて得られる、例えば運転時間や動作回数・頻度などのデータを活用した異常予兆検知や余寿命推定による予知保全・メンテナンス最適化については我々も非常に注目していますし、まさにこれから取り組みを始めようとしているところです。

和田 準平

(髙木)
物流安定化の検討領域の1つとして倉庫管理が挙げられます。需要波動や定期修理等の設備メンテナンス期間に対応するためには、適切な保管能力の確保が重要です。

一方で、化学品は消防法等の法規制の考慮が必要であり、他の商材に比べて管理上の制約があります。法規制分類によっては、同じ保管面積でも保管可能な製品とそうでない製品があり、保管可能な数量も異なります。製品の組み合わせによって保管能力が変動するため、最適な倉庫と製品の組み合わせが分かりづらいというのが、化学品の特徴です。こうした化学品特有の倉庫管理に対応するためには、保管効率を最適化し、かつかかるコストを最小化する必要があります。

我々は、社会一般に流通している倉庫内の最適製品配置ソリューションを派生させ、工場や倉庫間の最適製品配置のソリューションを活用することが、上記の課題解決の一助になると考えています。そのためには、製品ごとの法規制分類、倉庫ごとの法規制対応状況、該当製品を輸送可能な手段等の情報が必要です。

JDSCのプラットフォーマーとしての力によって、メーカー間やメーカーと物流企業間の情報共有や協力を促進し、課題解決に貢献できると考えています。

髙木 三矢

(高市)
また、デジタル人材の育成とDXリテラシー向上にも注目しています。冒頭に申し上げたように、DXが進んでいない会社で苦労されている課題であり、これまでにご紹介してきたDXの取組を定着させるうえでも重要と考える領域となります。

(宝)
現在、ほとんどの企業が直面している課題は、DXを実現するための人材(以下、DX人材)の確保と全社的なDXリテラシーの向上です。経済産業省の報告によると、2030年には80万人ものIT人材が不足し、その平均年齢も上昇して高齢化が進む見通しであり、人材育成が急務です。また、人材を育成・確保できたとしても、DXを実現するためには組織全体でDXリテラシーを向上させる必要があります。

DX人材を育成しても、組織内のDXリテラシーが不十分であれば、貴重な人材が流出してしまうかもしれません。逆に、DXリテラシーは高くても、DX人材がいなければ、企業のDX化は停滞してしまいます。

JDSCは、コンサルタント、データサイエンティスト、人材育成コーディネーターが連携し、企業全体のDXリテラシー向上とDX人材の育成、さらにはDX人材活用のための組織改革にもアプローチしています。

具体的なアプローチとしては、まずコンサルタントと人材育成コーディネーターが組織の人的資源に関する現状をヒアリングし、育成に必要な要素を整理します。これに基づいて実際の教育を始めていきます。

全社的にDXリテラシーを向上させるため、e-Learningの受講を通じてこれを図りつつ、DX人材を育成するための伴走型教育を、弊社データサイエンティストが支援します。またこれらの教育と同時に、人材育成コーディネーターは育成の成果を持続させるため、社内でDX人材を効率的に内製化できる育成エコシステムも整備しています。最後に定着に向けて、コンサルタントを中心に人事部や各事業部とも連携してDX人材のスキル可視化を行い、DXプロジェクトへの適材適所のアサインや、人事制度や採用戦略の改善にも取り組みます。

このように、DXに不可欠な人材と環境を確実に整えつつ、会社全体のDXを推進することができるのは、それぞれのスペシャリストが連携しているJDSCだからこそ成し遂げられると考えています。

宝 政樹

さいごに

(高市)
化学素材業界のDX取組状況は各社でまちまちですが、取組が進みづらい企業ではDXに関するヒト、モノ(システム)、カネに起因する課題を抱えていると考えています。それに対して当社は、化学素材業界特有の商習慣やプロセスを考慮し、R&D、製造、営業、物流、人材育成等の様々な観点でソリューションをご提供できるように日々研鑽しております。ご興味のあるテーマや、自社で解決が難しいDX課題がございましたら、ぜひ当社にご連絡ください。

仲間募集!

JDSCでは、コンサルタント、データサイエンティスト、エンジニアが三位一体となり「UPGRADE JAPAN」を推進しています。

化学素材業界の課題解決に臨みたいコンサルタント、自然言語処理やマテリアルインフォマティクス、プロセスインフォマティクスに取り組みたいデータサイエンティストやエンジニアなど、一緒に働いてくれる仲間を積極的に募集していますので、ご興味をお持ちいただいた方はぜひカジュアル面談でお会いしましょう!


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