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描いて聴く、インタビュー x ファシリテーショングラフィックの活用

🦌🎄Research Advent Calendar 2023 15日目の記事です🎅⭐️

15日目と言いながら今日は12月18日です🙇‍♂️こんにちは、マネーフォワードでデザインマネージャーをしているジーラムです。

マネーフォワードでデザインマネージャーをしているジーラムです。2023年はResearch through Design(デザインを通じたリサーチ)を考える機会が増え、京都のイベントにも登壇させていただきました。ありがとうございました。

この記事ではResearch through Designのひとつとして、インタビューとファシリテーショングラフィックの活用について書きます。

デザイン以外でも、あらゆる「聴く」機会のある方々(例えば、ミーティング、コンサルテーション、業務コミュニケーション、カウンセリングなど)、興味を持たれた方々に読んでもらえたらと思います。

(追記)描くことで捉える問題の複雑性や解像感を下げたり、バイアスが働くリスクもある点をご指摘いただきました。私としても同感であり、せっかくなので気になる箇所はリライトしつつ本文を再考しています。ご注意のうえ有効な手立てにできそうな場合にご活用ください。


描くインタビューとは?

インタビューというと一般には「聴く」インプットの機会であり、「描く」アウトプットとは遠い印象を持つ人がほとんどでしょう。しかし、聴いたことをうまくその場に描き出すことで、より「聴く」ことができるかもしれません。

相手を描いて聴く。目の前に描かれた内容が、相手自身の表現を捉え、その周辺に広げたり、より深く掘り下げる。相手とその関わり、思考や行動から、感情が醸しだす。私はインタビューとファシリテーショングラフィックにそんな可能性があると思っています。

描くことをあくまで活かすため、キレイに描く話ではありません。これ以降で『棒人間』以上にキレイな絵は要求しません(ほんとに)

逆に視覚的に表すこと、キレイに描こうとすることで結果へのバイアスが生じる懸念があります。“相手を描く”前提として、相手への配慮や発言の安全性といったリスクもあります。全てのインタビューに有効な方法ではなく、補助的なものであることをご了解ください。

描いて聴くGOOD & BAD

ファシリテーショングラフィック(以降ファシグラ)は、議論や対話を描くことでファシリテーションに活かす手段です。記録、レコーディングとは異なり、主はファシリテーションにあります。

こちらの書籍も分かりやすく参考になります。

本記事の「描いて聴く」とは、インタビューで聴いたことをリアルタイムで描くものとしています。ファシグラのエッセンスをインタビューにうまく取り込むことで、以下のようなGOOD/BADがあると考えています。

  • 話が可視化され、スピーディに確かめることができる

    • 意味やニュアンスの違いを限られた時間で確認できる

  • 議論の構造ごと可視化でき、話題と進行具合がわかりやすい

  • 相手のことや関わりを聴きながら広げたり深ぼっていける

    • デプスインタビューとの相性がいい

一方で、インタビューの阻害要因になるような、BADなリスクもあります。

  • 視覚優位で伝えたつもりになりやすい

    • 話し手の誘導や偏りにつながってしまう懸念がある

    • 分かりやすく断定的に捉え、問題の複雑性や描かれないニュアンスが残る可能性が高い
      ※ゆえに潜在性や複雑性の高い課題把握には向かないかもしれません

  • 不用意に描かれると話しづらい

    • 描き出される内容の共有範囲や利活用に抵抗や不安が生じる

    • 複数の人がいると関係性から本音が出せなくなる

  • 描くことに凝りはじめてしまう

    • 相手を聴くインタビューでなくなる

    • 相手との時間を描くこと費やしてしまう

インタビューが成功しなければ、元も子もありません。難しいことを無理に強いることもありません。描くことはファシリテーションの手段のひとつ。インタビューの主役は相手。それらを念頭に、よいインタビューになるよう準備しましょう。

前提にしたい2点

インタビューとしていただいた時間の中で、相手が話しやすい(自己表現しやすい)状況・場をつくる必要があります。準備の詳細は割愛しますが、「描く」なら導入時点でこれらの前提を踏まえておきましょう。

前提1. 相手の納得や同意がある

「インタビューをはじめます!ご趣味は。」では、人によって引いてしまいます💦相手もなんの理由もなく自己開示してくれません。

通常のインタビューと同じように、目的と情報の活用、廃棄も含む管理方法の説明はもちろんのこと。描けば、複雑な関わりやネガも含む意見、ニュアンスといった見えないものを可視化する可能性があります。なぜわざわざ描くのか?理由を伝え、納得や同意のある状態をつくりましょう。

前提2. 相手から話せる

ギリギリまでディスプレイに向かって質問票やコンセプト案、プロトタイプ、ボードを作り込んで、相手が話す余白を埋めてしまうことがあります🧑‍💻

これも通常のインタビューと同じですが、相手にとって余白のある、相手の話しやすい話題提供や文脈に沿った問いかけができるよう備えましょう。ファシグラとしても、相手を起点に描きはじめることがスムーズに思います。

1. みている視界を照らす

早速インタビューを通じて描き始めてみましょう。過程を単純化してお伝えします。

主語は基本的にインタビューを受ける相手(インタビュイー)、はじまりは相手の視点を想像して、相手にとって答えやすいことから聴いてみましょう👀

“相手にとって答えやすいこと”とは、なんでしょうか?それは相手の日常や関心ごとなど、既にみているもの、視界にあるものです。例えば、こんな問いが考えられます。

「どんなお仕事をしていますか?」
「普段は何をみていますか?」
「どんな人と関わっていますか?」

要点はできるだけその瞬間に記録します。相手の発話にうなづきやリアクションをしながら、目に見える形で記録できるとよいでしょう。

こんにちは、棒人間です。描ける気になってきましたね。

聴くためなので、あまりこだわって描かないように気をつけます。どちらかというと聴くことに集中しましょう。事前に調べたうえで質問できると、よりベターでしょう。

2. 誰かがついてくる

2つ目にしてホラー映画のキャッチのような見出しですみません😅

相手のみている視界を聴いていくと、やがてそこに関わる他者がついてきます。

「誰と一緒に動いてるんですか?」
「この方にはどんなふうに相談しますか?」

人間社会に生きている以上、他者との関係性のなかで人格を演じ、使い分けていると思います。重要な他者との関わりを描くことで、相手の人物像がより相対的に明らかになるでしょう。

相手が誰とどう関わっている聴きましょう。

これは持論ですが、ここで人を感情的に描かないほうがいいと思っています。ドラマの関係図ではキャラクターが表情豊かに描かれます。しかし、現実の人間は誰でもその時々の状況(関わる相手や物事)によって、様々な感情を持ちます。表情のない棒人間でむしろOK。関係性や関わりを描くなかで、自然と感情が醸し出すような作図を求めます。

3. 行動や思考を描く

他者との関わりを描けば、そこから相手の「行動」や「思考」がより詳しく聴きやすくなるかもしれません🚶

「その人と作業したあとはどこに進みますか?」
「その時間で1日のどれぐらいの時間を使いますか?」
「だいたいどのぐらいの比重で考えていますか?」

描くことのメリットとして、デプスインタビューよりもみえないことを明文的に示せる点があります。相手の会話に任せながら、文脈的に周辺を拡げたり、要点を掘り下げるように描けるとベターです。

描くことも少し複雑さを増します。脳内マップやフローチャートなど、簡素な表現方法で程度を知ることもよいでしょう。

みえないことも描けば聴けます。

また、描く内容が複雑になるほど、記録することに必死になりやすいです。時間もかけないように。インタビューする相手を見失わないようにしましょう。

4. 世界を俯瞰する

様々な人や関わりを描いていくと、徐々に関係図っぽくなっていきます。しかし、はじめから予測して全体を描いていたわけではなく、観点の偏りや不足が生じている可能性があります。

拡がりや深まりが進んだら、時折その中心となる相手に立ち戻り、俯瞰を促してみましょう。

「他に影響を受けている方はいますか?」
「全体で描けていない関わりはありませんか?」
「前提になっていることなどありますか?」

世界の影に光を当てるよう問いかけます。
もしかしたら、まだ描けていない場所や描いている向きの反対側に、自己の責任や関係性、配慮など、何か言いづらい相手のペインが潜んでいるかもしれません。

描けば、聴けていない場所が分かりやすいかも?

責任感や恥のメンタリティから、当然のように「言わない」場合も多くあります。秘匿なことは言えません。インタビューとしては、行動や思考につながる要因を聴けたら十分。深掘りを目的にしてしまい、それ自体をおもしろがったり、相手の抵抗感を無視して聴き過ぎないよう注意しましょう。

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ここまでで描く過程の説明は終了です。ただ、実際のインタビューはより複雑で、右往左往しながら描き出すことが多いです。

以下に流れの一例を示します(背後のグラフィックはボカしてます。)が、インタビューはケースバイケース。過程を倣うことはせず、インタビューの過程で特に分からない、みえない要点を描いて確かめるぐらいが役に立つと思います。

一人の業務理解と関係を描いた例

分かってくれることの価値

ファシグラはあくまで補助的な手段であり、実施も通常のインタビューより難しくなります。自分でもケースは多くありませんが、相手が自らを伝えようと貢献的、協力的なほど、描くことが強力に働くよう感じます。

なぜ強力なのか?というと、より相手の表現の代弁になるからだと考えます。「分かってくれた」「分かろうとしてくれる」自分が何かを伝えようとするとき、自分以上に聞き手が分かろうとしてくれたら嬉しいです。そうなるには前述した前提が必要です。

描くことを通じて、聴く。
相手とその関わり、思考や行動から、感情を醸す。

何か活用できそうな場所はありましたか?
ひとつの可能性として捉えてもらえたら幸いです。


以降の内容もお楽しみに!


もし、サポートいただけるほどの何かが与えられるなら、近い分野で思索にふけり、また違う何かを書いてみたいと思います。