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一閃/Contemplation (詩)

一閃/Contemplation  丸田洋渡


真実は、見せかけの真実が流す害に見合うだけの益を、世の中にもたらさない。────ラ・ロシュフーコー

○ 

血で夜景のように頭が重い
点滅 全速力で解読を試みる
倒れている彼は走馬灯を見ている
彼の走馬灯が外から見える
彼がいま見ている走馬灯を見ている
彼の脳がプラネタリウムになって
星とその人生にまつわる映像が光る
殺人の動機が
脳由来のプラネタリウムなんて
魅力的 

○ 

一つのテーブルに対して五人が座る
四でも九でもなく五という数は特別で
彼らにとって幸福そのものだった 

氷と同じように、光が空中で固結する
五人は息をのむ
そして彼らは順番に死ぬことになる
それは直感として全員にもたらされた

閃きとは確率の問題ではなく
知性の問題でもなく
ただひとえに
光の問題 

○ 

その先でもその後でもなく、今それ自身に対して効力を持つもの。彼らはお互いに信仰しあっていたが、誰もが、信仰という行為自体を信仰していた。今も祈りを祈っている。  

○ 

一度操縦席の鏡にうつった自分の顔を見ると、おれは目と口でほほえんでいた。やがて鏡から目をそらしたときも、まだほほえみ続けているのがわかった。なぜっておれにはそう感じられたからさ。────ロアルド・ダール「彼らは年をとらない」 

○ 

彼が光でできていれば
返り血ももちろん光で
酒ももちろん光で?
光で酔うことだって可能
眩しい服を着て
街へ飛びだす 

そのころ
この都市で一番大きなスクリーンが
光で爆発する 

○ 

空は金縛り 傍目で見ながら
無理はしないでとあなたが言う
無理はしていない
最初から 

ひとつ 空想上の像に
斜めに光が当たって
斜めに影が伸びる
簡易的な日時計になり
時間が分かるようになっている
その像に天秤を持たせ
私は善を計る
しかし光はいつでも重く
何を置いても天秤は光の方へ傾いた
像は微笑んだまま 

こうなることも予想済みで
初めから微笑みを彫っていた私は
酔いの中で彫刻の方法について復習する 

○ 

ひとつの閃きが、忽ち脳を占領する。 

○ 

沸騰の直前で火を止める 

地球の回転に合わせて移動する
意志とともにある臓器
肺や胃が宙吊りになったまま
私は私の内部で私を吊っている
公園がぶらんこを揺らしているように 

○ 

赤子のような熱に浮かされ
電球のような発見をする
(光と闇は二つで一つだと
光あるところに闇があり
全き光は純に光のみである
ここまではよく言われていることで)
彼はそうは思わなかった
完全な闇 それは完全な光ということでもある
言葉上かもしれないが
初めから 対立するものではなく
同じもののことを言っていると
Prism 手のひらの上で光/闇をころがす 

そして彼は背後から迫る凶刃に
気づくことが出来た 

○ 

物から言葉が離れると物が残る
物から物が離れると…… 

そろそろ帰って貰えないか
彼が切り出すと
怖いんだと一人が言う
僕から僕が離れるのが
彼はひとしきり笑ったあとで考える
窓から射す光
光が剥離した光がこんなにも明るいのに
何を不安に思うことがあるのか
私たちはもともと、私たち自身ではないのに
どうして忘れてしまったのか 

○ 

日傘を少し傾けて
太陽の火災を見る
昨日の雨がまだ傘に残っていて
光りながら水滴が落ちる 

ある一人は死因をとても大事にした
彼は不満だった
死んでしまった人の
その死への傾きを理解することは
その死に対して何を差しだすことが出来るのか
一人はそういう問題ではないと
テーブルに肘をつけながら言う
彼の死に対してでは無く 私の死に対してである
天気予報のようなものだと高らかに言う
雨が分かっていれば傘を用意する
明日の天気が読めないということは
私が明日へ安心して行けないということであり……
ただその為だけに人の死はある……

日傘を少し傾けて
太陽の火災を見る
さらに鋭さを増す氷山のようなものを
彼は胸の内に感じる 

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