文の訪れ(20句)
文の訪れ
丸田洋渡
雛菊や書き記すとき前かがみ
鳥交る篆刻に立ちあがる名前
早春の降りやむまでは雨の部屋
かたくりの花や折り鶴飛びすぎる
文字から墨へ墨から文字へ雪柳
日永よくうなずいて鳥の大きさ
橋はとろとろ仲春の鳥の過渡
たんぽぽをめぐらせる高原となる
風車風より風のまわり方
薺の花を楽器にしていた日は
一行のかろやか花の半音階
書きぐせが本重くして桜貝
春のたけのこ字幕なくして見る洋画
水晶のように観瀑台に立つ
滝なめらかに半過去のひらひらす
月ある空気ここから歌いはじめる
眩しさに鹿は一枚へと変わる
未だ絵を知らない白紙かいつぶり
昼と夜のぐるんと変わり冬椿
文と文法おとずれてから開く雉
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※ 第三回円錐新鋭作品賞に応募して落選した20句連作です。句単体では、〈文字から墨へ墨から文字へ雪柳〉が、澤好摩さんの推薦句として選出されました。
個人的に、特に「文字から墨へ」、「一行の」、「眩しさに」、「昼と夜の」、「文と文法」を、この連作のなかで読んで欲しいという思いがあり、ここに記録として残しておくことにしました。
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