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帰還する此岸(50句)

近作俳句50句。

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帰還する此岸  丸田洋渡


コスモスを穴掘りかへす熊がゐた

木瓜の実やくれぐれも紐解かぬやう

白菊の湧いてくる光源のただなか

橡の実や口ずさむ音楽の一節

木星の距離考える七竈


浜木綿の実や遠くに得るまなざし

柘榴喰ふ雨といふきもちわるい数

水流と石の親しさ盆の月

言葉を群泳する霧のひとびと

交信に終わりの合図秋の空


海辺から月を眺めて間取り図へ

また耀くそして鴇の都市になっても

引金よ無月さかのぼる空戦

金柑や進化する街のパレード

みるみる灰ふるその中のかげろうは


血管を樹海と思う霧襖

ひからびる木から見る鹿が傷つく

新米をうんと頬張る鷹使い

海中の食事おほきく母鯨

銀木犀ひつかかつてゐる両肺


輪の上に輪を重ねたり暮の秋

新豆腐すぐに辿れる系統樹

秋桜が交尾してゐたといふのか

とろろ汁ところで土曜なんだけど

休日に動くおかしさ栗ごはん


双子には話していないことがある

稲妻やかくも静かな象の持続

ごきぶりの家族ひとから逃げて今

蓑虫を身ぐるみはがす夕陽の下

蜩やともに減水する親子


運動会にひよつとこのぬらりひよん

色鳥の捻挫いたわり家を建てる

秋薔薇一日に二度響く村

小鳥来る乗れたその頃の自転車

登校の初めと終わり茅を持ち


子が笑ひ親が笑つて七竈

金柑やとうとう啓発本を買う

水中に生息するひややかな夢

月に覚め砂漠つめたいことを言う

おそらくは田舎に帰る秋時雨


称えつつ睡りこみたり女郎花

月白を手の握りかた少し変

いつかから見る木犀といる写真

電車から見ている僕を弓張月

秋の蝶きみと言うとき背の高さ


いつだって戻れる気分秋茄子

枸杞の実や君をおちおち愛していた

生まれては死ぬひとびとよ葡萄園

蓋をして終える人生楽しかった

此岸から舟が行きます月の中

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