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ショート・ショート「Avan Club」①

ないかい?こんな出会いは。
何時も通っているはずの所が、急に素晴らしく見えてくる出会い。アバン・クラブ。そこで私の人生は変わった。
ポスターの張り紙は、賑やかなネオンの繁華街から少し路地裏に入った、10mほど先の寂れた脇道にあった。
アバンクラブという深い暗闇に包まれた静寂の店が、潜んでいる。

シャッターは降りている。どこから入るのか、でもポスター通りすでに開店時間だ。20:30。暗くて、外観はよく見えないがよくある居酒屋?いや、謎めいていてダークだった。店内の扉前のシャッターは閉じており、中にも人の気配さえ窺えない。
「こんなところ、なんかあやしいわ。詐欺ポスターじゃない」
そう思いながら、正面右のもう一つの入り口に非常口の緑色が光っているのを発見した。
「ここから、入るの?」
これも、演出?私は恐かった。でもポスターにこう、書いてあった。
【あなたを待っている、暗闇の中で】

ここしか、ないんだ。
非常口の緑色を通り越して、裏のドアからその店アバン・クラブの夜がはじまる。胸は高鳴った。
【暗闇の中で、素敵なお食事を】

ここのところ引きこもりがちで、会話に飢えていた私。なにがなんでもいい。
飛び込みたかった。
ドアを開けた。

ガチャ

一瞬ドアの向こうの、普通のバーのような、棚の上にはお酒やらが立ち並ぶカウンター。テーブル席もちゃんとある、普通の店に見えた。
しかしマスターも居ない店の灯りは、突然消えた。
暗闇。

「なに!?」暗闇の中から、足音が聞こえ始めた。すぐ、私のそばだ。
「あなたをお待ちしておりました」

低音の落ち着いた男の、歓迎の声。私の足元を照らすのは、非常口の緑のさしこむ光。少しだけ店内が明るく見渡せる暖色のライトが点く。そして奥のカウンター席の棚に見えたのは、目玉だった。
片方だけの目玉。

「きゃーーーーーーーぁ!」
男は、語りかけてくる。私の絶叫すらどうともせず丁寧な口調で。
「これからカウンセリングを行います」



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