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「私はルイーズ事件」について

「私はルイーズ事件」を始める前に (以下の内容は2019年3月1日現在のもの)

 私はこの「私はルイーズ事件」で、関係者の一人がカメラのスイッチを入れたまま走り、その様子がネットを通して世界に生中継されたというエピソードを書いた。カメラを持ちながら走ると言うと、最近日本で話題になった映画「カメラを止めるな!」を思い出す人が多いと思う。しかし、私はその映画を見たことがなく、この「愛国者学園物語」も、その映画とは全く関係がない。

 この「私はルイーズ事件」の某登場人物が、多くの子供に追われて走るという構図は、2本の映像作品をモデルにしている。

一つは、1990年の 米映画「蠅の王」(はえのおう)(ハリー・フック監督)。英国の作家  ゴールディングが1954年に発表した同名小説を映画化したこの作品は、無人島でサバイバル生活を送る少年たちを題材にしている。しかし彼らが意見の相違から2つのグループに分裂し、「過激派」が「穏健派」を追い詰めてしまうというストーリー展開になる。

 その結末が、思いもかけないほどショッキングだったことに、この映画が公開された当時、映画館に見に出かけた私は衝撃を受けた。そして最近、もう一度見たのだが、やはりその気持ちは変わっていなかった。好意的に言えば、文学というか映画の面白さが感じられるものだった、と付け加えておこう。

 もう一つは、昨年放送されたアニメ「ルパン三世」のパート5だ。
劇中に登場する架空の国パダール王国の高位聖職者がカメラの前でとんでもないことを話してしまう見せ場があり、それも、私の話の参考にした。

 

 これから私が皆さんにお見せする「私はルイーズ事件」は、もともと「あるユーチューバーの死」という題名だった。


 日本人男性の動画配信家が愛国者学園を面白半分に撮影しているうちに、学園生とトラブルになり、事故に巻き込まれて死んだという話にしようと私は考えていた。でも、それでは話としてありふれている。そう思った私は物語をふくらませた。

 まず、日本人男性を外国人の女性にしよう。私は男性だから、女性が登場する物語に関心がある。それに、外国の視点から愛国者学園を見たほうが、視点を変える意味で面白いだろう。ではどこの国の女性? アメリカや英国じゃ面白くない。設定として、ありふれている。インド人や中国人でも良いが、あの国々の人々やその心情について私はよく知らない。そこで私が子供の時から関心を持つフランスにした。

 それに、フランスの歴史には忘れがたい苦闘がある。かつて、フランスはナチスドイツやイタリア、つまりファシズム国家に苦しんだ。そういう歴史を持つフランス人の視点で、ナチスの少年を連想させるような愛国者学園を見たら何を感じるかを書いたら面白いかもしれない。

 ではどんな感じのフランス人女性か。一般にフランス人女性というと、私たち日本人は、金髪の白人女性を思い浮かべる人が多いはず。アニメ  「サイボーグ009」に登場する、フランソワーズ・アルヌールこと003のような。でも、それでは新味がないので、私は「ルイーズ」を、アフリカにルーツを持つ黒い肌で黒髪の女性にした。               

 一般に「フランス人女性」と言っても、多文化社会の同国では、白人、地中海地方の人のようなカフェオーレ色の肌を持つ人、かつての植民地ベトナムにルーツを持つベトナム系フランス人、それに家族がアフリカからやって来た人など様々な人々がいる。そう、フランス人イコール白人ではないのだ。

 名前がルイーズなのは、特に理由はない。元々はマリーだったが、それをアンヌに変え、さらにルイーズにした。その名はいくつかの候補から適当に選んだものだ。ルイーズの苗字については、私は考えていない。

 彼女の一族が西アフリカのコートジボワール出身なのは、私がそのフランス語のその響きが好きだからだ。昔みたいに「象牙海岸」あるいは英語で「アイボリーコースト」と書くよりも良い。さらに、ルイーズの出身地が南仏マルセイユなのは、ジーン・ハックマン主演の映画「フレンチ・コネクション2」に登場したからによる。私はその結末が好きで、マルセイユに出かけた。それはともかく、主人公がパリの人間では、話として面白くはないだろう。

 私はこういう構想を練るうちに気がついた。現実のフランス社会に、アフリカにルーツを持つ、黒い肌のフランス人女性で、かつ有名人がいるはずだ。調べてみようと。こういう場合、ネットは実に便利だ。簡単な調べ物なら使い勝手は良い。ウィキペディアとAFPBB NEWS(フランス通信社)が手助けになった。図書館で同じことをするなら、時間も手間もかかるだろう。私は図書館が好きではあるが。

 条件に当てはまる女性たちがいた。
作家の マリー・ンディアイ は、アフリカのセネガル人とフランス人の混血。政治家の ラマ・ヤド はセネガル出身。また作家の マリーズ・コンデ は、カリブ海のフランス植民地グアドループ生まれ、フランスやアフリカで学んだ作家だ。

 私は自分の小説を書くまで、こういう人たちの存在を知らなかった。世界は広いものだ。私の「ルイーズ」は、彼女たちのコピーではなく完全な創作だが、彼女たちの生き様を見ているうちに、私のルイーズは生き生きしてきたように思える。


 また、フランスには話の中で取り上げたように、「私はシャルリ事件」があり、それも話に盛り込んだ。

 その事件は、風刺漫画の新聞社シャルリーエブドが、イスラム教の開祖 ムハンマドを馬鹿にするような漫画を公開したことで、イスラム教徒の激しい怒りを巻き起こしたことから始まる騒動である。

 イスラム教文化ではムハンマドの顔を描くことを厳しく禁じているが、その新聞社はその顔を描いた、しかも馬鹿にするような画風でだ。その結果、イスラム過激派がテロを起こし、パリにある同社を襲撃し関係者など12人を@@した。2015年1月のことだ。

 その後、パリでは、「私はシャルリ」を意味するフランス語を書いたプラカードなどを掲げた人々が現れた。それは同社関係者への連帯を示したものとされる。

 私はテロを絶対に容認しないが、同社の態度、特にムハンマドを馬鹿にした挙句、その顔をカリカルチャー風に描いたことは、やり過ぎであったと考えている。

 私は自分の「私はルイーズ事件」には、そのシャルリエブド事件は少しだけしか「匂わせていない」。私の物語を作り上げるためにはそれで充分であり、物語でルイーズへの連帯を示す人たちがいた、それを表現するために「登場させた」で足りるだろう。


 ではなぜ、私はルイーズの性格を「アグリー」にしたのか。それは、話の都合による。もし彼女が絵に描いたような善人なら、それを小説の主人公にしても面白くなさそうだからだ。正義感の強い女性で、かつ、時に性格の悪さを見せることもある。そういう人物だから、小説の題材になるそう考えた。このような空想と現実のバトルの結果、やっとルイーズの人生が決まった。


 もう一人のフランス人女性ファニーの名前は、フランスの作家マルセル・パニョル(1895〜1974)の代表作から命名した。パニョルには「マリウス」と「ファニー」という代表作があるのだ。南仏マルセイユ近郊生まれのパニョルは、日本では有名とは言えないが、南仏プロヴァンズを舞台にした、クロード・ベリ監督「愛と宿命の泉」などの映画の原作者である。この作品は、イブ・モンタン、ジェラール・ドパルデュー、エマニュエル・べアールなどが出演した。また、「プロヴァンス物語 マルセルのお城」と「プロヴァンス物語 マルセルの夏」もあり、私は好きだ。


 また、「マリウス」は山田洋次の「男はつらいよ」に影響を与えていると言う、驚くべき話がある。

山田洋次監督「マリウス」は男はつらいよのもとに 日刊スポーツ で検索されたい。この「マリウス」は大阪松竹座で昨年6月に上演されているが、あいにく私は見ていない。

 これら、前置きが長くなったが、大切なことなので読者の皆さんに読んでいただきたく、書き並べることにした。


大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。