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ウニとアナゴ 愛国者学園物語24

 彼女の眠気は瞬時に蒸発した。よく見ると、ヘッケラーアンドコッホ HK MP5サブマシンガンを持った警官たちが店を包囲していた。でも、誰一人銃を構えてはおらず、ストラップでそれを胸元に吊るしていただけだった。


 賑やかな店は静まり、客たちの視線は店の出入り口に陣取った、スーツ姿の男女に集まった。指揮官らしい男が警察手帳を高く掲げて客たちに見せ、穏やかな声で「警察です。これから人を確保しますので、ご協力願います。すぐに終わります」と言った。


 こうして、有名なハッカーであるイチゴちゃんは逮捕された。隣席の客は、「NSAが相手じゃねえ」という彼女のつぶやきを聞いた。

一両日中に、この攻撃に参加した全員が、サイバー攻撃を仕掛けた容疑などでお縄についた。もともと彼女たちには多くの容疑がかけられていたので、今回のホライズン攻撃は彼女たちが自らの墓穴を掘った形になった。
間違いなく、イチゴちゃんたちには厳しい司法判断が下されるだろう。


「イチゴちゃん(意訳すればストロベリーガール)は愛国者学園や過激な愛国心と何の関係もない、ただのハッカーである。侵入不可能なシステムに入り込む快感を求めて、彼女はコンピューターにのめり込んだ。ホライズン社を攻略したのも、その守りが堅いからで、それが彼女の好奇心を駆り立てたのだ。そういう行為は犯罪であると知りながら、悪事に手を染めた、ハッキングを愛する若者だった。」ホライズンは、そのてん末をまとめ、    「日本のハッカーグループ壊滅」特集号を仕立てて、山ほど売った。


 後日、ホライズン・メディア・グループのCEO・ジェフはニューヨークの寿司屋で、米国の電子情報機関NSA(国家安全保障局)の大幹部マイケルと会った。仲の良い二人は、築地仲間なのだ。かつて、ある寿司屋で、ジェフがウニを楽しんでいると、穴子寿司を頬張ってうれしそうな男マイケルと目があった。それが、東京にある「ホライズン」東アジア総局に在籍していた記者と、横田基地所属の米空軍将校の出会いだった。

 マイケルはジェフと友人になってからも、その仕事ぶりを詳しく明かさなかった。ただ、電子工学の専門家とだけ話したが、理解のあるジェフはそれ以上問わなかった。そして、マイケルがジェフに、自分が某情報機関の幹部だと告げたのは、出会いから10年以上経ってからだった。マイケルは自分の「役所」について、親友に説明したが、その仕事ぶりについて詳しい説明は避けた。しかし、ジェフはそれでも良いとし、二人の友情は続いたのだ。

 ジェフはホライズン編集長を経て、ホライズン社を抱えるメディアグループのCEOになり、マイケル・ゴンザレスは米空軍中将に昇進、NSA副長官にのしあがった。


 ジェフが、「誰かさん」が、あのサイバー攻撃から雑誌社を守ってくれたことを話題にし、その「誰かさん」に対して感謝していると言うと、マイケルは「ファシストどもが我が国の権益を攻撃することは許さんよ。それがわが政府の意向だ」とだけ答えて友人に目配せをした。その後は楽しい食事会になった。


続く


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