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読みかけ日記「くもをさがす」西 加奈子

 私が興味を惹かれる本は大体一般受けせず、よほど品揃えの良い大型書店にでも行かないと書棚に無いことの方が多いのだけれど、この本は珍しくけっこう話題にもなっていて、書店でも平積みになっているところも多いようなので、読んだ方も多いかもしれません。

 作家の西加奈子さんが、カナダで乳がんになり、その治療から寛解までの日々をノンフィクションとして書き綴った本です。

 コロナ渦でのカナダでの医療体制、周囲のサポート、がんを宣告され、治療に臨む本人の気持ちの動きなど、きめ細かく綴られていて、とても興味深く読みました。

 本の本筋からは外れるかもしれないのですが、最終章「6 息をしている」の中の最後の方の書かれたこと、この記録を「あなたに読んでほしい」と強く願い、小さな波紋かもしれないけれど「私の全てを投げ入れる」と書く筆者が、一方で「本当に、本当に美しい瞬間は私だけのものであってほしい」としてあえて書かなかったとしていることに心惹かれました。

 現象の中に掬い上げた手の指の間からこぼれ落ちるものもあり、あえて指を広げて落としたものもある。「私の全て」は私が決定したものものであり、未完成なのではなく、「欠けているものがある全てとして、私の意思のもと、あなたに読まれるのを待っている」という文章から、必ずしも自分の出会ったすべてのことを曝け出さなくてもいいのだと思ったら、少し肩の力が抜けた気がしたのです。

 本当に美しいものに出会った時、写真に撮ろうと思ってカメラを取り出してセットしているほんの数秒の間にその姿が変わってしまうこともあります。
 あるいは撮りたくても、電車の中だったり撮ることができない場所だったりして撮れないことも。

 そんなことを残念に思わなくていい、自分の心の中にしっかり刻まれればそれでいいのだ、「私だけのもの」にしていいのだと思えたら、今、自分が捉えられて、表現したいという気持ちとのタイミングが合ったものを表現していけば、それでいいのだと思えました。

 そんなことを思っていた昨日の夕陽はとてもきれいでした。

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