◆別れは突然に

2004年9月から始まった、サッカースぺインリーグ1部、エスパニヨール選手寮の子どもたち（主に18歳以下）との共同生活。楽しい日々は続いたが、突然に別れの時はやってきた。

知り合いのマンションの部屋に空きが出て、そこに僕が変わって住むことになったのだ。選手寮での生活も、3か月が過ぎようとしていたころだった。

スペインのサッカークラブは、クリスマス前後から休暇に入る。子どもたちも里帰りし、人がいなくなったタイミングでの引っ越し。年末、いそいそと荷物をまとめて（バックパックひとつ）出て行ったのを覚えている。

◆選手との近さ、サッカーと生活の近さ

スペイン人は義理がたいというか、以前寮を出て行った仲間に対し、「あいつは挨拶もせずに出て行った。バカだ」と言っていたことが頭の片隅によぎる。

だからじゃないが、その時はみんなにお別れを言えなかったので、後日寮を訪れて、出ていったことを説明した。少なからず、寂しがってくれる子もいた。

その後、バルセロナ在住だった数年間は、時間の許す限り、子どもたちの試合を見に下部組織のグラウンドまで足を運んだ。ピッチの横で選手と話したり、選手たちの親と話したり。そういう選手との近さや地元の人々で見守る感覚が、日本サッカーとの大きな違いのように感じた。

選手とファンの距離、ピッチと観客の距離、スタジアムと自宅の距離、すべてが“近い”からスペインにはサッカーが根付いている。

◆その後、トップレベルで活躍した選手たち

始めは僕もみんなとMSNのチャットなどしていたが、Gmail躍進も一助となり、実質的に距離も離れ、リアルでもデジタルでも会う機会が減少していった。

いつか、トップチーム取材のときにスタジアムで会えたらいいな、なんて希望も胸に抱きながら。

そして自分が日本に帰国して以来、その後の選手たちの情報は、ほぼ入手できなくなった。結果的に、彼らの中でトップレベルで活躍したのは、把握している限り、以下の3人である。

■フリアン…MFとしてエスパニョールトップチームでプレー。数年前、チームに戻って下部組織のコーチに就任したことを友人の記事で知る　http://espanyolnews.pokebras.jp/e197986.html

■アンヘル…MFとしてエスパニョールトップチームでプレー。コンスタントに活躍して、イングランドでもプレー。

■ミゲル・パランカ…FW。その後レアル・マドリーの下部に移籍して、なんとバルサとのクラシコ出場も果たす。それでも、レアル・マドリートップチームでの出場は数回。リーガ内の中堅・小規模クラブを渡り歩き、プレーを続けた。

他にもリーガ内2部・3部で頑張っていた選手はいると思うが、やはりみんなの消息をたどるのは難しい。

トップで通用した選手が3人（同年代のチームには他にも1部に定着した選手が2人ぐらいいる。寮内で言うと、という話）。この数字を多いとみるか、少ないとみるかは人それぞれだ。

ただ、ひとつ言えることがある。

あの頃寮にいた子どもたちは、みんなサッカー選手になるという夢に、本気度の違いこそあれ挑み、そして結果を受け入れていたことだ。

◆本気で向き合った後に出せる答え

GUITIが「オレはサッカーで生きていくのは無理だよ」と答えたように、目の前の壁をしっかり認識して、選手とは違う自分らしい生き方を探す。実際に、Bチームの19歳ぐらいの選手でも、早いうちから指導のライセンスを取得して、現場でチームを見ながらプレーを続ける選手もいた。

そういった結果は全て、夢に挑み、正面から向き合ったからこそ、得られた実感なんだと思う。

今の日本は夢を見にくい世の中だけど、真剣に生きれば、何かしら得られるものはある。

ひとつめの夢に破れても、そこで得た経験は、必ず次なる夢のヒントになるだろう。朝食の内容がマドレーヌにミロという甘々なデタラメだろうが、プロにはなれる。MP3プレイヤーを買った翌日に、次のMP3プレイヤーを買うような愛すべきアホでも、クラシコには出れるのだ。
当然、努力と情熱は必要だけど。

決まった形なんてない。
自由に生きようぜ。
そんなことを、エスパニョール選手寮の子どもたちは、僕に教えてくれた気がする。

サッカーに関わっていてもいなくても、それぞれの子どもたちが違う夢の形を見つけて、幸せに暮らしていて欲しい。

そんなことを、遠い日本から願い続けている。

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エスパニョール選手寮生活日記 記事一覧
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