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【映画雑記】「妖精たちの森」/見所が子どもではない前日譚

 俺の好きな1961年の古典ホラー映画「回転」の前日譚として作られた1971年のイギリス映画「妖精たちの森」を鑑賞。

 自分も読んだ町山智浩さんの本「トラウマ映画館」でも取り上げられていたらしいんだけど、覚えてない…。イギリスの片田舎の瀟洒な屋敷が舞台で、倒錯的な愛に耽る男女二人と、その二人の仲を「永遠に」とりもとうとする両親を亡くした兄妹の物語。「回転」で語られた過去を基に、想像力逞しくして作り上げた公式二次創作です。

 で、子どもたちの純粋さ故の行動が悲劇を生む云々言われてますが、正直、大人の方が気になってですね。庭師と家庭教師という立場でありながら、夜になると汗だくで激しく求めあうという性癖を刺激されるその物語…。それを演じるマーロン・ブランドステファニー・ビーチャムの我が身を捨てるような芝居が、例えるならヘンリー塚本のAVのような生々しさを生み出してて「子どもがどうとかどうでもいいな」という感じでした。

 マーロン・ブランドは一人だけ芝居が違う。彼だけいわゆる「メソッド演技」を実践しているからなのかな。イギリスの上流階級の屋敷で働きながら、育った出自が違うことを佇まいでわからせる。どこかピリピリしてるのにかわいいところもあり、子どもが懐いちゃうのも仕方ないなと感じさせる魅力がある。猫背になったり、ボソボソ話したり、演技のアプローチに何となく後年の勝新太郎を連想した。相手役のステファニー・ビーチャムが役柄的にもブランドと張り合わなければいけないので、若干「メソッド演技」に引きずられた芝居を見せているように見えた。でも家庭教師としての硬い芝居と、ブランドの前ではガラッと変わるところはさすが俺の性癖に刺さった(爆)ブランドがビーチャムを文字通り「凌辱」するのだけど、この頃にブランドは「ラスト・タンゴ・イン・パリ」でもかなりな役柄をやっていて仕事選びの基準が一体どうなっていたのか…。

 もとい、鑑賞後、居心地の悪さみたいなものが残ったので「回転」を引っ張り出して観てみたら、新しくやってきた家庭教師が子どもたちの言動や行動に疑念を抱いた結果、最悪な結末を迎える展開と細やかな心理描写がやっぱり凄くて、「妖精たちの森」はなくてもいい前日譚かなと思ってしまいました。ともかくブランドとビーチャムの爛れた関係は「回転」をひとまず忘れて見るのもいいかも。ただ、「回転」を忘れると子どもたちの行動が意味不明になっちゃうな…。困ったもんだ。

 蛇足ですが、「回転」は子役ふたりの演技が説得力あっていいんです。パメラ・フランクリンは後の「ヘルハウス」ではセクシーな魅力をみせてますし、マーティン・スティーヴンス「未知空間の恐怖/光る眼」のポスターにもなった男の子。「妖精たちの森」の兄妹は年齢が十代半ばに設定されてて、正直「無垢な子ども」というにはちょっと無理があるかと…。そうせざるを得ない理由は映画を観ればすぐにわかるけど。なんかイモ臭かったし…。

 「妖精たちの森」はむしろ、中年の二人が求めあうシチュエーションに燃えてしまうヘンリー塚本作品が好きな人にオススメいたします。

※「回転」の幽霊はマジで怖い

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