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(それから)日本の宝飾界は独自のジュエリー文化を築き得たか?

古い業界雑誌で、なかなか骨のある対談を読みました。

「総力大特集 世紀末座談会 激論テーマ:今世紀 日本の宝飾界は独自のジュエリー文化を築き得たか?」

という特集です。最近はこういう(いわば目を背けたくなるような)テーマを扱う媒体も少ないですね。

登壇者(肩書きはすべて当時のもの)
山口遼氏(宝飾史研究家)
三宅一郎氏(㈱ヴァンクリーフ&アーペルジャパン代表取締役)
宮田雄史氏(山梨県立宝飾美術専門学校教授、理学博士)
谷口恵範氏(㈱恵蔵 代表取締役)

というすごいメンバーで、24年経った今読んでも考えさせられる事ばかりでした。

(特に山口先生と宮田先生は個人的にもお世話になっており文字で書いていることも「たぶんこういうことを言いたいんだろうなあ」と考えさせられることが多かったです。)

ちなみに99年というのはこんな時代
・宝飾品市場は1兆4000万円(最近は1兆円前後)
・JJA会長は長堀守弘氏、JJDA会長は木全本氏

特に刺さった所をメモしておきます。

1 素材はジュエリーではない

まずやはりポイントとなっているのが、「素材価値依存からの脱却」というテーマです。

山口氏「日本は過去の40年間、必死で量だけを追求して来た。その過程で、ジュエリーのもっている本質的な美しさを忘れて、素材価値ばかりにこだわってきた。(中略)素材はジュエリーじゃないんですよ。素材とジュエリーの違いが分からずに来てしまった。そして、ここまで来て、はたと立ち止まってみると、肝心のお金持ちのお客様は、どこかに行ってしまっていた。
 本来、文化は付加価値の問題であり、言い換えると、お金が儲かるものだと思います。原価が200円のものであっても、2万円出しても手に入れたいと思わせる技術。素材をジュエリーに変える技術、デザイン、加工、細工その他の過程に文化の価値があるんです。それを全部おきざりにしてつっ走ってきた。そこにあるのは数量的拡大と大衆市場だけ。後世に引き継ぐべき文化などはどこにもない。」

「とうきょうジュエラーズ」17号(柏書店松原、2009年)21頁

山口先生のご著書などでよく出てくる言葉ですが、それから四半世紀経った現在でも、やはりグレーディングレポートに頼ったスペック販売や、売れ筋の欧米ブランドのデザイン追随など、思い当たることばかりです。

また谷口氏は、ココ山岡事件や中宝研問題にふれ、どの問題もいつのまにか有耶無耶にして終わらせる業界のモラル体質は、仮に景気が回復してきても一度離れた消費者は戻ってこないことについて指摘しています。とても重要な指摘だと思います。
 
最近時間を見つけてココ山岡事件の裁判記録を研究しているのですが、過去の問題に蓋をせずに省みることが非常に大切だと改めて思いました。


2 日本のジュエリーに欠けているのはイマジネーションとパッション

日本から世界で通用するデザイナーはでるのか?
日本から本当のラグジュアリーは生まれるか?
みたいな話は最近でもよく聞きます。

ですが、そのために必要なことについて真面目に議論している場面をあまり見ることはありません。
宝飾専門学校の授業もどうしても実務面でせいいっぱい(もちろん時間的n致し方ない面も多いのですが)
デザイナーとは、単に図面が書けることではない、
というのは無視できない指摘だなと思いました。

谷口氏「日本のジュエリー文化は、素材、マテリアルとモノの本質を勘違いしています。日本のジュエリーに欠けているものは、一言でいうとイマジネーションです。付加価値を作り出すには、そこに至るまでのプロセスが大切だという認識がない。ほとんどのジュエリー屋さんが、扱っているものの美しさを考えた事がない。ジュエリーには、本来、工業製品のような目的が何もないんです。そのプロセスによって、付加価値を生み出すという意識が必要なんです。それが無いから、何でもパターン化して片付けようとする。ダイヤに例えれば、4Cは美しさの本質ではないのに、素材を語るとき、客観的な基準であるかのように利用する。ジュエリー文化にとって大切なのは4Cを教える事でなく、付加価値を伝えることだと思います。」

同・21頁

山口氏「日本の場合、ジュエリーを創って行くプロセスの中で、「俺はこれで行く」というパッションというか、クレージーさが感じられない。ある種の狂気とまでは言わないが、肩がのめり込んで行くという感じが日本の商品にはない。そこが弱い。」

同・84頁

3 ジュエラーに必要なのは「品格=教養」

山口先生の著書でも度々登場する「品格」という言葉。

山口氏「日本のマーケットが歪んだのは、この業界に携わる教育機関が、実技などすぐに役に立つことばかりを教えて、基礎教養をやらなかったからではないか。」

同・21頁

私もジュエリー専門学校で、学生が眠くなりそうな講義(知的財産法)を、「きっと将来役立つから!」といって話している身なのでなんともいえませんが、そんな中でも「自分で調べる楽しさ」とか、「ちょっと関係ない本も読んでいたら出会うこと」もあるよね、という話や興味にしたがって課題を進められるようなことをもっとしていきたいとおもいました。

宮田氏「品格というのは教養でしょ。教養を教えるというのはヨーロッパの大学がやってきたこと。それを、急にやれと言われても・・・、300年はかかります。「教養」というのは知識の集積ではありませんから、「教えるもの」ではなく、「身につく」ものです。(中略)今日の日本の教育の場で問題なのは、学生は教養を身につけることを目的としていないことでしょう。もちろん、教育の本質的部分として、学生の嫌がることでも必要ならばやらせますが、根っこのところで必要を感じていないものにやらせることは難しいことです。(中略)ジュエリーに関して言えば、少なくとも西洋の歴史をある程度の所までは、押さえておく必要があると思うんですが、それよりもはるかに狭い美術史程度でも必要ないと言う学生が結構多いので、暗澹たる気分になります。

同・82頁

山口先生は、「僕は時間ができたら、ぜったい役に立たない勉強会をやりたいんだ。」とおっしゃっています。今日の仕事に全然役に立たないよ、ということをしたいと。
むかし野中塾という安心堂の野中さんが主催していた勉強会に山口先生もいらっしゃったと聞きましたが、そういう想いがあったのでしょうか。


谷口氏も、「JC試験に合格したからといって何が有るの?」と指摘しています。合格したあとどのように学び続けるか、が大切というメッセージと受け取りました。

さて、コロナ後に会長職を引き継いだ、ジュエリーコーディネーター資格者による勉強会『JCヌーボー』では、そんな「明日の仕事に全く役立たない」内容も真面目に楽しく勉強しております。

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