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Magic: The Gatheringのリミテッドが初心者に向いていない理由

「Magic: The Gathering」のリミテッドフォーマットは、初心者には本当に優しいのでしょうか?この記事では、選択の多さやその重要性、フィードバックの遅れなど、初心者がつまずきやすいポイントを丁寧に探ります。
また、選択の難しさと学習のしやすさのバランスの重要性についても考察します。MTGだけでなく、他のカードゲームや対戦ゲームデザインにも役立つ内容です。ゲーム作りに興味がある方、ぜひお読みください。

ChatGPTによるこの記事の要約

Magic: The Gatheringの初心者に対して、ブースタードラフトやシールドなどのリミテッドフォーマットを勧めるべきという主張をたまに目にします。

筆者はこの主張にはまったく賛成しておらず、リミテッドは初心者には不向きなフォーマットだと考えているのですが、その理由を掘り下げてみると「ゲームの『初心者向け』とは何か?」というより広いテーマに関するヒントが得られたため、ひとまず考えたことをメモしておきます。


リミテッドが初心者に向いていない理由

・選択が多すぎる
・選択が分からなすぎる
・選択が重大すぎる
・選択に対するフィードバックが弱い

まず、ぱっと思いつくのはこのあたりです。

選択が多すぎる

選択の機会と選択肢の数が多すぎる。ブースタードラフトだと、10枚以上のカードの中から1枚を選ぶ。シールドだと選択の機会は減るが、90枚弱のカードを1/4程度まで絞り込まないといけない。

もちろん構築には1000枚以上のカードプールの中からデッキを組むという極めて難しい作業があるが、そんな遊び方をする初心者はほとんど居ない。初心者は、誰かのデッキレシピをコピーするか、初心者用のパッケージに含まれているデッキを使うか、持っているカードをそのまま使う。

リミテッドでは、レシピをコピーしたり、手に入れたカードをそのまま使うなどのショートカットができず、試合を始める前に数十回の選択を終えなければならない。この時点で単純に面倒くさい。そもそもカードを読むだけでかなりの労力が必要だろう。

選択が分からなすぎる

例えば「塔の点火」と「巨怪の怒り」はどちらも赤1マナのインスタントだが、どちらの方が強いのか。さらにここに「レッドキャップのどぶ住まい」を入れるとどうか。

リミテッドに慣れている人は、「レッドキャップのどぶ住まい」「塔の点火」「巨怪の怒り」の順に強く、それもかなり差があることに気づくが、初心者の場合はどうか。もちろん「レッドキャップのどぶ住まい」が強いことはそのうち分かるだろうが、多くのリミテッド経験者はどのようなカードが強いのかを当たり前に知ってるため、初心者にとってのカード選択の難しさを過少に評価している。

選択が重大すぎる

レッドキャップのどぶ住まい」と「巨怪の怒り」の二択に失敗したときの影響が大きすぎる。リミテッドのピックミスより重大なミスは、構築の試合中にはなかなかできない。

実際、たまに見るリミテッド初心者のデッキはかなり弱い気がする。プレイが下手な人のやる構築よりも勝率が低いのではないだろうか。勝率が低いとモチベーションが下がる。

選択に対するフィードバックが弱い

デッキ構築のミスは試合が始まるまで顕在化しないため、選択に対するフィードバックに時間がかかる。しかも、ランダム性の影響によって正しいフィードバックが得られるとも限らない。正しいフィードバックが得られないと上達しないため、上達の実感が得られず、勝率も低く、面白くない。

リミテッドのデッキ構築は、パックの引きにも左右されるためランダム性がさらに高まっている。また、そもそも構築の場合、初心者はデッキ構築を行わない。

リミテッドが初心者に向いている理由

逆に、初心者に向いている理由のうち思いついたものと、それに対する反論はこのあたりです。

カードを事前に用意する必要がない

構築のデッキが高価すぎて初心者には勧められないという話をよく聞く。これは確かに問題だが、それ以前に試合をするには対戦相手が必要なので、紙のMagic: The Gatheringを始める場合、友人・知人がセットになっていることが多いだろうし、そうであれば友人・知人からカードを借りて遊べばよい。

友人も初心者であれば、競技的なデッキで遊ぶ必要はなく、初心者用のパッケージで遊べばよい(Magic: The Gatheringの入門セットがあまりにもしょぼすぎるという問題はある)。

構築のデッキが高価すぎるという問題は、紙のMagic: The Gatheringを一人で始め、大会やフリーデュエルに飛び込みで参加するようなケースが想定されているが、そんな人がどれくらい居るのか疑問。また、構築のレアを揃えるのが難しい人が、プレイするたびにお金がかかるリミテッドをやるとも思えない。

リミテッドのプレイにお金がかかる問題は、MTG Arenaであれば無料券を配れば解消されるので、MTG Arenaにおいては解決不可能な問題ではない。ただ、MTG Arenaであれば構築にもさほどお金はかからないし、たまに開催されるファントムドラフトを初心者が好んでいるという印象もない。

カードプールが狭い

カードプール全体の枚数がリミテッドの方が少ないのは確かだが、試合に登場するカードの種類数は構築の方が少ない。読まなければならないカードの枚数はリミテッドの方が多い。

選択が多い・重大とはどういう意味か?

と、思いつくままに書いてきましたが、ここで浮かんだ疑問としてリミテッドは「選択が多すぎる」と、なぜ言えるのでしょうか。

構築のプレイにおいても、例えば1ターン目に土地を置かないことはルール上は可能ですし、1ターン目に土地を置かないミスは非常に重大です。
「1ターン目に土地置かないなんて、初心者でもないでしょ」とは言えそうですが、そうだとすると「『レッドキャップのどぶ住まい』『巨怪の怒り』で『巨怪の怒り』取る奴もいないだろ」と言われてしまいそうです。

「『重大な選択』『選択ではない』を恣意的に分類することで、リミテッドが初心者向けでないと言い張ってるだけでは?」という反論に答えるためには、初心者(あるいは、あらゆるプレイヤー)が「選択」として対峙していると認識する事柄にはどのような性質があるのか、ということに視点を向ける必要があります。

ここも思いつくままに書いていきます。

ルーチン化しにくい

1ターン目に土地を置かないミスを実際に見ることはまったくない。というか普通は、Magic: The Gatheringを始めるときに「土地は毎ターン置こう」と習う。公式サイトのスタートガイドにも「土地カードを持っているなら、手札から土地を1枚出しましょう」と書いてある。

土地を出すか出さないかは「持っているなら出す」と簡単に決めてしまえるため、実質的には選択肢ではない。Magic: The Gatheringのプレイを続けていくと実は土地を出さない方が良いターンもあることに気づくが、勝率に大きな影響は与えない。

Magic: The Gatheringやゲームに限らず、我々が何かを習得する際は、ひとまず他人がやっていることをそのまま「型」として学び、それを円滑に実行できるようになりつつ、状況に応じた行動や自分なりのやり方を模索していくのではないだろうか。

このように一旦のルーチン化をできる範囲が、リミテッドでは狭いように感じる。特に(構築ではショートカット可能だが)リミテッドではショートカットできないピック・デッキ構築においては「土地は17枚」くらいのことは言えるが、断言できることはこれくらいしかない。

また試合中も、構築は有名なデッキを使うときは「デッキの動かし方」のようなガイドでルーチンを習得することができるが、デッキが常に変わるリミテッドでは難しい。

選択肢間の差が大きい

シンプルなルーチンに頼りにくい要因の1つとして、選択肢間の差が大きいことが挙げられると思う。例えば「毎ターン土地を置いて、そのとき利用できるマナをすべて使い切れる何らかのカードをプレイすればよい」というルーチンがあったとして、こういうマナカーブ通りにプレイするだけの「七並べ」は下手なプレイだと思うが、構築とリミテッドを比較したときにリミテッドの方が大きく勝率を下げるように思える。

リミテッドの方が構築よりもデッキに入っているカードの強さや性質が不均一な傾向にあるし、除去が少なく戦闘が複雑になりやすい。順番に出して、相手のクリーチャーを除去って殴ってればいいということは少ない。ランダムなプレイをしたときのペナルティはリミテッドの方が大きいだろう。

またピックにおいても、「レッドキャップのどぶ住まい」と「エッジウォールの群れ」の選択は、両者の性質がよく似ているため比較しやすい(実質的な選択肢がない)。ところが、どちらかが「塔の点火」になると比較が難しくなる。ピックをルーチン化しにくいのは、様々な性質の選択肢が入り乱れることで単純な順位付けを難しくしているためだ。

反復練習しにくい

おかしなプレイをしたとして、そのプレイによって悪いことが発生するなど何らかのフィードバックが得られれば、次回以降はプレイを修正することができる。

しかしリミテッドはデッキが常に変わるため、同じ、あるいは似た状況が発生することが構築よりも少ない。構築では同じデッキを繰り返し使うことでプレイが上達する実感を得られるが、リミテッドでは得にくい。

初心者に必要なこと

つまりリミテッドはピック・プレイともに、

・選択肢間の差が大きく
・繰り返しも少ないため

・選択や選択肢の数が多く見え
・選択の結果も重大なので

・決定麻痺や選択疲れを起こしたり
・勝率が下がってモチベーションを失いやすい

・また、繰り返しが少なく
・フィードバックがランダム性や時間差に阻まれやすいため

・上達の実感を得にくい

と、まとめることができます。
逆に言えば、

・選択肢間の差を小さくする
・同じ状況や似た状況を増やす

ことで、

・選択や選択肢の数が減る
・選択の結果が軽微になる
・過去のフィードバックを活用しやすくなる

ため、

・選択の負担が減る
・勝率が底上げされるためモチベーションが維持される
・上達の実感が得やすくなる

ことが期待されます。

実例:HearthstoneのArena

こうして見ると、HearthstoneのArenaは上記の要件を満たしているし、実際に多くの初心者がプレイしていたような気がします。

まず、(特に初期セットは)カードのうちニュートラル(無色)の割合が高く、ミニオン(クリーチャー)の多くがバニラに毛が生えたようなカードだったため、どのデッキも似たようなカードを使い、似たようなことをしていました。

ピックのシステムも、提示されるカードが少なく、かつどれも似たようなカードなので選択肢の数も少なかったし、ルーチン化も容易でした。
戦闘ルールも同様に、攻撃しないメリットが少なく、場のミニオンの数も減りやすいため、選択肢の数が少なく保たれやすい傾向にありました。

上級者の楽しさとの両立

このように選択肢が絞り込まれたゲームは、上級者にとって面白くないのでは?という気もしますが、ここまで説明していた「ルーチン化」は「七並べ」や「点数表」のような暫定的なルーチン化にすぎないので、上級者はルーチンを改良したり、ルーチンを無視したりして楽しむことができます(土地をあえて置かない、除去やマナを残しておく、マナカーブを意識したピックをする、など)。

ゲームの動機づけに重要なことは「自分の行動が、自分の望む結果に繋がると信じること」です。
つまり、

・初心者:暫定的なルーチン化を行い一定の勝率を残すことで、セオリーを学習しプレイすれば、勝利したり、上達できるという実感
・上級者:ルーチンを検討しなおすことで、勝率を向上できるという実感

この2つが両立されるバランスが望ましいでしょう。少なくともMagic: The Gatheringの構築やHearthstoneのArenaは「七並べ」をしてもそれなりに楽しめるでしょうし、工夫する余地もかなり残されているように感じます。一方、Magic: The Gatheringのリミテッドはここまで説明してきた理由から「七並べ」が困難なため、初心者が楽しみにくく、上達も難しく感じさせる、というのが現時点の自分の考えです。

ゲームに慣れた人は、自分が取り組むゲームの何が解決困難な「本質的な難しさ」なのかを理解している傾向にあり、それ以外の要素を煩わしいものだと認識しがちです。しかし「非本質的」な難しさを排除し、初心者を「本質的」な難しさに直面させることは望ましくありません。なぜなら、その要素は解決が難しいがために「本質的」だと思われているからです。
リミテッドは初心者を「再現や比較がしにくい、多様な状況に対する意思決定」という、カードゲームの「本質的」な難しさに直面させてしまいます。

また、記事の本題とは外れますが、七並べ状態(暫定的にルーチン化した状態)から、自らルーチンを疑い再検討する状態への移行がスムーズであるかにも、注意が必要です。
いずれの段階においても、習得すべきことが明確かつ容易な「非本質的」な難しさと、習得困難な「本質的」な難しさのグラデーションがなだらかなことが、初心者のハードルを排除するために有効ではないでしょうか。

ここまで何となく思ったことをつらつらと書いてきたため、「初心者はこうだろう」(例えば「初心者はデッキ構築を行わない」「ファントムドラフトを初心者が好んでいるという印象もない」など)というのも特に裏付けがあるわけではありません。

Magic: The Gatheringの初心者向けフォーマット・カードセットはどうあるべきかや、TCG・対戦ゲーム全般はどのようにオンボーディングすればいいかなどは興味深く、有意義な課題だと思うので、ご意見、何となくの感想、連想して思いついたことなどあれば、コメント・リプライなどいただけると嬉しいです。

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