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デッキの「多様性」ってどういうこと? - 環境を多様に見せる手法を考える

TCGのゲームバランスにおいて重視される要素に「多様性」があります。

スタンダードを多様性のあるものにしてプレイヤーに選択肢を与えることが、プレイ・デザインの目標です。

多様性のあるスタンダードのメタゲームをデザインする (Magic: The Gathering)
https://mtg-jp.com/reading/pd/0030090/

メタに対する目標の1つは、クラスの選択肢の多様化だけでなく、性質の異なる魅力的なデッキの多様性を提供することです。

20.2.2パッチノート (Hearthstone)
https://hearthstone.blizzard.com/ja-jp/news/23671132

私たちが想定する「良いゲーム環境」は主に以下の2つです。

・極端に使用率の高いデッキや極端に勝率の高いデッキがないこと
これが守られているならば、いくつかのクラスやデッキが選択肢としてあり、実際にユーザーが異なる種類のクラスやデッキを選択していると言えます。加えて、ユーザーの使用するデッキは、流行やカードパック追加によって移り変わるため、多様なデッキが選択されうる良いゲーム環境だと言えます。

サービス開始から半年間のランクマッチのゲーム環境について (Shadowverse)
https://shadowverse.jp/column/detail.php?id=post-2769

デッキの選択肢やプレーの幅を広げる事

リミットレギュレーション (禁止・制限・準制限カード) (遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム)
https://www.yugioh-card.com/japan/event/rankingduel/limitregulation/

今回指定の2枚のカードは、他の一部のカードと組み合わせることで対戦相手の行動を極端に制限し、多様なデッキ構築やプレイングの幅を著しく狭める恐れがあるため、スタンダードレギュレーションにおいて使用できないカードに指定します。

スタンダードレギュレーションにおける使用できるカード変更のお知らせ (ポケモンカードゲーム)
https://www.pokemon-card.com/info/2020/20200731_002273.html

「デッキが多様であることは望ましい」という見解を、多くのタイトルが公表しています。「デッキが多様である」とは、様々なアーキタイプ(デッキタイプ)が試合で活躍できる状態を指しています。この状態が望ましいことは、多くの人が同意するのではないかと思います。

ここで思考実験をしてみます。例えば『Magic: The Gathering』に以下のようなカードがあるとしましょう。

You Win!
土地
You Win!があなたのゲーム開始時の手札にあるなら、あなたはこのゲームに勝利する。
あなたがこのカードを引いたとき、これがこのターンに最初に引いたカードだった場合、あなたはこのゲームに勝利する。

平たく言えば「引けば勝つ」カードです。このカードがあった場合、デッキのYou Win!以外の部分が何であれ、一定の確率で勝利を収めることができます。
つまり、このような引けば勝つカードは「強いデッキ」と「弱いデッキ」の勝率差を縮めます。同様に、どのデッキでも使用できる汎用的なカードがゲームの趨勢に大きな影響を与えるとき、デッキの勝率差は縮まり、多様なデッキが許容されやすくなります。

しかし、この状態は多様性があると言える状態でしょうか?「全部You Win!デッキじゃん」と言う人も多いでしょう。

さて、以下の環境を見てみましょう。

一見、凄く多様性のある環境に見えます。しかし恐らくこれらのデッキの大多数には「灰流うらら」が採用されているでしょう。「灰流うらら」は強力なカードであり(だから採用される)、「灰流うらら」を引くか・引かないかはゲームの趨勢を大きく左右します。

こう考えると、『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム』の上記環境の多様性は「灰流うらら」の強力さによって成り立っているのでは?という疑問が生じます。
もちろん『遊戯王』の環境にも「多様性」のある環境と「多様性」の比較的乏しい環境がありますから、ほかのカードの影響も大きいでしょう。しかし、「灰流うらら」や「増殖するG」などの強力な汎用カードがあるため、デッキのほかの部分が多少弱くてもある程度勝てるという側面も『遊戯王』にはあるように思えます。

「灰流うらら」ほど圧倒的な採用率・影響力ではありませんが、『ポケモンカードゲーム』にも強力な汎用カード(グッズ・サポート)があり、多くのデッキが共通のカードを採用しています。

こうして見たとき、これらのタイトルが「全部うららデッキだよね」などと言われないのは何故でしょう?言い方を変えると「デッキの多様性の評価」には、「デッキ」をどのように分類・定義しているか、という要素が密かに紛れ込んでいます。「灰流うらら」部分に着目するなら多様性はありませんし、「灰流うらら」以外の「電脳堺豸-豸々」やら「マイクロ・コーダー」やらに着目すれば多様性はあります。

したがって「デッキの多様性」は、カード間の強さのバランス以外に「デッキ内のどのカードにプレイヤーの注意を向け、デッキや試合の中心であると思わせるか」によっても左右されます。
プレイヤーは「多様性」のある状態を望ましいと捉えます。そのため、試合の勝敗への影響力が弱いものに注目を集め、勝敗上は主役ではないものを目立たせるほど、メタゲーム環境の印象が良くなる可能性があります。

「勝敗上は主役ではないもの」が目立ったとき、「目立つものは何を使ってもそこそこ勝てる」状態が生まれるため、これはキャラクターの魅力を重視するタイトルには好都合な特徴です。
また、キャラクターの魅力を中心としない『Magic: The Gathering』などのタイトルにおいても、ゲームデザイナーとしては、デッキレシピの些細な違いにプレイヤーの目が向いて欲しいものです。例えば活躍するデッキが全部Caw-Bladeだったとしても、こっちは「聖別されたスフィンクス」が入ってるから「スフィンクスブレードだ」とか、こっちは「天使ブレード」だ、などとプレイヤーが認識すれば、ゲームデザイナーには好都合です。

このような認識を生み出すルールやカードプールの構成は、一体どのようなものでしょうか。

ポケモンカードゲーム』は非汎用カードであるポケモンに明らかに特権的な地位を与えています。メカニクス上もフレーバー上も『ポケモンカードゲーム』はポケモンが主役のゲームです。『ポケモンカードゲーム』のポケモンは『Magic: The Gathering』の「クリーチャー」や「プレインズウォーカー」とは格の違う、飛び抜けて目立つ存在です。

『遊☆戯☆王』は勝利をもたらすカードをプレイするとき、複数回の特殊召喚など複雑な手順を経る必要があります。このことは、最終的にプレイしたカードを貴重に・派手に見せる効果があります。また、サーチやエクストラデッキを用い、実際にはドローしなくても構わない多数のカードを経由させることで、非汎用カードのデッキ内の割合も高めることができます。

さらに、『ポケモンカードゲーム』も『遊☆戯☆王』も、試合を直接決着させるのは非汎用カードです。

『ポケモンカードゲーム』『遊☆戯☆王』の2タイトルは、

・強力だが試合を直接決着させない汎用カード
・非汎用カードを強調するメカニクスやフレーバー

を組み合わせて、目立つ(商品の目玉となる)カードを自由に選択できるようにしているのでは?というのが現段階の仮説です。

筆者は「ポケモンカードゲーム」と「遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム」を競技的にプレイしたことがなく、これらのタイトルの汎用カードが実際にどのくらい勝敗への影響度を持っているか、正確に理解していません。
そのため、この記事の仮説がどの程度現実に当てはまっているかは確証を持てませんが、少なくとも「デッキの多様性の評価」がルールやフレーバーによる「カードの注目度」に左右されることは間違いないだろうと考えています。

「カードの注目度を操作するためにどのような手法があるか」「カードの注目度を操作したとき、プレイヤー体験にはほかにどのような影響があるか」についてもおぼろげには考えているのですが、まだ頭の中でまとまっていないため、またの機会に改めたいと思います。

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