バーチカルアンテナを建てる

 アマチュア無線で使われるアンテナにも各種あって、それぞれ特徴が違います。バーチカルアンテナは教科書では出てきますが意外となじみがないかもしれません。同じ原理でもグランドプレーン(GP)アンテナのように市販されているのを見たことはありません。さらに言えば、GPアンテナが使えるのならば、そちらを使うほうが有利です。バーチカルもGPも、地表もしくはそれに見立てた面(これがグランドプレーンです)に対して垂直に1/4波長の導体が立っている構造をしています。給電点インピーダンスは約36Ω、水平面には無指向性で、打ち上げ角が比較的小さいという特徴があります。
 今回は7MHz帯のバーチカルを設計して建てることにしました。というのも、短波でモールスを楽しもうと思ったからです。この周波数帯には欧文も和文もたくさんの局が出てきますし、日本の大きさくらいならちょうどいい感じで届いてくれます。問題となるのは2つです。一つは大きさで、7MHzの1/4波長は10.7mです。地面に垂直にこれだけの高さの導体を立てるのは大変です。もう一つは接地です。素人が接地工事をしたところで接地抵抗が無視できる大きさにはなりません。さらに当地は豪雪地帯なので冬季の積雪対策をする必要が出てきます。果たしてどうなることやら。

全体の形状と電流分布

 まずはMMANA-GALを使ってシミュレーションしてみることにしました。一つ目の問題は、物置から鋼管を4m揚げて、そこからアルミパイプをさらに4m近く伸ばすことにしました。鋼管とアルミパイプとの間は絶縁し、アルミパイプの下から直径1.6mmの銅線で給電部まで斜めに下ろします。厳密にはバーチカル(垂直)とはなりませんが、この構造だと高さ10m近くまで稼ぐことができます。次に、接地はあきらめてカウンターポイズで対応することにします。これも場所の制約で直線状に張ることはできませんが、折り曲げても10m近い長さを確保すれば共振してくれることがわかりました。ただ、アンテナ利得は1.25dB(絶対利得)しかなく、ダイポールに劣ります。また、電波防護指針に基づいて電界強度を計算してみると、1m離れたところで100Wのときに89.5V/mとなり、基準値を十分に満たしています。
 シミュレーションでは大丈夫そうなので、実際に作ってみてNanoVNAで特性を測りました。NanoVNAは、接続する同軸ケーブルを使って使用する周波数範囲であらかじめ校正しておきます。そうすれば同軸ケーブルの影響を自動的に計算してアンテナ単体の特性がわかります。結果を以下に示します。

NanoVNAによる測定結果(その1)

図からわかるように、最初に作った大きさでは共振周波数が6.4MHz、インピーダンスが28Ωと測定されました。周波数が低いのは、調整の余地を考えて各寸法を少し長めにしておいたからです。ここから長さを調整して、まず共振周波数を7MHzに持っていきます。

NanoVNAによる測定結果(その2)

切りすぎないように注意しながら長さを調整した結果、共振周波数を7MHzに近づけることができました。次に、インピーダンスの整合をとります。アマチュア無線の無線機は送信機が50Ωの負荷を想定していますので、このままでは低すぎます。インピーダンスを変える方法として、今回は単純な高周波トランス(UN-UN)を使いました。

インピーダンス整合用トランス

フェライトトロイダルコアに、1次側4回、2次側3回巻いた簡単なものです。これで1次側からみたインピーダンスは(4/3)^2=25/16倍となります。これを26~28Ωのアンテナに接続すると41~44Ωに変換されるので、それほどの不整合とはならないでしょう。トランスを挿入して再度計測したのが次の図です。

NanoVNAによる測定結果(その3)

共振周波数が少し下がって6.93MHzとなりました。定在波比(VSWR)は1.07と文句ありません。共振周波数が下がったのはトランスのインダクタンスの影響を受けたのでしょう。カウンターポイズ側を20cm切り詰めて、最終的に次の特性となりました。

NanoVNAによる測定結果(その4)

共振周波数は6.99MHzと、まだ少々低めですが今回はこれ以上追い込むのをやめました。7.06MHzで50.2+j18Ω、VSWR1.43と実用上は問題ありません。主にモールスで使うことを考えると、文句なしといってもいいでしょう。この冬使ってみて、どれだけ交信できるか楽しみです。de JM8SMO

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