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TS-820(S改)のレストア (その4)

 これまでの作業で局部発振器が正常に動きだしました。そこで取扱説明書に従って再度各部を調整したところ、意外な現象に遭遇しました。21MHz帯までは既定の出力が出てくるのに、28MHz帯だけは調整すらできません。レストア経験の豊富なOM諸氏からいくつかヒントを貰って調べていくうちに思わぬところに原因が見つかりました。

キャリア電圧の調整

 キャリア発振の回路図をよく見ると、C1A .3Vrms、C1B .2Vrms、CA2 .3Vrmsと3系統の出力があります。さらに全体の回路図を眺めると、C1Aは受信回路の検波器に、C1BはPLLユニットに、CA2はQ17で増幅されて、送信回路の変調器にそれぞれ供給されています。さらにCA2は可変コンデンサを経由してカウンターユニットに供給されています。直面している問題は、28MHzだけ送信出力が出てこないということで、その可能性としてドライバの12BY7Aを駆動させる電圧が不足しているのではないかというアドバイスがヒントになりました。周波数が上がるとそれだけ増幅率が低下します。21MHzまでは問題なくても28MHzでは足りないということが起こりえます。実際にALCメータの反応は周波数が上がるにつれて悪くなっていますので、高い周波数で増幅率が減少していることが体感できます。
 さて、キャリア発振の回路図にわざわざキャリア電圧まで表示されていて、これを調整する測定ポイントはIF基板のTP5にあります。私は80mVrmsに合わせていました。この電圧を少しずつ変えていくと、28MHz帯でも出力が出てくるようになりました。300mVrmsだとかえって出力が低下するという現象がみられたので、試行錯誤の末140mVrmsに設定しました。

調整時は終段を上にして縦に起きます

宿題

 最低限の送受信はできるようになりましたが、ノイズブランカーが動作しません。いずれノイズ源を用意して再挑戦することにします。また、劣化したトランジスタ2SC460(B)がいくつか残っています。特にIF基板のQ17については上に書いた現象とも関係するのでうまく動作する代替品を探してやりたいところです。真空管周りの回路についてまったく記載がないのは、単純に問題がなかったからです。高圧発生回路の電解コンデンサやソリッド抵抗など、交換した方がいい部品はいくつかありますが、今回はそのままにしてあります。長く使っていくと容量抜けなどが生じてくるはずですので、そのときに
 加えて、この時代の無線機には28MHzに50W制限回路が入っています。これを解除させて全バンドで100W出るようにしたいところですが、後回しになっています。もうすぐ免許状が届くのでしばらく使って様子を見てからにしたいと思います。

最後に

 ここまでのレストア作業に約1ヶ月かかりました。欠品していたスイッチのノブや、破損していたVFOダイアルも無事に手に入り、見かけ上はジャンクをレストアしたものとは思えない程度にはなったと自負しています。1980年代の無線機は、ディスクリート部品で構成されていますので時間と根気さえあれば動作までもっていくことができるでしょう。当時の技術者の知恵を学ぶという意味では最高の教材です。もちろん、簡単に勧められるものではありませんし、上手くいかない場合の方が多いとは思います。それでも、教科書で学んだ電子回路の知識が、実際の製品ではこのように使われているのかを知ることは、特に内部がブラックボックスになっている現代では貴重な体験ではないかと考えています。この記事ではあえて書かなかったことも少なくありませんが、それは、症状と回路図を見て悩むというプロセスを全部吐き出すことにためらいがあったからです。ご容赦ください。また、アドバイスを頂いたOM諸氏の名前を出すことは控えます。これも同じ理由です。
 最後までお読みくださってありがとうございました。まだ宿題はありますが、これで一旦終了とします。
 


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