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日本の"自分で始めた女たち"#5 久保月さん 「フチに立ったタイミングを何回経験しているか?フチが、ご縁につながり、覚悟となってきた。」

久保 月さん(会社経営) 第3回(全4回シリーズ)

(第2回はこちら
 
中村 私、ビジネススクール時代にいろんな経営者の人に会ったんだけど、すごい人って「分厚いな」と思った。その分厚さが、会社の「分厚さ」にリンクしているんだなって。
 
久保さん そう、そうなんよ。となると、この自分の会社の行く末が面白い。大変よ、実情は。人の育成とか、目の前の課題がいっぱいなんだけど、行ける気がするの。
 
あのね、人って、本当にココ(机のフチを指して)に立たされると前にしか行かないよね。後ろに行くと落ちるからね。

(写真提供:久保さん)

久保さん このタイミングを何回経験しているか、そこで人の厚みが出るんだと思う。心臓に毛が生えるイメージで、ちょっとしたことで動じなくなる。動じないというのが器にもなっていて、許容するとか、感謝することにつながる。
フチに立つっていうのはものすごく不安定なんですよ。どっちに転ぶ?というときに、負の感情をどうやってプラスにしていくかが、自分の何かになると思う。
そうなるともう、愚痴もあるんだけど「ありがとう」しか出てこない。
この環境を勉強させてもらってありがとう。視線の先が自分じゃないの。誰かに対してありがとうだから、視線は相手側なんです。
 
中村 この状況、私どうしよう、とかじゃなくて・・・
 
久保さん 目の前の人、その先の人、その家族・・・と視野がどんどん広がるわけ。
仕事で言うと「香川のいいところって何ですか」だし、もっと引いて言うと、香川の魅力ってなんですかという視点。
その視点で他のエリアを見ると、それは日本の魅力を考えることにもつながりますよね・・・って思考になる。
この規模に案件を移してあげると、事業体系は広がるしかない。いますごく面白いっていうのはそういうこと。
 
中村 「面白い」、そういう心境に立ってみたい。
 
久保さん いけますよ、フチに立ってみたらいい。リスクをいかに持ちながら、それをこなすか。アシスタントたち入れて。
そうなったら視野が広がる。相手(とトラブルがあったとして)もかわいく見える。
もちろん俯瞰できても、歯がいましいときは歯がいましい(笑)。でも、「年取ったな」って思うのと同じですよ。若い時はこれができない。時間経過の中、今だからこんな見え方になれたんだろうなぁ・・・とは思いますね。
 
中村 それはやっぱり「フチ」に立ったから・・・
 
久保さん 本当にそう思います。一歩下がれる場所じゃダメ。ほんとうに際じゃないと。ここに立ったとき、ほんとうに人のご縁が見えてくる。えんと、縁(ふち)・・・あれっ、一緒になった!(笑)

あと、負けず嫌いというのもあるね。
さっき中村さんが他のお店の違いについて聞いてきたけど、「同じじゃない、違う違う!」と思って、(自社が他とは)違うところを探しているからね。負けず嫌いじゃないと残らんと思うよ。
「くそー」と思って頑張って、むかし自分たちにつらくあたったところが頼ってくると「ほら見たことか!」と思うところもあるんです。でもそれを見せずに大らかに、「いいですよー。どうぞ」って。
 
中村 今回この「自分で始めた女たち」のインタビューしようと思ったのは、インタビューでもう提灯記事は書きたくない。広告だから書かないといけないのかもしれないけど、もういやだと思ったからなんです。話を聞くなら、自分の言葉でしゃべっている人に聞きたいと思った。
インタビューを何十年もやっていると、この人は本当に自分の思ったことを自分の言葉でしゃべっているなというのは分かる。そういう人だけにインタビューしようと思っているんです。で、久保さんに話を聞きたいと思ったの。
(この「フチに立つ」話を聞いて、だから久保さんは自分の言葉で話すんだろうなと合点がいき、思わず語ってしまった)
 
久保さん 言葉っていうと、経営の先輩の言葉は拾いたいんです。それだけ経営が楽しい。欲が出て、会社を大きくしたいんだよね。
「楽しくてしょうがない」っていうのは、自分にハッパかけているという部分もある。
次のフェーズは、この会社の継続を考えているんです。誰がこの会社を引き継ぐか。それをできる体制に移行していきたい。来期、横添えを付けて、5年かけて今の規模でできるようにしたい。
すると自分が空くじゃない?ならば、もういっこ、行きたいんだよね。

IKUNASが運営している、讃岐おもちゃ美術館のカフェ。家具や食器、食材には、香川の伝統工芸をはじめ、IKUNASならではの視点で集められた地域の素敵なものたちが使われている。
(写真提供:IKUNAS)

会社の規模を大きくした人の話を聞きたい。
たぶんいろんな勝ち方があるはず。

 
久保さん 利益率を見ようというのはよく分かっているんですけど、数字を稼ぎたいんですよ。去年、ようやく桁が変わったの。もうひとつ変えたい。
もうひとつ変えるのは、いまのビジネスでは難しい。桁が変わるためにはどうしたらいいか、その仕組みをつくっていきたい。そうなると、香川の「もの」コンテンツをベースに視野を広げて、仕事の案件をそれに合わせて広げていきたい。
この話ができる人間が社内にいたらもっといいですね。だから、自分の器を広げないと会社の規模を大きくできないという話はよくわかる。規模を自分で大きくしている経営者の話を聞きたい。たぶんいろんな勝ち方があるはずなんよ。
地域商社とか地域創生とか、このエリアを、どんな予算を組み立てて動かすかという立場、そこに行きたい。
いま、アキリノで古民家ビジネスをしているのもあるし、香川らしさを文化遺産として考えると、観光・移住が出てくるでしょ。そこのコンテンツをタテ横ななめに拾っていくと、商業ベースというか、違うベースが出て来るでしょ。
 
中村 ニッポニアみたいな?
 
久保さん ああ、滞在型、宿泊みたいなものもしたいかもしれない・・・。
亀水の案件が稼働し始めると視察が多くなって、取り組みを話すと、「自分たちがやりたいことをあなたはやっていますね」と言われる。やりたいことの規模が違うのよ・・・。でも、できるような気がする。はったりが効かないといけないところに、はったりが利かせられるようになった。これって誰でもできることではないんじゃないの、と思うようになった。
企業に行っても、私は自分事でしゃべる。自分事で「あなたの会社とこれがしたい」と言って、「それじゃあやりましょう」となったら気持ちいいですよ。「やりたいことを分かっていただいた。一緒にやれる!」。この相手が、企業さん、県なのか市なのか、商店街・・・いろいろできる。
IKUNAS活動をしている私たちが、香川の民間だからできるよりよい取り組みをしようって一緒に入ると、火を付けやすいじゃない。地元の人が喜ぶことにもなるし、基礎自治体さんも取り組みやすくなる。足踏みしてたスピードが早くなる。いま、たったか行かないと、これからはどんどん縮小になるから・・・「わが町は立ってるだけで精いっぱいです」となったら、動けなくなる。
 
中村 久保さんってやりたいことがクリアですよね?そういう人って実はあんまりいないじゃないかなって思う。みんなやりたいことはあるかもしれないけど、「こんなふうにしたほうが世の中にもいい!」って、自信持って言えない人が多いと思うんですよ。
 
フチに立っているからこその覚悟はある。
じゃないと伝統工芸に向き合えない。

 
久保さん なんでだろ?自分でやり続けているからかな。
 
中村 だと思うし、フチに立っているからだと思う。フチに立っているからこその覚悟でやっているんだと。
 
久保さん そう、覚悟ね。いま、ぐっときた。私がやらないと誰がやるの?というのもあったりする。
 
中村 その覚悟が、やりたいことを最後までやり切る人と、「わーすごい」って注目は集めるけど終息して行く人とを、分けると思う。時間が経つと見えますよね。
 
久保さん 見える。本当に、伝統工芸だけでいうと、いろんな人がやり始めて、いま誰がやり続けているかというと、やっぱり、離れて止めちゃった人もいる。そうなったとき、「やり続けないといけないよね」という確信というか、自分の立ち位置がクリアになる。
私の場合は、伝統工芸の「明日もう仕事辞めようか」という人と向き合いたいわけ。そうなると、伝統工芸をどうにか(ステキに)するというのとは、ちょっと立ち位置が違うかもしれない。もうちょっと泥臭い感じなんです。
自分が覚悟しないと向き合えない。相手はある意味、強い要素を持っているんですよ。支払いを理由に明日やめるかもしれない。そういうのを最後まで見届けるというのもある。

住宅の欄間などに使われている、香川の伝統的工芸品「組手障子」。
IKUNASや久保さんが、その美しさに魅了され続けている香川の手仕事のひとつ。
(写真提供:IKUNAS)

久保さん それはなんだろうな、17年ぐらい伝統工芸に携わって、自分のお父さんぐらいの年代だと寿命がある。なので「生きるってなんだ?」ということも要素として持っているんですよね。自分が生きてる意味・・・ちょっと仰々しくなるんですけど、手に職をもって、一生の仕事として向き合っている人たちと対面すると、時系列でその衰退も見えてくるんですよ。クオリティが維持できなくなっているのも含めてずーっと見ていくと、時間の何かに、悔いを残したくないなって思うわけ。「あの時ああしとけばよかった」とか「あの時にこう言ってたらよかったのかな」という、悔いを残すような動きは、もうしたくない。
 
どんな店が来ても受け入れます。
みなさんでにぎやかに盛り上げていきましょう。

 
久保さん そう思うぐらい、おやめになった人もいらっしゃるし、亡くなった方もいらっしゃる。他のお店が、どれだけこの点に時間を使って携わってきたかは、私はよくわからないけど、自分たちはそれをやってきたと自負する強さがある。だからブレたくてもブレない。芯はまあまあ強いですよ。
継続するためには、負けないぐらいの自分の強さを持たないといけない。
この思いがあるから、他(競合他社)が何をしようが揺らがない。「どんな店が来ても受け入れます、みなさんでにぎやかに盛り上げていきましょう」。自分だけがひとり勝ちするということは思っていないんです。

これって、人が魅力だから続けているんでしょうね・・・。
「もの」だけだと、基本私は飽き性だから、別にうちがせんでもええやんってなるけど、人の味のある良しあしが面白い。「人を面白がる」という感じはあるんですよ。フツーに会話していたらフツーのその人しか見えない。ちょっと反応があるとそれが面白い。魅力的な反応だと好きになる。好きになると全面的に応援したくなる。
その反動が、裏切られるということはあんまりないですけど、期待しているものと違うとき、ショックは大きいですね。応援していたのに関われなくなってしまった工芸もあったけど、その当時、職人さんに「おまえのぅ、工芸はあれだけじゃないんぞ」と言われたのが転機になった。
17年前の私といまの私は、変わっているものもあるけど、変わっていないものもある。「成長してますかね?みなさん、私は・・・」って感じです。
 
中村 15,6年前か、私、久保さんにインタビューしたことありましたよね。企業の広報誌で形にはならなかったけど。その時から、視座がかなり上がっていらっしゃるんだなと思います。
 
久保さん 成長するのが面白い、だから未知な何かに興味を持って首突っ込みたがる。自分の成長を楽しむのが究極の趣味かもしれませんね。それに人を巻き込むから大変。それは自覚しています。みんなありがとう(笑)

結果、くそまじめに変な奴が残ったらいいと思っていて。
普通な人は普通なことしかできないですよ。ユニークな考えの人は新しい何かをやり遂げられるものを持っているような気がします。変な人というか、ちょっとネジが1本外れている人は、うちの会社に来たらいいと思う。会社のはみ出し者、ごろつきばかりが集まる会社になったら、うちはすごく面白いと思う。「あそこの会社はひとくせふたくせある」みたいな。いま実際に残っている人間はそんな素質がある人間ばっかり。山賊盗賊みたいなね。
 
中村 元気やな(笑)
 
久保さん そう、元気あるわ。ネジが外れた人…いや、外れたじゃなくて、外れそうな人はウチに来て。外れきっていたら、どこのネジかなって探さないかんからね。(笑)
 
(最終回につづきます。9月22日公開予定です)

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久保 月さん プロフィール
香川・高松生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業。2002年に東京から香川に戻り、デザイン会社株式会社tao.を立ち上げる。デザインワークで忙しい日々、仕事で香川漆器の作家の器と出会い、清水買いしたことから、讃岐の伝統工芸の美しさと、それに反しておかれた現状の厳しさを知り、雑誌IKUNASを創刊。デザイナーの目を通して語られる地域の伝統工芸の美しさや、かわいい色をまとったいまの暮らしになじむ讃岐漆器はたちまち人気になり、デザイン×伝統工芸のものづくりのスタートとなった。伝統工芸のみならず、2018年から「食」分野の仕事も始める。
現在はIKUNASギャラリーを讃岐おもちゃ美術館内で展開。2017年からは空き家リノベーションを行う「アキリノ」事業をスタート。
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