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『夢の国だから』 (ラジオドラマ) w/脚本

’突然、ラジオドラマ’
『夢の国だから』 
     作・演出・Jidak

このラジオドラマは、2021年8月23日に、Stand.fmにて配信されました。

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登場人物
森山 智子(さとこ) (48歳)  挿絵画家
木村 久美(48歳) 会議通訳者
高山 香織(48歳) 主婦(元OL)
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続編「シュバルツバルト」も別途noteにて公開しています。


出演:

森山 智子役 うるさん

木村 久美役 あこさん

高山 香織役 Jidak


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『夢の国だから』 
     作・演出・Jidak

   SE 人のざわつき
   SE 遠くのパレードの音

香織 「じゃあ、えーと、夢の国デートにかんぱーい!」
久美 「って、ジェラートだから、これ」
智子 「だって、久美に運転頼んでて、私たちだけ飲むわけには、ねぇ!」
久美 「あれぇ? 智子と香織って、そんなに優しかったっけ?」
智子 「しかし、毎回思うわ。いいわねぇ、夢の国、あちこちキラキラしてる」
久美 「ほんと。この夕方から夜の時間が大人にはいいね。あ、アトラクション、全然乗ってなかったね、今日」
智子 「いいんじゃない、そういうのも。アラフィフともなると、ここに来れただけで十分楽しいのよね」
香織 「ねぇ、いいから、早くそのピスタチオフレーバーの味見をさせなさい。智子のもおいしそう。ブラッドオレンジだったっけ?」
智子 「変わってないわねぇ、香織は。大学の時から、いいとこどりばっか」
香織 「なにそれ、どういう意味よ?」
久美 「要領がいいのよ、一番。大手に就職して3年で寿退社。息子は今年社会人で晴れて親業、卒業。全部持ってる、香織は。ね、智子」
智子 「そ! 私はシングルアゲインだというのに…」
久美 「私はシングルフォーエバーだというのに」
香織 「ね、ちょっとやめない? ネタにしてもいじりづらいんだけど。それに、オチは決まってんのよ。『私なんてただの主婦だし。久美みたいに引っ張りだこの会議通訳で、広尾の高層マンションに住んでるわけでもなければ、智子みたいに国際絵本原画賞にノミネートされる絵の才能もないし』、これでいい?」
久美 「はい、おしまい! みんな違ってみんないい!」
智子 「バイ金子みすゞ」
香織 「ふーん、去年とは違う締め方じゃない?」
久美 「でもほんとに、私、年1回の夢の国デートで2人に会えることを励みに毎日がんばってる」
智子 「私も! 去年まではダンナが帰りが遅いってぶつぶつうるさかったけど、今年はもうそういうのなし! ザ•開放感! イェーイ!」
香織 「智子、どういうテンション? これ、乗っかっていい感じ…?」
智子 「乗っかって乗っかって。全然乗っかっちゃって! 子供もいなかったしさ、卒婚よ、卒婚」
久美 「ソツコン?」
智子 「うん、結婚の卒業。この3年ぐらい、気持ちがすれ違うようになってて、なんかギクシャクしてストレスだったし。ま、50を手前にリセットですよ。あ、リブートかな」
香織 「強いなぁ、智子」
智子 「そう、かな…」

久美 「で、行くの? イタリア」

智子 「そうだね、行きたいなって。出版社の人が、1年間勉強してくればって言ってくれてて」

久美 「ほんとすごいよ。そんなチャンス、そうそうないよ。確かに行くべきだわ」

香織 「でも、来年の夢の国デートには智子いないってこと?」
智子 「そうだね。でも言うても1年間だけだから」
香織 「ふーん… ねぇ、久美はどこにも行かないでよ、寂しいから」
久美 「大丈夫。私は日本での国際会議の通訳だから、どこにも行きません」
香織 「あ!」
久美・智子 「何?」
香織 「スマホ! さっきのジェラートのお店に忘れてきちゃった!」
智子 「やだー」
久美 「行っておいで、早く。待ってるから! あ、一緒に行く?」
香織 「ううん、大丈夫! 行ってくる! ごめん! ちょっと待っててね」

   SE 駆け足で去っていく足音

智子 「まったく、香織は」
久美 「そんな時間も経ってないし、大丈夫だよ、きっと」
智子 「ねぇ、久美」
久美 「ん?」
智子 「プルーン、好き?」
久美 「え、何?急に」

智子 「プルーン。ヨーグルトに入れて食べるって」
久美 「あ、うん。よく覚えてるね。朝はプルーンとヨーグルトとコーヒー、ここ20年ぐらいそう。何も考えないで食べてる。ん? それがどうかした?」

   SE バッグから紙切れを取り出す

久美 「何、それ?」
智子 「今日、3人で会う時に、チャンスがあったら話そうと思ってて」
久美 「え? 何のこと? 何、これ。レシート?」

   SE 紙の音

久美 「セブンマート広尾店? あ、うちのマンションの一階のお店だ。え? どうしたの、これ?」
智子 「見て、買ったもの」
久美 「えーと、プルーン、ヨーグルト… え、私の買物みたい」
智子 「ダンナの本の間にはさまってたの、まるでしおりみたいに。あ、元ダンナのね」
久美 「え…」
智子 「時間は23時25分。日付は2年前」
久美 「な、なに? これがどうしたの?」

   SE 紙の音

智子 「嘘、まさかね、違う、絶対に違うって思いたかった」
久美 「智子…?」
智子 「それで、これ。もう一枚見つけちゃった。こっちは1年前の日付。やっぱり同じ店で同じものを買ってる」
久美 「あ…」
智子 「この2回とも、出張って言ってた日だったんだよね」
久美 「智子… あの…」
智子 「レシートなんかすぐ捨てる人なのに、なんでこれだけ持ってたんだろうね。しかも私が見つけやすいところに」
久美 「あのね、聞いて、智子」
智子 「私ね、友達でいたいんだ、ずっと。久美と香織と。でも知らないふりを続けるのもいやなの、できない」
久美 「…ごめん」
智子 「私たちの心が離れたのが先か、広尾でプルーンを買ったのが先か。でもそれは知らなくてもいいかなって」
久美 「あ、あの、いつか言おうと思ってた。これは本当なの」
智子 「来年の今頃はきっとイタリアだけど、その次の年は戻ってくるから、また、三人で夢の国デートしよ!」
久美 「ねぇ、ちゃんと話したい。智子、全部話させて」
智子 「全部? (笑って)ねぇ、久美。私、全部に丸をつけたいわけじゃない。仕分けしたいわけじゃないの。なんて言うか、箱に入らないものがあってもいいかなって。そんな感じよ、今は」
久美 「え? 箱? 何?」

   SE 遠くから近づいてくる靴音

香織 「(オフで)お待たせ! ごめーん、あったよ、あった、スマホ」
智子 「よかった! まったく香織ったら」
香織 「スマホ、置き忘れたの、今年2回目。やばいね。歳かな、あれ? 久美? どした? 赤いよ、目」
久美 「(少し涙声で)あ、うん…」
智子 「お疲れなんだって。昨日寝れてないって。あと、あれじゃない? 会議資料、字、ちっちゃすぎなんじゃない?」
久美 「あ、ね。ちょっと今度から文字の大きさ変えて印刷しようかな」

   SE 花火の音

香織 「あ、花火!」
智子 「毎年恒例だね。きれい。ほんと夢の国…」
香織 「あ、そうだ! 写真撮ろう! 今年はあれ持ってきてたんだった、セルフィー棒」
智子 「いいね! 花火をバックに撮れるかな」
香織 「そうそれやりたくて。ちょっと待ってて」

   SE 靴音 

香織 「(オフで)えーと、こんな感じで、あ、そこに立ってて。私、真ん中に入るから」
智子 「相変わらずセンターをとる女。ちょっと、久美、ほら、写真」
久美 「あ、うん」
香織 「(よし、できた)」

   SE 靴音

香織 「はい、撮るよ、いい顔して」
智子 「はーい! ほら、久美も! え、これセルフタイマー?」
香織 「(どやって)ふふ、リモコン。すごいでしょ。ちょっと、久美! ほら、テンションあげてこー!」
智子 「そうそう、ほら笑って! じゃないと怒るよ」

久美 「あ…」
香織 「何言ってんの? 怒んなくてもいいよ。はい、いくよ!せーの!」
智子・香織 「チーズ!」
久美 「ええ、チーズは昭和すぎない?」

香織 「ちょっと、久美! もう…」

智子 「何よ、定番じゃない。チーズでみんなでいい顔して写真撮ろうよ。それイタリアに持っていくんだから!」
久美 「あ、あのね、この間仕事で一緒になった海外の人がね、『ウィスキー』って言って撮ってたよ。よくない?」
智子 「ええ… ウィスキー? おしゃれすぎない?」
香織 「わかったわかった! じゃ、ウィスキー!でいこう。いい? はい、カメラ見て。せーの!」

            (終わり)

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★使用・上演等に関しては、別途ご連絡ください。

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