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ショップ店員見習い中

携帯の解約に行った。

少し待って、呼び出された時、ふと、胸元のプレートが目に入った。

「研修中」

確かに、こなれた感じはしないが、ピュアな印象。
着席する前に、椅子を引いてくれた。
自身が、研修中で、不手際があるかもしれないことを、店員さんは告げた。
少し、緊張して、顔がこわばっているが、優しい印象を受けた。

「大丈夫ですよー」

と、わたしは答えた。

後ろには、ベテラン店員さんが控えていた。

順を追って、手続きが進む。
特に不手際などもなく、進んでいった時。

ふと、店員さんの手元に目が止まった。

…震えている。

画面を操作する手が、小刻みに、震えている。

この店員さんは、ひとと接するのが苦手なのだろうか?
それとも、覚えたての操作に緊張しているのだろうか?
もしかして.…これが初めての接客なのだろうか?

そんなことをぼんやり考えながら、わたしは、手続きが進んで行くのを見守った。

待っているうちに、わたしのこころの中で、なんだか声が聞こえてきた。

「がんばれー、がんばれー、がんばれー。」

わたしの中の、小さなこびとが、優しくささやいている。

「がんばれー、がんばれー、がんばれー。」

もう一度聞こえた。

(だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。)

声にすることなく、わたしも、ゆったりと、時を待った。

そうして、なにごともなく、手続きはあっさりと終わった。

(あの店員さん、働き続けていけるかな。いけるといいな。)

わたしは、そう思いながら、帰路についた。

あのショップへ行くことは、おそらくもう、ない。

だけど、こんな風に、

人生のほんの少しの時間だけ、接点があっただけのひとを、こころの中で応援しているひともいると、誰かがいつか、気づくといいなと思う。

…あれ?あなた、もしかして、あの時の、店員さんですか?

実は、あの時、応援してました。

なんて(笑)。

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