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アレアレ金沢 ~もしくは銀輪は唄う(北陸道草遊覧 3)

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前日の嵐は夜のうちに過ぎ去り、12月8日の金沢は朝から晴天に恵まれた。
日本海に面した都市の冬景色とは信じがたい青空だ。今日は丸一日、観光に充てている。

旅に出る前はレンタカーで奥能登を目指してイカキング見物、はたまた日帰りバスツアーで輪島もしくは五箇山などを計画してたが、どれも天候不順を念頭に置いていた。雨降りでも楽しめそうな観光という視点からの発想だった。
幸運なことに街にはまだ積雪もない。冬というより、名残の晩秋だ。こんな好天の観光には自転車が相応しい。

全国の都市部を中心にシェアサイクルサービスが広がって久しい。
金沢でも「まちのり」という、ドコモバイクシェアと連携した公共シェアサイクルが展開している。一回30分利用や一日パスの料金体系があり、今回は一日パス1,430円を購入した。


ところで、金沢市内観光の定番に、バス乗り用の金沢市内1日フリー乗車券(おとな800円)がある。過去に周遊バス観光をした経験から照らし合わせ、両者比較の結論を先に出しておく。

定番ルート巡りは断然バス。悩んだらバス。ラクしたいならバス。荷物が大きければバス。天気がイマイチならバス。真夏はバス。雪が積もったらバス。

バスの完勝ではあるが、シェアサイクルのメリットを問われれば曰く

周遊バスの範囲より広く細かく、公共交通機関路線に囚われず、時間に縛られず、小回り利かせて、爽やかに走り回れる

以上の点がアドバンテージだと感じる。今回の私の目的にはシェアサイクルがばっちりフィットしたが、金沢観光客の中ではマイノリティだと自覚している。
財布とスマホとモバイルバッテリーにエコバッグを携え、サコッシュを肩から下げてサドルにまたがり、街へと繰り出した。

シェアサイクルを借りる前に、ブレーキワイヤーの緩みやタイヤ空気圧をチェックしてから自転車選択するのをお薦めします
サイクルポートによっては空気ポンプが設置されてます、サドルの高さ調整もお忘れなく


加賀百万石の歴史を持つ金沢。市内観光に絞っても幾つもの観光プランが思いつく。
メジャーどころでは兼六園・茶屋街・武家屋敷・忍者寺・近江町市場・21世紀美術館などが、口からすぐに出る。
食べ物も、懐石料理・カニ・寿司・金沢おでん・ハントンライス・金沢カレー・各種B級グルメなど、枚挙にいとまがない。

一般的な観光地はすでに一通り巡ったこともあり、今回は地元の和菓子とお茶巡りをテーマに決めた。
京都・名古屋・松江のように、公家・武家文化が栄えた街には茶の湯文化が今も息づいており、茶の湯には和菓子がつきものである。

茶席で用いられる上生菓子から、地元の人々に安らぎを与えるおまんじゅうまで、クラスやカテゴリが分かれる、興味深くて美味しい食べ物だ。
抹茶ソフトや和スイーツのように現代風にデチューンされたものも美味しいが、地元で普通に愛される和菓子を食べ歩きたい。
なによりも地元相手のお店は、他の土地の観光物産展にまで出店しないところが多い。

茶の湯の下で、お茶そのものも発展した。
玉露お抹茶煎茶、こちらも用途に応じて多種多様だが、金沢といえば何と言っても棒茶。棒茶も今では全国展開する高級ブランドが指折り数えるほどあるが、せっかく本場を走るなら地元の人が普段遣いする価格帯で探したい。

和菓子屋の下調べには、髙島屋和菓子バイヤー畑主悦氏のブログが心強い。都道府県別でも並べられるのは便利が過ぎる。書籍版は愛読書の一つである。
茶舗の方は勝手が掴めなかったので、Googleの検索ワードを駆使して見つけた箇所に直感でピンを指した。


和菓子屋で是非とも行きたかったのが、尾山神社のそばにある板屋。代表銘菓のこもかぶりは作り方が愛らしい職人技で、製作動画がツイッターでも時折バズってる。

話題が話題を呼んで、北陸物産展でも売り切れ続出。材料的にはどら焼きライクで日持ちする包装が施されてるが、店舗では焼きたてがその場で味わえる。一にも二にもなく訪れた。

入店する前から生地を焼く香りが溢れかえり、店内では若き職人氏が手際よく愛想よく、目の前でこもかぶりを焼いている。
職人氏から楽しいお話を興味津々に伺いつつ焼きたてにかぶりつく。…………うまい。御座候から薄くはみ出たような焼き皮部分が全面を覆い、甘めとあっさりめの真ん中を突くねっとりしたこし餡、中には大きめの栗、そしてアクセントに香ばしい海苔。
パリパリでホクホクのホカホカ。
手元からあっという間に消える菓子だ。気づいたら3つぐらいは平気で平らげそうだ。怖い。

実演こもかぶり
焼きたてこもかぶり接写

金沢のお店で味わうか、お近くの物産展で実演を見かけたらすぐに飛んでってほしい。評判の味を身体で教え込まれた。

和菓子屋は土産の買い求めからおまんじゅうまで何店か巡ったが、先ほどの板屋の職人氏に「自転車で和菓子を巡られてるならこちらも是非」と教わったお店を紹介。
にし茶屋街から南東に伸びる寺町にある戸水屋、伝統ある店構えの朝生菓子(おまんじゅう)屋だ。おはぎと柚子上用饅頭を犀川沿いでいただく。
柚子の存在感引き立つ薄皮とバランス良い甘さの餡。おはぎの方は味付けが違っててほんのりと塩気を感じる餡、その中に棲むボリューミーな半殺しが後を引く。美味しい美味しい。
周遊バスの路線沿いではないが、繰り返し食べたい味だ。これが地元の味なのが羨ましいな寺町。

戸水屋 柚子上用饅頭・おはぎ
戸水屋


お茶の方は帰宅したのにまだ飲めてなくて恐縮だが、茶舗巡りが単純に楽しかった。
住宅街の中にあるお店を訪れると「レンタサイクル?」と店主氏に声をかけられる。かくかくしかじか地元の普段遣いを探し走ってると相談すると、合点が行った様子で色々と金沢棒茶について教わる。
買い物を済ませ菓子お茶巡りを続けて走り回り、数時間後に別の茶舗に入ったら、先ほどの茶舗の店主氏と鉢合わせする。「ここが茶商工協同組合の理事長のお店ですわ」と聞く。
なんだかマンガみたいな出会いをしてた。

買い漁ったお茶

自転車で金沢の街を走った効果としては、金沢の地形がダイレクトに実感できたことだろうか。犀川と浅野川の、金沢の街を横切る2つの川が長年かけて削り取った河岸段丘を味わった。
地図で見ると川からほんの少しの距離なのに、その間には坂道が待っている。2つの川に挟まれた小高い丘に金沢城址と兼六園が作られている。
街づくりは正直だ。特に空襲を受けず、江戸時代の区割りがそのまま生きる金沢ではそれを強く感じる。やっぱり自転車も楽しいんじゃない。

冬の風物詩 雪吊り
普通の民家でも立派な雪吊り
にし茶屋街の通り道

参考に当日走ったGPSデータを添付する。途中で乗った野々市市までの鉄路も記録されてしまったが、それを差し引いた23kmが正味走行距離か。ポタリングらしい距離だと思う。(電動アシストついてたけど……)
他に徒歩で14,000歩。大福6個つまんだ分は燃焼できたと信じたい。


野々市市に残る鬍鬚張魯肉飯ひげちょうるうろうはん
昼食の魯肉飯と羊肉
我が家の聖地 天狗ハムの本店

翌日の東京行は別ブログで記した
時系列で書く野暮をすると、金沢の夜は地元スーパーアルビスで買った昆布おにぎり(北陸の昆布文化も見逃せない)と惣菜、翌朝は金沢駅百番街あんとで観光気分を味わってから新幹線、東京は上野で降りて再びシェアサイクルに乗り、湯島と団子坂でお土産購入、御茶ノ水でイベント参加して帰途へ着いた。
今回の旅でシェアサイクルの実践的な活用方法ノウハウが積めたのが、個人的に大きい。設置範囲が年々広がってると薄々感じてたし、公共交通機関に短く徒歩に長い場所では、都市部の足として効果的に使えそうだと感じた。
金沢でやり残したことはまだあるし(特に食の面に於いて)、旅先にちょうど当てはまる距離感だと思った。次こそはさぶろうべいに行きたい。

上京の目的

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