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【読書レビュー】脱人間論 執行草舟

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小学1年生で「葉隠」に出会い、そこから60年間武士道を貫き通した執行さんからの現代人へのメッセージ。これまでの書籍の中でも、特に未来を憂い、崇高に生きることを訴える思いが強く感じられる書籍だと思いました。ノートにメモを取りながら、まず一度読み終えました。執行さんの本は一度読んだだけで、理解し、実践できるまでになるのは難しいので、このタイミングでレビューを書くのに抵抗はありましたが、ここで書かないと、いつ書ける自信が持てるのか?という不安に負けた形で恐縮ですが、書かせて頂きます。

経済成長、効率優先、物質主義になり、恥も弁えもなく幸せを求めることが正しことになってしまった現代人。自分が善人であると決めつけ、苦悩、呻吟から逃れ、額に汗して働くことに信義も無くなってしまった人間から脱去することの必要性を武士道一筋で、現世と距離をとり続けてきた執行さんが、辛辣な言葉で訴え続けます。

20年間会社員をして、現世の中で揉まれ続けた自分としては、これまでの人生の一切を否定された気持ちになる言葉が多く、心的ダメージを何度も受けながら、読み続けました。まさに、読みたくなくなります。それでも、執行さんの言葉には真実があると感じるものがあり、それが諦めずに読み続ける気持ちに繋がっていたように思います。本書は、500ページを超え、執行さんも400字詰め原稿用紙に1000枚を超えた執筆に達成感を感じられている後書きがあります。この大作の中には、読んで欲しい、感動して欲しい、というような読者側に配慮し、歩み寄ったような表現が全く出て来ません。筆者の真摯な思いとブレない姿勢が感じられるのも、この難しい、ある意味辛い本書を読み続けられた要因です。

今日は、本書を読み終えた後に、午後散歩に行きました。フランクフルトのこの時期は晴天というものがなく、毎日、曇り、雨、雪で、昼間も暗い日々です。日が暮れるのも早いので、夕方の散歩と思って出かけても、直ぐに夜の散歩に切り替わります。特に今日は、雪が降り出し、コートのフードに隠れながら2時間歩き続けました。天気の悪い日は散歩したくないとは思うのですが、出てしまえば、肉体的な辛さは特に感じないという性格です。歩きながら本書と武士道について考えていると、自分も武士道に通じる思いと行動を取っていた過去のことが思い出されました。特に、若い頃に「楽しまなきゃいけない」という言葉に強迫観念を持っていたこと。自殺の選択肢もあり、と思っていたこと。旅行や遊びに行くことにあまり興味がなかったこと。(ここは家族が出来て変わりましたが。)何となく感じていたことで、表面的なことなので、本質が武士道に繋がっているとは言えず、執行さんの「脱人間」の境地に辿り着くには程遠いです。ただし、本書を読みながら、自分の現代人間ぶりに絶望的な感覚しかなかったことに対し、散歩をしながら、まだ何とかなる光明を見た気がします。

自分のこの光明に繋がった武士道に近いものは、34年前の小学4年生の時に得ていたのではないかと思います。読書ではありませんでした。担任の先生の教えでした。担任のMS先生は、当時30代半ば、長身細身で大学時代はボクシング。声量も凄く、怒った時の迫力は凄いものがありました。勿論、怒っても手は出しませんが、生徒に自分で自分にゲンコツをさせる形で体罰をされていました。自分ゲンコツも、1回で済まず、反省と痛みが感じれられる(先生が)まで、何度もやり直しさせられました。趣味はクラシック鑑賞で、熊本の田舎の小学校の教室に個人所有のレコードプレーヤー、大型スピーカーを設置して、クラシックを聞かせてくれていました。音楽の授業では、生徒一人一人が全員の前で独奏、声が小さいとやり直し。勉強はちゃんとやって当たり前、サッカー部の顧問もされており、文武両道が当然という雰囲気でした。怖かったですが、カッコいいという憧れも感じ、先生が求めるように、全部出来る人間になりたいと思っていました。その時に、毎日机に向かうという習慣も出来たと思います。厳しくて、怖い先生だったのですが、何故ついて行ったのか?愛情を感じていたのだと思います。何を教えるかではなく、愛を持って教えれば、勝手に学びだすということなのかもしれません。

執行さんが、脱人間に求めることは、愛に生きて魂を燃やすことでもあります。今日、それを学んで、散歩をして、小4の愛を感じて生きたことを思い出したことに、不思議な縁を感じます。読書の力というのかもしれません。

いかに生きるかということは、いかに自分の外に発信するか、影響力を持つかということを考えがちですが、その前にインプットも重要で、そのインプットもいつどのような形で気づきとして持たされているのか感じる必要があり。インプットする作業、気づきを感じる感性、発信すること、求められることは多いです。それに逃げずに正面から取り組むことが、魂を燃やすことになり、「脱人間」にも繋がると信じたいです。


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