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【ネタバレ有】「風の盆恋歌」原作あらすじと歌詞の照合

みなさんこんばんは、じごぽです✌︎
今日は石川さゆりさんの曲でお馴染み、大衆演劇界では十八番にされてる方もたくさんいますよね、「風の盆恋歌」について!

実はこちらの楽曲、高橋治の恋愛小説を原作とした内容となっています。歌詞を聴いただけじゃ、いまいち自分の中の解釈がパッ💡としなくて、原作のあらすじ調べたんですけど、まあ、もうほんとに。出てこないことこの上なしなのよ。インターネットの海にこんな有名曲の原作のあらすじが載ってないことあるんだね???😌🕸
これはもう、自分で読んで確かめましょう!!!ということで読んでみました☺︎ こちらも、記憶があるうちにメモをば。

今回はあらすじと歌詞を照合って形で書いておこうかなっと思います💪 解釈というほど入り組んでないので、話の内容がわかれば大刺さりって感じです。
以下、読まなくてもおおよそ話がわかっちゃうように書きます。がっつりネタバレありますので嫌いな方はご注意くださいませ⚠️

また、役者さんたちが踊られる際などは、歌詞のストーリーをそれぞれに解釈されてらっしゃると思うので、その世界観を十分に楽しみたい、正解は知りたくない!という方はやめておいてもいいかも🧐 でもね、内容知るとまじでめちゃめちゃのめちゃに刺さるのがこの「風の盆恋歌」です。

それではいってみよー!!!💪

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あらすじ

主人公は大手新聞社に勤める男 都築克亮(つづきかつすけ) と、その学友であった女 中出えり子(なかいでえりこ)。

2人は学生時代、いわゆる「民学同」の学生運動から始まったグループに属していました。初めに集まりがおこったのは民主主義を推し進めるためだったけど、のちのちはただの親睦会のようなものになっていったみたい。
👉小難しいこと言ってるけどまぁ同じゼミとかサークル的なことです(?)

そしてある日、そんなグループのメンバーの1人が、"えり子に想いを寄せていた"と記した遺書を残して自殺します。これをきっかけに、グループ全体が「えり子を守らねば」という雰囲気持つことになります。そりゃそう、え、てか、そんなこと書かなくて良くない!?死ぬ時に!?ねえ!?!?ひどい。しかも死ぬ前にえり子に「私好きな人がいるから」って振られたらしい。それで遺書に書くのはさすがに悪いよね、わざとやんね。

一種異様というか、そういう、「えり子」と「恋愛」という組み合わせがタブー視されてるような空気の中。都築とえり子はお互いに惹かれ合いつつも、進展できずにいました。たぶん☝️の「好きな人」も都築だったけど、仲間の自殺の一因になっているかも知れない恋って。「俺も好きだよ!」なんてね、言い出せないよね...。

そして月日は流れ、2人の関係性は変わらぬまま、同じグループ内で、都築には"志津江"、えり子には"中出"という別の相手ができていくことになるのです😌 どちらかといえば消極的な2人は、積極的な志津江や、情熱的な中出を、「自分を求めてくれるのなら」とそれぞれに受け入れます。

ある夏の初めの日、えり子は一度だけ都築に思いを伝えようとしたことがありました。きっかけは都築の卒業論文のための調査。蔵一杯に詰まった書物に書かれた俳諧を調べるために助っ人を求めていた都築は、仲間内で手助けを募ります。ところが都築と良い仲になりつつあった志津江はこれに名乗り出ず、それならばと、えり子が手伝いを買って出ました。

暗く風通しの悪い蔵の中に一日中座っていなければならないこの調査は、体の弱いえり子にとって当然楽なものではありません...。耐えられるのは好きな相手と過ごす時間だから☺︎ 都築も薄々それに気がついており、そして自らの「この調査の時間が終わって欲しくない」と願う心も自覚していきます。まーつまりは両想いって話なんですよ!全然くっつかないけど!まどろっこしいね✌︎

そしてそんなふたりっきりの調査も最終日。えり子は「崖から飛び降りるような心持ち」で、都築の前で目を閉じて、彼の腕を待ちます。
ねぇ、ほんとこういうとこだと思うの...あくまで相手のアクションを待つ、受け身の姿勢😠 もう一歩踏み込めんのか!ってみんなも思うよね、わかるよ、、、まぁ言ってしまえばキス待ちってことだからわりと勇気出したのかなあ!勇気の出し方理解しかねるけど!

でも聞いて、都築はもっとひどいんですよ!!!
都築と志津江が、そして中出とえり子が、良い仲になっているのはグループ内の「みんな」が知ってる。だから、その体裁を崩せない。そんな理由で、自分の好きな女が目の前で抱きしめられるの待ってるのに、「(調査が)終わったね、ありがとう」なんて冷たい言葉かけるんですよ....信じられる?私だったらそんなやつ20年も30年も好きでいないわ。

そんなわけで密かに告白し、拒否されたえり子。何がつらいって、相手も自分も両想いなのは痛いほどわかってるんです。なのに拒否されて、きっと、お互いに別のいい相手がいるとは言え、まだその人と「付き合ってはいない」今の状態が最後のチャンスだったのに、思いは叶わず。えりちゃん可哀想すぎなの...。えり子は作中で都築のことを「逃げた」と表現しています。まじいっつも逃げ腰だよな、許せん。

調査現場だった蔵から駅までの帰り道、元来体の弱いえり子はこれまでの疲れ、そして想いを拒否されたつらさから、倒れてしまいます。えぇん、かわいそうすぎ!崩れ落ちるえり子を抱きとめた都築は、その身体の軽さに驚きます。
いやここあらすじとは関係ないんだけどさ、このひとくだりによって、ほっっっそい人がやる女形の「風の盆恋歌」が刺さるようになるんよね。風の盆恋歌やるときは病弱そうな女であってほしい。個人的な願いだけど🤲

この蔵での出来事の数日後、2人の属するグループは何度目かの風の盆へ旅行に出かけます。そして旅先での晩、2人の仲に危機感を覚えた志津子と中出の画策によって、都築は「えり子と中出は既に邪魔しちゃいけない仲になっている」と勘違いさせられ、それ以来2人の距離はどこかよそよそしくなっていくのでした。

ここまでが学生時代の話。時は流れて、えり子は医者となった中出の妻になり子を持ち、また新聞社に勤める都築は弁護士となった志津子を妻として、それぞれの夫婦生活を送っていました。
ほーーーんとさ、人間関係って思うようになんないね。恋愛とか結婚って往往にしてこんなもんじゃない?ほかに本当に好きな人いるけど、とか、妥協で、とか。自分を求めてくれる人と一緒になれば、それは幸せかもしれないけど、けど。再会後、えり子が都築に問うシーンがあるんです。

あのね...幸せって、いいことなの?
人間にとって、生きたって実感と、どっちが大事なの?

これ、今まで読んだどんな文章よりも、「道ならぬ恋」を象徴する言葉だなって...。幸せになりたくて選んだんじゃない、許されないことってわかってる、でも。って。
不倫とか浮気とか肯定派じゃないですよ!滅びな!?と思ってるけど、感情移入してしまうところはありますよね...。

2人の再会はパリ。特派員としてパリの支局に勤めていた都築の元へ、突然えり子から「中出の学会について来たから、お会いしませんか?」と電話がかかってきます☎︎ 都築は仕事を放り出してすぐにえり子に会いに行きます。いいんか?そんなことして!しごとはちゃんとして。

パリで落ち合った2人。支局とホテルの間にあるカフェで待ち合わせしよう、はやくついたらそこで待っててねって言ってるのに、えり子ちゃん、カフェを通り過ぎ支局の方まで歩いてくるのよ。「無理よ、すわってろなんて。電話をかけてしまった後は、一歩でもあなたに近づきたくて」って。めっっっちゃくちゃかわいくないですか!?!?!?もうね、ここで、どうしようもなくえり子が愛しくなったよわたしゃ...都築くんもめちゃくちゃきゅんきゅんしてました。まあそんなわけでパリで再会したふたり。都築はふざけるように「不倫だ」なんて言ったりしつつ、(いや、まじで不倫なんだよふざけている場合ではない、そうやってふざけることで罪悪感を消そうとしたって無駄だよ😠) ドライブしながら、蔵での告白と、2人の間に20年もの距離と年月を開かせた風の盆の晩を振り返ります。

そこでえり子が言うんです。
「私を、もう一度風の盆へ連れて行ってください」

はい。ここまでが過去〜再会編です。なっげ!このペースでいったら終わらんから出来るだけかっ飛ばしまーす!!!まだ誰か読んでる?大丈夫そ?

2人に20年間の距離を作ってしまう原因となった風の盆。その風の盆で、あの時我慢してしまった、止めてしまった想いを再び動かしたい。そのえり子の気持ちを受けとめた都築は、風の盆が開かれる越中・八尾に一軒家を買いました。一年間で風の盆の3日間だけを過ごす家です。えり子との3日間を、誰にも隠れて過ごすための家。
え、すごくない?家庭があんのに。家買ってんだよね。奥さんにバレることない?バレた上で許されてんの?すごい、ね?ね???

さて、家を買ってからの3年間、風の盆にえり子は現れませんでした。そしてやってきた4年目の夏。都築の留守中、家の世話を任されている とめ は、思わぬものを眼にします。玄関脇の格子のはまった窓の下の小さな庭に、一輪の八重の芙蓉の花が咲いていたのです。

とめでも、都築でも、八尾の人でもない「誰か」が依頼して植えられたこの芙蓉は、日に合わせて色を変える「酔芙蓉」。翌日、この芙蓉が色づく頃、えり子がこの家に初めてやってきたのでした。

2人は風の盆を満喫します。ここで、お互いのパートナーは「風の盆なんてもの」に興味はない、という描写があるんだけど、それなあ、そういうとこあわないとつらいよなあ、と思うなどした....。こっちが感動して情緒崩してるのに平然とされてると興醒めしない?というか一生一緒にはいられねえぜ!さよならっ!って気持ちになる✌︎

関係ない話はやめておこうね!で、その晩、2人は初めて同じ寝床につくわけです。都築は一年目から、桔梗の花模様の色違いの寝具と、"どきっとするほどに艶いて白い"、白一色の麻の蚊帳を用意していました。

このあたり、恥ずかしさからためらうえり子の描写がとっても色っぽくて素敵です、ぜひ読んで...。
暗い蔵の中で待っていた都築の腕を、真っ白な蚊帳の中で30年越しに感じるえり子。

「......こんなこと.......自分で......おかしいけど.......綺麗な体を......してたのよ。......それをこんなに......惨めに......待たせて」

はぁ、かわいくないですか、泣きそう。今も綺麗だよって言われて、うそよ!って都築から自分の体を弾き飛ばすように離れて身を伏せるんです。ねぇえ、私、こういう時にいつもと違う様子を見せる女が大大大大好き。いつも冷静で、噛み締めるように言葉を絞り出すえり子が、こんなに取り乱してて。はぁ🤦🏻‍♀️ でも、恥ずかしいって言いながら自分から浴衣の肩を抜き、都築に腕を廻すえり子。まじでかわい。かわいっ!!!!いつも遠慮がちで遠回しで気にしいで、素直に自分の気持ちを表に出したりしない、そんな女が感情のままに動いてる瞬間ってめちゃめちゃ刺さる、ど性癖なの......みんなはどーお?

で!!!!ここで出てくるのが、「鮎」です。烈しい炎が訪れて、えり子の呼吸がごく静かなものになった後。

え、めちゃくちゃ遠回しに喋ってるけど伝わってる?よね?大丈夫だよね?意味わからん!てなった場合は、めちゃめちゃ直接的に言うんで聞いてください。

静かなものになった後。えり子は自分がどこにいるかもわからないようにうろたえて、また都築の腕の中で力を失います。そして急にひとこと。「.......鮎よ。」

意味わかる!?!?!?私はね!あんまわかんない!ゆめまぼろし!そして、うつつ!です!!!!

「......鮎.......細い、糸のような......藻よ。......岩についてるの。......若草色の藻よ。......あ、揺れてる。......石だわ。......小さな、可愛い石がいっぱい。......陽ざしが......石の上で、チラチラして、......ああ、私の体にも......さしてる.....」

この台詞から、彼女に見えている情景は鮮明に目に浮かぶんだけれど、事後に急に「鮎よ」なのはかなりむずい。でもきっと鮎になったんです。水音の絶えない坂の街・越中八尾で、えり子は30年想い続けた都築と風の盆を楽しみ、ひとつになったことで、川を登り、跳ね、キラキラと輝く自由な鮎になったんです、、、なったみたいなの、、、。なんかわかんないけど、この後自分でもびっくりしてた、かわいいね...。

えり子が落ち着きを取り戻したころ、都築は「なあ」と切り出します。

「正直に答えてほしいんだが」
「ええ」
都築はまたまよった。
「いって下さい。......なんでも答えますから」
胸の中から見上げるように都築の顔に目を注いだ。
「......あのな、.......死ねるか、俺と」
〜略〜
「いつでも。こんな命でよろしかったら、今すぐにでも」

んんんんんんんンンン!ってなった。はあ。そんなわけで、2人で過ごす風の盆の一年目はあっという間に過ぎてゆくのでした...。書きたいとこいっぱいあるんだけどさ、えり子かわいすぎて、意外と強かな立ち振る舞いするとことかも詳しく書きたいけどもはやこれあらすじと呼べない長さ!長すぎだから!やめとく!

ちょっと逸れるけど、八尾で都築がお世話になっている、踊りの名手、清原という男がいます。清原には同じく踊りの名手と言われた杏里という年若い娘がいました。
ところがある年から、杏里は姿を見せなくなり、清原は風の盆で踊ることをしなくなります。
杏里は、妻子ある人と心中未遂を犯し、男は死んで自分だけが生き残ってしまったのです。清原は杏里を街から叩き出し、自らも祭りに参加することをやめたのでした。

風の盆の日になると、川向こうまでやってきて泣きながら音を聞き、一人で踊っているという杏里に、えり子は共感するところがあったのか、自分たちの家へこっそりと招き入れて風の盆へ参加させます。えり子は杏里をまるで自らの娘のように扱い、杏里もえり子を慕うようになります。

風の盆のあと、東京と京都、それぞれの暮らしに戻った2人は手紙と歌のやりとりをして一年を過ごします。と言いたいとこだけど!都築からの手紙は十一月二十三日でプッツリ途絶え、あとはえり子から書くばかりで返事は来ません...この章はただ手紙の文章のみが記されるスタイルになっているので、こぬ返事を待つえり子の気持ちが痛いほど伝わってきて読んでてとってもつらかったです。。。

二年目。2人の家で落ち合う都築とえり子ですが、お互い何かあったことは一目見てわかるのでした...。

この年、えり子は都築にあるお願いをしていました。
風の盆の3日間だけでなく、私のために4日目を作ってほしい、という願いです。えり子が4日目に連れて行ってくれと頼んだのは、白峰でした。そこで、紬を一反織ってもらうと言うのです。

さて、落ち合って初日の日中、清原を訪れた都築は、だれか興信所のような人間が自分たちの家のことを調査していたと聞かされます。忘れがちだけど不倫だからねこの人たちね。家族にバレたか、と思いつつ、そのことをえり子にも伝えますが、お互いのパートナーはそんなことをするような人間には思えず、2人は不安な気持ちだけを募らせます。

その晩、2人はお互いの身に起きたことを語り合います。えり子は家族との関係性や、一年間「死ねるか?」と問われた答えを考え続けたことを、そして都築は戦場への特派員の部下に残留を命じた途端にその部下が殉職したことを「人を1人殺してしまった」と話しました。

このシーン、2人の答えが「ともに死んでしまいたい」というところに帰着していくようにしか読めなかった...。えり子が都築の右手を左胸の下に置き添えて、「あなたが死ぬのなら、私も連れて行ってね。突くのはここよ」と囁きかけるところ、心中ってなんて甘美なんだろって思っちゃったよ。あぶないあぶない。江戸時代じゃないんだから!憧れてる場合じゃないのよ!

翌晩の風の盆で、事件は起こります。
見物客の中に、えり子が娘・小絵の姿を見たと言うのです。

この時、小絵には、見合い話が持ち上がっていました。えり子の夫・中出が連れてきた、国立大の医学部を出た男で、仲介に医長を頼むという強引ぶり。小絵にはキリスト教系の大学で神学を学ぶ恋人がいましたが、中出は「宗教などと言う前近代的なものを説く人間となど一緒にさせるか!」と、否が応でも医学部の男と結婚させようとしてきます。
サイテーすぎなの。わたし親が自分の子どもを所有物だと思うことにめちゃくちゃ敏感なんですけど、なぜならそういう扱いをされてきたため、もう本当に所謂そのタイプの毒親なんですよ。はあ。

えり子は自分が想う人と添えなかったことも含めて、娘には好きな人と添い遂げてほしいと思いつつも、中出に逆らうこともできず身の置き所がない思いでした。これがきっかけで家族が分断していくのが目に見えるようで、仕方なく情では小絵に、理では中出に味方するように立ち振る舞うえり子。一段と反発を強め、恋人との仲を急激に深めていく小絵と、それに全く気が付かない中出。

そんな日々の中、えり子は小絵を文楽に誘います。演目は『大経師昔暦』。ねええええ!「夢の浮橋」のあの!おさん茂兵衛の、あの...🤦🏻‍♀️ これは一回Twitterではしゃいでたことがあるから聞いたわって人もいるかもだけど。

『大経師昔暦』では、母が金に困って無心にきたことをきっかけに、おさんと茂兵衛があやまった道へ落ちていく様子が描かれています。そして今まで見てきた通り、風の盆恋歌も、えり子が娘との仲に悩みながら、都築との関係性に落ちていく様を描いています。どちらも、不義密通をテーマに取りながら、親子関係の話でもあるのです。

えり子は、おさんと自分の姿を重ねながら文楽を見ていました。そこで、娘から「このお話には2パターンあるのよ、最後に救いがあるものとないもの。」って話を聞くんです。物語のラスト、おさんと茂兵衛が市中引き回しの上処刑、となる直前に役人に救われるバージョン(近松)と、そのまま死ぬバージョン(西鶴)が存在する事をここで娘から教わり、えり子は「自分はどちらのおさんだろうか」と考えます。

都築にどちらのおさんが好きか、と、えり子は問います。都築は西鶴と答えます。西鶴の方が人間らしくて生々しいじゃないか。血が通っていて可愛い女だ。と。ンンンン...そうね。えり子はそっちだと思う私も...。でもそれは同時に救われないということなんだよ...。

さて、紬を織りにやってきた白峰。えり子がどんなものを織ってもらおうとしているのか、都築はここで初めて聞くことになります。

糸染めの絣で、文字を織ってほしいこと。ひらがなで三文字、「う、つ、つ」と。位置は、左の胸。二字目のつの書き終わりが、お乳の下にかかるくらいに。

ここまで聞いて織り手は言葉を挟みます。「.......あの......それ」言い淀みながら、「もしかして、喪服では......」
えり子は「そうよ」と答えますが、舞台で踊るための衣装よ、と誤魔化します。

地色は淡いグレー、ほんの少しブルーに寄ってもよい。文字は墨の色のような黒々とした黒。えり子は全て決めていたようにスムーズに注文を終えて、自らの喪服の用意を整えるのでした。

白峰からの帰り、杉津という学生時代の思い出の地を通った際、都築はえり子にとある提案をします。
「近松のおさんのように、もし君が救われたいのなら。八尾の家を売ってこのままここに住んでもいいんだよ。」

何もかもを捨てて今この瞬間からここで暮らそう、という誘いへの答えを、えり子は日が落ちるまで考え続けた末に断ります。
「来年までに小絵の問題は片付けておきます。もしその時まだあなたの心が優しいままでいたら、杉津に小さな家を建ててください。」と言い残して、えり子は家族の待つ家に戻っていくのでした。

三年目。都築は病気をしていました。心待ちにするえり子は現れず、待ってもいない病状ばかりが現れます。
えり子からかと思われた電話は部下からで、自分のせいで殉職した山田の妻が自殺した、という報でした。

電話を切った途端、不意に現れたのは、まるで30年前のえり子のような姿の小絵。「母は死にました。そのことをお知らせに。」「申し上げたかったのは、ここ一、二年の過ち以外、母は幸せだったということです」「あなたという方はひどいわ。あんなとしの母を誘惑して」
都築は説明のしようもない無力感を感じるばかりで、ただ頷きながら話を聞いていました。

「近く、私は父の選んでくれた人と結婚します」
自分という存在がもたらした不信感のせいで、えり子がどうにか防ごうとしていた未来が訪れてしまうこと。えり子が死んだこと。最期の時に側にいてやれなかったこと。わかっていたはずだけれど、都築は一人で取り乱します。

小絵が帰ったのち、都築はえり子がこっそり用意していた睡眠薬を飲んで自殺を図ります。夢うつつの中、あの時のパリ支局にいるように感じていました。電話が鳴っています。受話器を取ると、えり子の声が聞こえてきました。にわかにパリ支局が八尾の家に重なります。「本当に君か?」ふりしぼって出た言葉はそこまででした。

様子のおかしい都築に気がついたえり子は八尾の家へ飛んできますが、その時にはもうすでに都築は冷たくなっていました。えり子は去年用意した「う、つ、つ」の紬に袖を通し、真っ白な蚊帳を持って都築の元へ吊るします。そして台所に残された薬を飲み干して蚊帳をくぐると、都築の隣へ体を横たえました。

白麻の蚊帳の中の2人を見つけたのは、九月三日の昼過ぎに家へ着いたとめでした。枕元には祭りの中なので不祝儀は四日になってから知らせてほしいこと、そしてとめへの謝罪と感謝が記された遺書がありました。

とめは遺書へ書かれたことを守り、清原だけに2人の死を知らせました。
その日、清原は何年ぶりかに着る踊り衣装に身を固め、都築の家の前を行きつ戻りつしながら踊り続けました。踊り手たちが、都築の家に何かがあったことに気がついた頃、えり子のトレードマークであった薩摩絣を着た杏里が都築の家から出て清原の隣に並び踊り始めます。

おわらを愛し、八尾の人々に愛された2人のための、命を燃やす祭の晩が始まりました。朝の光の中に人々が散って行った頃、二輪の酔芙蓉が咲いていたのでした。

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はい。あらすじとは....?あら、とは、、?すじ、とは???一万字じゃんもうすぐ。ばかなのかい?
でも話が入り組んでるんだもん、削れないんだもん。

そんなわけで、でも大体歌詞わかったよね!

「蚊帳」「酔芙蓉」どちらも重要なアイテムですね!

作中でえり子は、蚊帳があることで都築に近づくことができた、蚊帳がなければ恥ずかしくて到底無理だったと言っています。

酔芙蓉の話できてなかったけど、この酔芙蓉という花は、朝は白いのに陽が登るにつれて赤く染まっていき、陽が落ちるのに合わせて散ってしまう、という花だそう。
この酔って散る、というところにえり子は自分を重ねたみたいです。恋に酔って、散りましたもん、ね。。。
ちなみに花言葉は「心変わり」「幸せの再来」だそうですよ。はーあ。刺さるからやめてもろて。

若い日の美しい私を抱いてほしかった
ここ、泣けるポイント...。初回に身を委ねた時から20年待たされてるから...あの綺麗な時に抱いてくれてたら、とか、あの時私を選んでくれてたら、とか、ずーーーっとそんなこと考え続けてきてたんだよ。不倫だけどもはや純愛...。その想いがようやく叶うんです、でも、若くて美しい時に見てほしかった。めちゃくちゃ切実な思いですよね...。

ここから初夜の話ですね。
鮎になったのよ。
いつでも死んでみせますわ。もね。もう説明したからいいね。

夜に泣いてる三味の音...。
はあ、そもそも風の盆ってもんを説明してなかったあ...。
とりあえずこれの50秒あたりから2分半くらいまで、その1分ちょっとだけ見てくれたら雰囲気とかわかると思います...。
https://www.youtube.com/embed/GsQSpICtHag?start=50

哀調を帯びた色っぽい音色と、しとやかでゆかしい芸術と呼ばれる踊りの連が、街を練り歩きます。祭りの日には流しで歌ったり踊ったり、夜通しこの音色が聞こえるそうです。
初夜の晩、風の盆から家へ帰ってきた2人は、家の前のあたりで夜流しの歌声を聞きました。

添うたからには 死ぬ時も二人
そんなことさえ オワラ ままならぬ

恋することのなにが悪いと歌うその歌は、まるで2人のために歌われているようで。

叶えるには遅すぎた恋。もう20年以上も別のパートナーとの道を歩んでしまっている。

最期の晩、冷たくなった都築に頬を寄せて泣いていたえり子の耳に、夜流しの胡弓の音が響きます。ああ、今夜は誰もあの歌を歌ってはくれないんだわ。

「添うたからには、死ぬ時も二人。そんなことさえままならぬ。」初めての晩に聞いたそんな恋の歌を道連れに、命をかけてくつがえしたえり子と都築の恋。

これだけの内容を5行かける3回しで表現してるの、てんさい...???なかにし礼さすがか...?
そんなわけで私は風の盆恋歌をめちゃ愛しています。
次に劇場で出会った時は、どうしようもなかった恋を思い出して刺さってみてね。

それではみんな、またね!

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