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歌麿という絵師を知ると「歌麿」がより刺さるよって小話。

2022.12.14追記・編集

みなさんこんばんは、地獄です。

今日は、我々みーんなが大好き、石川さゆり「歌麿」について。「まるでまるごと歌麿」な女の人生を想い、「ねえねえ!喜多川歌麿とかいう絵師、えぐいんですよ!」ってことを書き記したくなったので。

美人画の大家、で有名な喜多川歌麿(1753?-1806)さん、まじで生々しい絵を描く人なんだよね。

そもそもそれまでの美人画って、全身像で描かれることが多かった。歌麿みたいに上半身クローズアップの「大首絵」って呼ばれる形式で美人画を描いたこと自体がすごく画期的だったのよ。歌麿の大首絵の例として、いっちばん有名な「ビードロを吹く娘」は、所蔵館少なくてセーフの画像見つけんのむずかったから、別の有名なやつ貼っておくね。
※本エントリの画像は全てシカゴ美術館蔵。(ART INSTITVTE CHICAGOから引用)

喜多川歌麿「高島屋おひさ」

大首絵は役者絵(写楽とか!)に使われてた形式だったんだけど、なんのための大首絵?って言われたらやっぱり役者の「顔」を描くため、だったと思うのね。つまり、歌麿は美人画でちゃーんと「顔」を描こうとしたという、話!

実はさ、それまでの時代の美人画って、言っちゃえば「みーんなおんなじ顔やん👩👩👩」という感じだったりすんの。絵師ごとに「俺の思う美人」像みたいのがあって、どの絵もその顔なのですよ。
例として鈴木春信(1725-1770)と鳥居清長(1752-1815)の浮世絵を上げとくね。

鈴木春信 浮世美人花見立「てうしや内てう山 花王」
鳥居清長 美南十二候「四月」


見てお分かりのとおり、個人個人を顔で描き分ける必要もなかったから、引きの絵ばっかりなのよ、持ち物とか服装で描き分ければいいんだもん、全身像の方がいいに決まってるよね。

このスタイルの美人画、優美で幻想的で素敵だけどさ、リアリティはない。現実に生きてる女み、は少ないよね。描かれた女の人間性とか、暮らしぶりとか、感情とかが、こっちに入り込んでくることはないのよ。

そこに来て、歌麿は、ですよ。一人一人の顔貌や表情の違いを描き分けようとしたのですよ。まじで革命。


喜多川歌麿 霞織娘雛形「蚊帳」

はい、これ見て「いや一緒やん。」って思った人は努力が足りません。もっかい見てください。
手前の女の子は理知的な感じするでしょ。クールビューティー。蚊帳の向こうにいる子はおだやかでほわほわのかわいらしい子じゃん。ね?

まあちょっと分かりづらかったらごめんなさい。でも顔面の構成比とか全然違うのよ。中顔面の長さ見て。お顔の作りが全く違うの!いわゆる理想型にモデルを当てはめて描く、それまでの「典型美」とは全く異なる美人画だってわけですよ。

そして「蚊帳」とかいうテーマよ。透けて見えるのってえっちだよね〜そそるよね〜って話なの。歌麿の描く美人ってほんと、リアルな肉付きだし、仕草は色っぽいし、絵見てるとこいつたぶんかなり女好きだぞ、と思わされる😌
蚊帳の向こうの女の子が襟元に手をやってるとことかさ、、、はぁ、それはさ!?柔肌想像したよね?!

これとかも見てよ。

喜多川歌麿 名所腰掛八景「鏡」

はい、歌麿さんは絶対にうなじフェチです。いい加減にしろ。えっちすぎです。そういう目で見てるだろ絶対に。ちょっとだけ開いたお口がたまらんかわいいです。やれやれ。
これ以外にも、「襟おしろい」っていう、鏡を見ながらうなじにおしろいを塗る女の子を後ろから覗き込んだような絵も描いてんのよね、歌麿。ほんとにさあ、いい構図ですわ。まったく!

女の子の魅力的な瞬間を見つけてきて切り取るのの天才だったんだと思う、この人。理想とか想像とかじゃない、「現実の女」のかわいさを絵に描けちゃってるあたりほんとに罪深すぎ。

ここまで見てきてもしかしたらお気づきかと思うんだけど。美人画ってもともと、現実に存在する人間を描くなら遊女とか芸者をモデルにすることが多かったんだけどね、歌麿ってめちゃくちゃいろんな人描いてる。町娘とか。遊女は遊女でも、高級遊女じゃなくて最下級の娼婦とか。働く女とか。

ここでは、「生々しさ」が伝わりやすい、わたしの大好きなシリーズを紹介するね。。。

『北国五色墨』っていうんだけど。歌麿全盛期の1793-95ごろに出版された、5枚の美人画シリーズ。
「北国」ってのは、江戸の北側にあった新吉原のこと(※新吉原…日本橋にあった公認遊廓・吉原が明暦の大火をきっかけに浅草寺裏、日本堤に移転。移転前を元吉原、移転先を新吉原と呼ぶ。)で、このシリーズでは新吉原で生き抜く5人の女たちが描かれてるんだけども。

最高ランク・花魁から、最下層の「てっぽう」まで描かれてる異色のシリーズなのね。遊女のランクはそのまま、彼女たちの生きている世界の階級につながってんだよね。画中には、その風俗の違い、さらには醸し出す雰囲気や表情の違いまで描き出されてる。

ちょっと見てみてほしいのだけれど。
1枚目が、最高位、花魁。

喜多川歌麿 北国五色墨「おいらん」

いわゆるみんな大好き「洗い髪」ですよ。洗髪して乾かしてるとこ。着物には桜が描かれてて、豪奢な着物をゆったり着れる世界にいる。唇に筆を当てて、馴染みの客への手紙でも書いてるところなんだろうな。
優雅だけど、結局は遊女。美しさも賢さも兼ね備えてるけど、籠の鳥だし、何をしてるかって客の心を繋ぎ止めておくための努力、だよ。風呂上がりにまでそんなことしなきゃいけない。きらびやかだけど辛い世界だね。

2枚目、こっちは「鉄砲女郎」と呼ばれる遊女。

喜多川歌麿 北国五色墨「てっぽう」

見ての通り、乱れてますね。情交後、ですね。髪もぼさぼさ、胸も大きくはだけて、お世辞にもスタイルいいとは言えない体してる。懐紙を咥えた口元、引き結んでるように見えるのは私だけかなあ。物憂げというか、やるせないというかさ。苦労してる女の表情だよなあ、と思う。悲惨な境遇で働いてなんとか生き抜いてるんだろうな。

てっぽうってさ、ひどいネーミングセンスなんだよ。数打てばあたる、って。
最下層の女郎だった彼女たちは、今の値段で言えば一回1000円とかで叩き売られてた。多くの人の相手をしないと生きていかれない。でも多くの人と交わればその分、病気感染のリスクが高まる。買い手側の男たちは、「(病気に)あたる可能性がある」って意味で「鉄砲」って呼んでんの。まじか、そのセンス。同じ人間か?ほんとに。

なんというか、地獄のような生活だよね。そういう目を逸らしたくなるような生き方をしてる女たちを、これだけリアリティを持って描き出せた歌麿の観察眼と描写力に脱帽するし、なにより、現実にそこに生きてる女たち自身を、決して差別的ではない目で見つめていたであろう歌麿の眼差しを感じて、この男のすごさを思い知る。

でもね、逆に!高級遊女をきらびやかに描くこともしてる。浮世絵って印刷物だから、広告にもなる(〇〇屋の誰誰、って名前を出すなら特に!)からね。

こちらは大衆演劇ではなんだかお馴染みのお名前、扇屋の花扇ちゃんです。

喜多川歌麿 高名美人六家撰「扇屋花扇」

か〜わいいよねえ。

こっちは松葉屋の粧いちゃん。今の感覚からするとよそおいちゃんってなに。て感じだよな。

喜多川歌麿 青楼六家撰「松葉屋 粧ひ」

めちゃくちゃ美人では?!タイプです!ちょっと大人の包容力ありそう。

そしてこっちは、丁子屋の雛靏ちゃん。むずかしい鶴って字だ〜うわ〜変換が出ないよ〜!

喜多川歌麿 当時全盛美人揃「丁子屋内雛靏」

今度はあどけない感じ!庇護欲湧いてくるタイプの可愛さだね、いつの時代もこういう子はモテたんだろうね👶🏻

さて、少しずれたけど🤏
不幸な境遇の女をそのままにも、きらびやかにも描き出せちゃうのが歌麿って男な訳で。それを知った上での「歌麿」ちょっと見方変わっちゃうんじゃない?!どーお?!

最後に、「歌麿」の歌詞に関係しそうなこと言って終わろっかな。
『歌撰恋之部』ってシリーズがありまして。「物思恋」「深く忍恋」「夜毎に逢恋」「あらはるる恋」「稀に逢恋」の5図のシリーズなんだけどね。

一番有名なのがこれ!

喜多川歌麿 歌撰恋之部「物思恋」

ねえ、どうおもう。眉毛ないんよ。人妻、しかも子持ちよ。物思いに耽る恋、ってさ。不倫やんけ。こら。おい。やめときな?

同じシリーズの「深く忍恋」「夜毎に逢恋」もね、眉毛はあるけどお歯黒してるの。人妻ですね。

急ハンドルですけど、「歌麿」の歌詞って禁じられた恋って感じしない?

正直、あの歌のイメージの元になったのこのシリーズでは?と思っておる。「歌麿」が「女性の恋心」を描いたシリーズで、背景は「紅雲母摺り」されていて、不倫とかの「禁じられた恋」もテーマにしてる。「月の出を待っている」の部分は「夜毎に逢恋」に繋がるし、「滅びるだけのつらい恋」とかも不倫を想起させるし。ね。ど?

わたくし的妄想を言えば、「歌麿」の主人公の女は不倫していて、喜多川歌麿が描いたこれらの女たち(歌撰恋之部の女たち)に自己投影している。(「不倫」が、女が既婚なのか男が既婚なのか、というところは議論の余地ありだなあと思うけど、滅びるってんだから女も既婚ぽいかなあ。)

歌麿が遊女たちの表と裏の顔をそれぞれ描いたように、自分の中にも二面性がある。貞淑な良き妻、清く美しい女という、世間に向けた顔と、不倫の愛に溺れ、欲や嫉妬に塗れた醜い顔。そしてその2つのペルソナの間に、葛藤する自分というのがいて。わたくしが2022.10まで推していた子がやってた2つの面を使った歌麿は、このイメージにどんぴしゃハマって気持ちよかったです。

なんの話なんだか。とにかく、今度から「歌麿」聞くときは、喜多川歌麿という絵師のこと思ってみてね。ではまた。

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