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遠野の渓は岩魚が似合う

息子のフライフィッシングを見ているうちに、遊びたくなって始まった渓流の釣り。
和賀川に流れ込む川と、猿が石川の支流には、足繫く通った。
いつもは一人だが、帰ってくれば息子と一緒の時もあった。
だんとつに多く通ったのは、遠野の渓だ。
遠野の渓には、梅花藻と岩魚が似合った。
季節に合わせた毛鉤を巻いて、ロッドをもって、渓の中へ消えてゆく。
初心者の間は、ロッドを振ってフライを飛ばすことができず、枝に絡まり、草をひっかけ、しまいには自分を釣ってしまう。
魚を見ない釣りが続く。会えないほどに募る思い。思いは重くのしかかる。
一年後、倶利伽羅紋々不動竜王のご加護の賜物か、ようやくチビ岩魚が釣れた時は、六角石神社の神殿に奉納しようかと、身をよじって喜んだ。
遠野通いは、この日から始まり、とうとう遠野に居ついてしまい、後から息子も住み始めた。
小さい沢に、大きな岩魚がいたりする。
一番驚いたのは、家の前を流れる狭い用水路に岩魚がいて、ライズしているのを見たときは、信じられなかった。
遠野には、川は一本しかない。猿が石川だ。川に流れ込む沢は無限にある。
すべての魚は、田瀬湖でつながり、薬師岳に行くものがあれば、仙人峠に行くもの、田瀬湖から出ない無精魚もある。
岩魚を釣るときは、できるだけ源流部で釣る。
熊には何度も会った。元猟師の親父さんたちとも顔見知りになった。
犬と一緒だから、どこにでも行けた。帰りの車は、ビショビショだった。

会えてうれしい チュ!

源流域は、遠いし、怖いところもあるけれど、水はきれいだし、人は来ないし、犬を放したままで遊べるのが良い。犬は自由に走りたいのだ。
この犬は、あわや保健所行きか、というのを、縁あって我が家に来た。水が大好きな雑種だけどおりこうな、体はでかいが気は優しい、女性だった。
困ったのは、なんでも食べることだった。段ボールに入ったキャベツを6個も食べて、ケロッとしていた。
前の犬も、水が大好きで、海でも川でも、いくら深くても、流れが速くても、たくましく泳いだ。
岩魚釣りには、犬とフライフィッシングが似合う。自分で巻いたフライが水面を流れていくと、砂の中から突然岩魚が出て、フライを追いかける。フライが流れで捩ると、岩魚は気配を消して、砂の中に消える。フライを替えて、同じように流すと、一発で釣れる。岩魚は、キョトンとした眼で、空を見上げている。水の中に戻してやると、ゆっくりと水の中に消えていった。春から遊んで、秋になると、岩魚釣りはお休みだ。

岩魚の里にも、秋の収穫の時が訪れた。
祭りが終われば、季節は冬に向かって駆けていく。

青笹の里に、しし踊りのお囃子が聞こえる。
9月23日、六角石神社のお祭りだ。
五穀豊穣を祈願して、ししが舞う。
境内に、笑い声と、祭囃子が溶け合って、日が暮れる。

有線から熊が出たと流れている
高清水山の空が金色に染まる
熊も夕空を見ているのかな


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