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「妄想警察P」第五話

第五話:ディレイトされた記憶の救出作戦  
    を開始せよ!

沖縄県久米島町20☓☓年2月22日午前2時、辺りは当然の如く、夜中なので静まり返っていた。早川は、緑のルイ・ヴィトンのアタッシュケースからLaptopを取り出して、電源を入れた。最近、背景画像(壁紙)をビートたけしが演じた、三億円事件の犯人の写真に変更していた。早川は、その写真を見ながらポツリと呟いた。
「今度は上手くやれる・・」
デスクトップに貼り付けてあるアイコン(銀行強盗)をクリックした。昨晩、徹夜でまとめたタイトル”記憶の救出作戦"のテキストの①を開いてから、腕時計を見た。作戦開始まで後22分。早川の胸の高まりは頂点に達していた。極秘に入手した妄想銀行内の図面を見ながら、監視カメラの位置を入念にチェックしていた。携帯の着信音(映画The Hot Rocks:Soundtrack/main title)曲が流れてきた。電話の相手は坂井だった。急にバイトのシフト変更でこちらには来れないという旨の電話だった。坂井については、ルパン三世の五右衛門役がいないので、予定を空けとくように言っておいたのだが、別にこれと言ってやらせる仕事は無かったので、「そうか、分かった」と言って電話を切った。ALSOKのユニフォームを着て、ちょび髭とアフロヘアーのカツラを付けて警備員に変装した渋沢と万里子は、銀行の正面玄関の自動販売機の後ろに隠れて缶コーヒーを飲みながら待機していた。
早川は思いを巡らせていた。2222のゾロ目は奇跡を起こす前触れだとネットのエンジェルナンバーの記事を読んでいたから、今回の作戦開始日時を2月22日の午前2時22分に決めていた。腕時計の針を見ると22分が過ぎていたが、早川は冷静に対応した。22分22秒に作戦開始の合図(合言葉:月がわびしい)を渋沢と万里子にLINEした。
マイケル・ジャクソン:Wanna Be Startin’ Somethin’の曲をバックに渋沢と万里子は、ステップを踏みながら銀行の裏口へとユーチューブのショート動画で出てくるような男女のダンサーぽいノリでファンキーな振り付けを交えて、社員通用出口のインターフォンのボタンを押した。
「毎度、来々軒です。味噌ラーメンお持ちしました」

「味噌ラーメン?頼んでないけど?」

「確かに注文がありましたが?冷めないうちに早くここを開けて下さい」

「ちょっとお待ち下さい」
警備員控室に通された渋沢は、

「来々軒自慢の味噌ラーメンです。冷めないうちにお召し上がりください。こちらへは何分離島なんで丼をまた取りに来るのも大変でして、食べ終わるまでここで待たせて頂きます」
「じゃぁ、さっと食っちゃうからそこで待ってて、悪いねぇ」と言って、警備員は美味そうにインスタントの味噌らーめんを、ちょいアレンジした睡眠薬入の特製ラーメンを汁まで飲んだ後、大きなあくびを一つして、スヤスヤと眠り始めた。渋沢は早川に(合言葉:路地裏の)とLINEした。早川は銀行内の監視カメラをユーチューブの癒し系の焚き火の動画に全て切り替えた。外で待っていた万里子と早川を銀行内へ招き入れ、次の作戦を開始した。早川は次の作戦名を、金庫室の鍵どうやって開けようかなぁ?作戦と命名した。早川はこの日のために特注しておいた(早川ロックサポート)と背中に書かれたブルーのツナギの作業着を着て、金庫室の警備員に、「鍵屋です、定期点検に来ました」

「定期点検?聞いてませんが?」

「ちょっと今日はイレギュラーで来週の予定がこちらの都合で恐縮なんですが、今日に繰り上げて、こさせてもろたっちゅうわけでして、まぁ受付ではそれでオーケーもろてますんで」
と、早川は自分が群馬県出身だと悟られないように必死で吉本新喜劇でチョイ役の芸人ぽい口調の鍵屋の親父を台本通り演じきっていた。

「あっそうですか」

「短時間で終わりますんで」

「あっそうですか、分かりました」

「では、金庫の鍵開けてもらえますか?」

「あっはい」

ロックを外された、銀色の分厚い剛鉄の扉のハンドルがゆっくりと回され、その先に見えたのは、渋沢が夢で見た、地平線まで続くとまでは大袈裟だが、貸金庫の引出しが積まれた壁が、金庫室内の奥まで続いていた。早川はLaptopのスクリーンを確認した。

メモリー保管場所:MBANK/No.24246681

「終わりましたらお声掛けさせてもらいますんで」と早川は警備員の方をちらっと見てから、渋沢と万里子を金庫室へ入るように指示した。早川は24246681と書いたmemoを万里子に渡し、早川は扉の点検をする振りをしながら、渋沢等に目で合図した。渋沢と万里子は、24246681の金庫の引き出しを探し始めてから5分後、

「あった!」万里子が思わず叫んだ。

「24246681・・」
しかし、引き出しには鍵がかかっていた。

『引き出しに鍵が掛かっている』と
渋沢は早川にLINEした。
早川は溜息をついてから、金庫室の前に立っている警備員に声を掛けた。

「すいません。中の引き出しのマスターキーおもちですか?」

「はっ、持ってますけどそれが何か?」

「定期点検で必要でして」

「はぁ」

「24246681の引き出しの調子がどうもおかしいなと・・・」

「その引出しを開ければいいんですか?」

「はい」

引出しの中にメモリースティックが一つ入っていた。早川は右手に握り締めていたもう一つのメモリースティックとMr.マリックさん顔負けの素早さで取替えポケットにしまった。

「特に異常はなさそうですねと・・Okです。施錠お願いします」
早川はこの時、心の中でWBCで優勝した、マウンド上の大谷のように帽子とグローブを投げて喜んでいたが、冷静に考えると、今日は2022年2月・・・大谷がWBCで優勝したのは来年のことだった・・

その時、目を覚ました警備員が、「来々軒さん、丼鉢洗っといたから持って帰ってね、控室のテーブルの上に置いてあるから」と言うために、わざわざ金庫室の中まで入って来て言いやがった。すると、金庫室担当の警備員が、「鍵屋さんじゃなかったんですか?」と不信な目を早川に向けた。万事休す・・

作戦前日の夜。早川は迷っていた。作戦が行き詰ったときの言い訳について。もし金庫室でその時が来たら・・・
早川はラップトップのキーボードを叩いた。
A案)万里子が苦しそうにその場に座り込んで、「痛い、お腹の子が」と言った瞬間に透かさず「早く病院へ急いで」と言って病院には行かずに逃げる。
B案)警備員控室のテーブルの上に置いてある丼鉢を万里子がわざと落として割った音を聞いて、「泥棒だー」と言って、控室に行かずに逃げる・・とりあえず2案用意しておけば良いだろう。

だが、しかし・・・・その時が来ているにも関わらず万里子は、打ち合わせ通りの行動をとらなかった。何故だ???
万里子は極度の緊張のあまり頭の中が真っ白になってしまっていたのだった・・

早川は万里子のことを諦め、計画変更を余儀無くされた。が、急なことで何も思い付かなかった早川は、完全に開き直って答えた。
「あっそうですか、そうですか、そういう事言うんだ」そしてその3秒後、早川は満面の笑みで銀行内に大きな声を響かせ、アングラ劇団の舞台俳優のセリフぽい口調で、「君達の好きにすればいいじゃないか!」と両手をひろげるポーズをとって叫んだ後、高笑いしながら舞台の袖へと消えて行った。
その時、万里子が何を血迷ったか、「硬いこと言ってないで、今夜は飲みましょう。いいでしょう社長」と言って、銀座のクラブの黒服に見立てた渋沢に目配せし、「ドンペリのロゼ2本お願いしまーす」と銀座のママの役に成り切っていた。それを見た早川は、今のところ、この小芝居に付き合うしか手が無いと考えたのか、「ママー久しぶり。元気だった。前より綺麗になったね。少し痩せたんじゃないの」等と成り上がりのスケベ心満載の小金持ち社長の役を買って出た。が、時すでに遅し・・・(その間、渋沢は終始目が点になっていた)

数名のセキュリティー会社の人間が金庫室になだれ込んで来た。

契約件数 約254万件 業界No.1の実績を誇るセコムのセキュリティー軍団であった。

「どうしました?!」先頭を切って入ってきた男の第一声は『セコムしてますか?』(ミスタージャイアンツの長嶋茂雄のモノマネ)を聞いて、全員でずっこける準備をしていたギャラリー達の期待を完全に裏切った・・

「もうこの銀行は警察に包囲されています。諦めて事情を説明してください」
渋沢と万里子の表情は青ざめて今にも泣きそうになっていた。その表情を見た早川は、「この銀行は警察ではなく、これから始まる真夜中の盆踊り大会の人達で包囲されているのです」と言い放った。

銀行の外に出てみると、総勢2000名のエキストラ(町内会の盆踊り大会で毎年御活躍されているご婦人方が中心)による真夜中の盆踊り大会が打上げられた色鮮やかな花火を合図に華々しく開催された。
真夜中の離古島に三波春夫の♫チャンチキおけさ♫の生バンド演奏が大音量で流れ出した。銀行の玄関前の駐車場の中央には既に櫓がセッティングされていた。その周りを浴衣を着たご婦人方がうちわを片手に円を描いて踊りだしていた。

皆がその光景を見て呆気に取られている間に、早川は渋沢と万里子に三波春夫の衣装に着替えさせ、自らも三波春夫に変身した。そして事前に派遣会社に発注しておいた、三波春夫のお面を被った100名の派遣社員も盆踊りの円に加わり、その内10名(ジャンケン大会で櫓に上がる権利を勝ち取った)は、三波春夫の特製ゴムマスクを被って櫓の上に上って河内家菊水丸顔負けのパフォーマンスを披露していた。
その時、上空から『仮面の忍者 赤影』の白影が巨大な凧で現れ、3人を乗せて離古島から脱出していった。

♫月が詫びしい 路地裏の♫
♫屋台の酒の ほろ苦さ♫
♫知らぬ同士が 小皿叩いて♫
♫チャンチキおけさ♫
♫おけさせつなや やるせなや♫
(チャンチキおけさ:三波春夫)

後から駆けつけた、マイケル刑事はその光景を呆然と立ち尽くして、見ているしかなかったのだった。

第五話の終わり

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