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「妄想警察P」第七話

第七話:バンパイア帝国の闇を知る男を追え

前回までのあらすじ:
主人公:渋沢吾郎の失われた記憶を再インストールする為、妄想病院に研修医として潜り込んだ、早川と渋沢はヒョンなことから第一外科の教授選挙巻き込まれてしまうが、無事に渋沢の記憶回復手術は病理医学の権威、大河内教授の神の手によって成功する。


第七話は、権力者の逆鱗に触れ終身刑の判決を受け、宇宙の果ての牢獄行きのロケットで、宇宙に飛ばされたはずのプー上等兵だったが、エンジントラブルのためロシア北東の東シベリア海に不時着し、スノーデンの紹介でロシア軍に入隊していた。までは、既に第三話の最後に触れておりますが、今回のお話はこの続きからであります。バンパイアー軍の闇を知る男、プー上等兵をロシアまで追跡し、バンパイアー帝国の画策する世界を暴くため、私財を投げ売って、ロシアの首都モスクワ目指して、初の海外ロケに挑む渋沢、早川、万里子の3人はプー上等兵を見つけ出すことが出来るのか!春休み特別企画!バンパイア国の闇を知る男を追え!乞うご期待!


登場人物:
渋沢吾郎:作家、心理学者
早川:渋沢の知人で元銀行強盗犯
万里子:渋沢行きつけのカフェ店員


「あなたを先制逮捕します・・」

渋沢が目を覚ましたのは、明け方の午前5時過ぎだった。

「そうだ・・・思い出した」

渋沢はあの日の手術から、空白の一週間の出来事を思い出していた。

「私はあの日の朝、妄想警察に逮捕されたんだ・・・」

渋沢は枕元の携帯を取って、早川にメールした。


早川は、渋沢からの連絡を待っていた。あの空白の一週間に何が起こっていたのか?それが早く知りたかったのだ。


 渋沢行きつけのカフェで万里子は又バイトを始めていた。

「記憶が戻って良かったですね」早川がホッとした表情で言った。

「えぇまぁ、ようやくあの空白の時間が戻ってきました」

「それで何があったのですか?」

「この国を統治しているバンパイア軍の取調官に会いました」

「バンパイア軍?」

「えぇ」

「彼らの目的は何ですか?」

「彼等は人民が覚醒することを許さない」

「覚醒?」

「はい、所謂、この手のストーリーに、よくありがちな話で・・」

「確かに、何かの本で読んだ事がある内容ですね」

「おそらく過去のSF小説にインスパイアーされたのではないかと・・・」

「なるほど・・それで他には?」

「あとは・・妄想裁判で終身刑を食らった軍の兵士が宇宙の果ての牢獄へロケットに乗せられて・・」

「宇宙の果ての牢獄?」

「でなければ、シベリアのヤクーツクだとか・・」

「ヤクーツク・・地球上でいちばん寒い場所・・」

「えぇ・・それ以上は何も・・」

「その兵士に会うことができれば、もっと詳しいことが分かるんじゃないですか?」

「まぁ・・」

その時、万里子が会話に割って入ってきた。
「初の海外ロケですか?」

「トーチナ!」(ロシア語でその通り!)と早川は行く気満々で答えた。


 三人がヤクーツク空港に降り立った時はもう随分と雪が積もっていた。
零下50度の寒風が吹き荒れる中、この土地の大工さんは、金づちの代わりに凍ったバナナで釘を打ち付けて家を建てていた。
3人はロシア帽を被って、持参してきたモモヒキをシベリア仕様のモモヒキ十二単衣の上に防寒着を重ね着して、ホテルへと向かった。


 その頃、FOXニュースを解雇されたタッカー・カールソンもプーチン大統領の独占インタビューの為、モスクワを訪れていた。(タッカー・カールソンとプーチン対談、Xでの再生回数は現時点で10億回を記録している)

 「今晩は寒いから夕飯は鍋にしませんか?」と一時期、アウトドアにハマっていた早川が、カセットコンロと鍋をリュックから出して、最近、ユーチューブで渡辺謙の娘である、杏のチャンネルを見てパリジャン気取りになっているせいか、おすすめに出てくる杏の元旦那で色々あって芸能界を干されていた、俳優の東出昌大の自給自足生活の狩猟した鹿の解体映像を見た影響で、食材には鹿の足を持参してきていて、その夜のディナーは、鹿の足のみぞれ鍋にしようということになった。因みに大根おろしには、経産大臣ものづくり日本大賞受賞の手作り純銅おろし金を使用した。人気グルメブロガー早川のこだわりであった。

「それで・・どうやってその兵士を探すつもりですか?」と、長い鹿の足が鍋からはみ出している、みぞれ鍋を見つめながら、渋沢が心配そうに早川に聞いた。

「その方法については、私に良い考えがあります。心配しなくても大丈夫ですよ。きっと見つかります。さぁ、その鹿の足を遠慮しないで、召し上がって下さい」

 翌朝、早川は大胆な行動に出ていた。一昔前、日本テレビ系列で放送されていた、桂小金治司会の「それは秘密です」のリメイク番組を企画していたのである。

それではここで、「それは秘密です」の番組内容について、若干説明しておこう。
様々な事情で何十年もの間、生き別れになっていた親子がTV局の全面的なバックアップによって、スタジオで再開する涙の人気ご対面番組で、涙なくしては見れない感動の高視聴率番組である。後に「ルックルックこんにちわ」の小金治の涙のご対面コーナーとして、引き継がれていく。

そこで早川は、日露国営放送局に捜索してもらう為、急遽、ロシアにプー上等兵の家族を呼び寄せ、プー・タロー上等兵こと(布川太郎)と家族の再開番組をロシア国営放送の全面的な協力を得て、モスクワの首都クレムリンの迎賓館からゴールデンタイムに衛星二元生中継でロシアの全土の茶の間に流す放送権を全世界の主要メディアに対して高額放送権料の契約を交わしていたのであった。

「本番3秒前、3.2.キュー」

 司会の桂小金治がこの時既に泣きそうな顔をしながら、プー上等兵の家族のこれまでの苦労を語っていた。感極まった、泣きの小金治と呼ばれた名司会者が、涙をこらえながら、プー上等兵の奥さんと子供の顔を見ながら、少し笑みを浮かべて、一拍おいてから、「奥さん!我々スタッフが一生懸命捜索した結果、おたくのご主人さん!見つかりましたよ」この時点で今回特別に日本から駆けつけた、ゲスト解答者の徳光和夫と清水由貴子は顔をクシャクシャにしてハンカチをポケットから出そうとしていた。

「それではご主人さん!どうぞ!」

♫母ーさんが夜なべーをして♫手袋編んでくれたー♫(BGM)「母さんの歌」をバックにプー上等兵が登場した。

「おとうさーん!(涙声+鼻水を吸い上げる音)」

「今まで心配かけてゴメンネ」(涙声+鼻水を飲み込む音)


そして、お互いの本人確認もそこそこに、家族は抱き合って、とにかく泣き崩れているほうが番組的にも盛り上がるのではないか等と気を遣いながら、ひたすら番組が終わるのを待っていた。番組の最後に司会の桂小金治が、「今晩は温かいボルシチでも食べながら、家族水入らずの時間をお過ごし下さい」と涙声で番組を締めくくり、「ダスヴィダーニャ」(ロシア語でさようなら)と、小金治が涙声で手を振って番組は終了した。早川、渋沢、万里子の3人もプー上等兵の下に駆け寄って、プー上等兵の家族と抱き合って喜んでいた。その光景を見ていたロシア国営放送のスタッフも思わずもらい泣きをしていた。

この日の放送はロシア国営放送開局以来、史上最高視聴率を叩き出した。と、翌日のロシア新聞の朝刊の一面に取り上げられた程の大反響であった。

だがその時、その放送をバンパイア軍の幹部がテレビにかぶり付いて見ていたのであった。この後、軍の最高司令官の逆鱗に触れたプー上等兵家族は、国際指名手配される事になる。


第八話につづく


※桂小金治の涙のご対面番組の音声
    ↓
https://youtu.be/QDLaBcs8Ugw?si=MU7tqDKl2cK7UkA7

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