作品振り返り『ヒロイックステージ』その3

作品詳細

2021年2月~3月製作 ネーム 40ページ


製作までの経緯

前回

ヒーローショーのネームが明後日の方向にいって数日。
前回のネームがテーマも内容のちぐはぐだった為、どう責めればいいかわからなくなってきていた。
そもそも過去に「ヒーローショー」を題材にした漫画を描こうとした事は何度もあった。しかし、その都度しっくりくる切り口が見つからずに頓挫しつづけていた。
もしかしたらヒーローショーって意外に漫画と相性が悪いのかもしれない。

担当さんも過去に連載されていたヒーローショーの漫画を提供してくださるなど熱心にアイディア出しに協力してくれていたが、難航を極めていた。

そこで、一旦スタート地点に立ち返ることにした。
このネームの大学生を舞台にした初稿。


あれはキャラは悪くなかった、「オタクに優しいギャル文脈」も間違いではないはず。あれを上手く焼き直せないか。
あのネームの問題点は
・キャラの悩みがわかりにくい
・キャラが多い
・主人公のモデル設定がヒーローショーという舞台に重なっていない
というのがあった。
せめてこの問題点の二つをクリアできればある程度の作品になると踏んだ僕はそれが可能になるよう設定を練り直した。

そうして次に出したアイディアは「イベント会社」が舞台の人間ドラマだった。

あらすじ

大学生の『佐倉雅』はイベント会社で裏方のバイトを行っていた。
ステージに立たない裏方は挫折がなく気楽だと豪語する雅だったが、かつてアクロバットダンスをしていた経験を買われて人手不足の為ショーに出演する事に。
拒否する雅だったが先輩の『小星勇』に乗せられてしまい、ヒーローショーの舞台に立つことに。しかし、雅はかつてダンス本番での失敗と失敗したときに負ったケガのトラウマで体がうまく動かずにアクションに失敗してしまう。
落ち込む雅だったが、勇は雅がトラウマを負った日にその場に居合わせており、諦めない雅の姿に感銘を受けてアクターとして努力していた事を明かす。
一緒に戦おうと手を差し伸べる勇に雅は呼応する。
果たして雅は過去のトラウマを乗り越え、ショーを成功させる事ができるのか!

解説と講評

次第に整っていくネーム…しかし

主要キャラを二人(+一人)に絞り、内容もコンパクトにまとまってきたよううな印象を受ける。(あくまで印象)

自身を失ったパフォーマーが自身のかつてのパフォーマンスに救われた者に更に救われる展開だけで言えば読み切りとしてまとまってきてはいる。

しかし、相変わらず欠点もいくつかある。

嫌いが好きに転じる事でヒーローショーの魅力を描くつもりが…

開始4ページ目、主人公の雅はヒーローショーの嫌な部分をあげつらっていく。
この漫画は本来読者にヒーローショーの面白さ、すばらしさを伝える目的で製作したはずなのに主人公はヒーローショーに対して良い感情を描いていない。

その後主人公がヒーローショーに興味を抱くのは物語も中盤にさしかかった頃だ。つまり、そこまでに主人公が主人公たる主人公性を発揮できないまま物語が進んでいく。
開始数ページで主人公に好感が持てない作品を、果たして読んでもらえるだろうか。

そして、僕が作中の感動ポイントとして考えた展開。
「勇は雅がダンスを失敗して流血してもダンスを続ける姿に感銘を受けてアクターになる努力をした」というくだり。
一見良いエピソードのように見えるが…逆に言えばこのエピソード、キャラに変化をもたらすほどの重要な出来事でこれは本来作品のメイン、クライマックスに据えるようなエピソードである。

「キャラの変化は作中内のタイムラインに乗せた方がよい」というのが編集内でいただいた意見であった。

作中内のエピソードの順序、入れるか削るか。バランスは徹底して考えなければならない

この作品の主人公は雅だ。しかし、実際作中で人間的に大きく成長していたのは勇だ。雅のエピソードは勇のエピソードのインパクトを超えていないように思う。

しかも作中通して雅は導かれる側であり、導くのは勇。
雅の主人公性は強く描かれず、どちらかというと勇の方が頼れる人物として見えてしまう。

主人公がメインの場面こそ確かに多いものの、好感度はあがらないまま…。

とても重要な事を書くが
特に読切作りとは「「キャラを好きになってもらう」」作業の事である。

恐らくこの作品を読んだ読者は雅の好感度がマイナスからゼロになり、勇の好感度がゼロからプラスになる。
総合して主人公は読者にとって一番好きなキャラになるのが難しいだろう。

読切として決定的な主人公の好感度が弱かった本作。
しかし、実際形が整うまであと少しだった。
展開に無理も少なくなってきたし情報もある程度整理されてきている。(相変わらずセリフは多いが…)

『キャラを好きになってもらう』

その目的を意識した僕は担当さんの「あと少しです!」という応援を胸に最終稿の製作に着手する…。

その4(ヒロイックステージ編完)に続く。


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