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劇場でアンケートを書いていた静かで火柱のような日々のこと

🎬 ラーメンズの思い出

私は大学生の頃からラーメンズさんの舞台が大好きで、できる限り見に行っていたのですが、そこに「紙のアンケート」というものがありました。劇場に入った時にフライヤーと一緒に配られるんです。

そのアンケート用紙に舞台の感想をその場でひたすら書くんですね。(小林賢太郎さんプロデュースの演劇KKPでもソロ公演のポツネンでも)空白が多いアンケートなんですが、裏側まで、書くんです。

「本気」の人は、開始1時間前くらいに劇場に入って、まだやってもない演劇の感想を書くんですが(?)なんというか「劇を観にいく」のではなく「アンケートを書きにいく」んです。(多分、このレアな感情をわかってくれる方が、ここには数人いらっしゃると信じています)

ラジオリスナーのハガキ職人みたいなもので、対話なんです。私も溢れ出る情熱を紙に綴っていた思い出があります。(賢太郎さんが舞台後の挨拶で必ず「アンケート書いてね」っておっしゃるのですよ。それがね、本当に嬉しくって嬉しくって。)

◽️「巨大な感情」が置ける場所

観劇後も、みんな、モノトーンのお洋服を身に纏った女の子や男の子たちがロビーの柱を下敷きにして(中には床に座り込んでいる人もいた)細かく細かく文字を書いていくんですよ。ちょっと目を潤ませながら。それを小林賢太郎さんや片桐仁さんや出演者さんに読んでもらうのですが、結局は自分に向けて書いているんですよね、その「巨大な感情」を。

SNSがない時代ですから、スマートフォンもない時代ですから、書いた感想は一度きり。大衆の目に触れるわけでもない(あったとしてもmixiくらい)ただただラーメンズという触媒を通して、多分私も自分に向けて、文章を書いていました。

もちろん舞台のどこが良かったかとか、こう思ったとか、ここに気づいたとか書くんですけど、「今自分がどんな状況で何を考えていてどんなふうに生きているか」みたいな「自分ストーリー」も、チラリと書くわけですよ。(書いてない人もいらっしゃったとは思いますが)なんていうか感想を書くとき(読む時に)それを書いている人の情景があった方がいいのではないかと思ったのですよね。(ミステリアスなのも素敵ですが)今思うと一番はじめの自問自答タイムだったのかもしれません。

▪️自意識と葛藤

当時(10代後半〜20代前半)の私は自意識をね、自意識をどこまで出していいのか、葛藤していましてね。

例えばアンケート用紙にプリクラを貼ると軽薄すぎるかなとか。筆で文字を書くと突飛すぎるかなとか。下手したら油彩とか、立体とか、画材持ってきて、A4の紙の上でどこまででも感情表現はできるんですけど、もちろんアンケートであって、自分のアートの置き場ではないので、自意識との葛藤がありました。

私も実際に自分で彫った小さな版画なんかをアンケート用紙に現場で刷ったりしてね。会場でしか書けないアンケートに版画載ってたら面白いかなと思って。(もちろん劇場の迷惑にならないようにしていました)今考えると、本当に爆走してしまっていたのです。でも、その時は、もうどうしてもそうするしかなかったんです。なんで版画なのか私も全然わからないんですけど、私が気持ちを伝えられるのは「版画だ!」ってなんか思っちゃったんですよね。

それくらいラーメンズのお二人はそれはもうかっこよくて。美大出身の豊かな感性でアートに近い表現をユーモアたっぷりで表現されていて。天才で繊細で。「私の巨の感情を分かってくれそう」な感じがしたんですよね。

もちろん、アンケートを書いたらみんな「スッ」って現実社会に戻っていきます。ラーメンズの公演は感情の置き場所だったんです。私の。そしてきっとファンの皆さんたちの。

📝紙一枚の上にできること

A4の紙の上では色んなことができます。
絵を描いている人も漫画を描いている人も横目で見たことがありますし、カラフルなペンとかで感想を書いていた方もいるかもしれません。書いてもお返事が来るわけではないのですが「とにかくアンケートは絶対全部読んでいる」ということだけを公言されていたので、そのことだけは確実で、憧れの人に絶対に届いているモールス信号をバンバンバンバンと撃ち続けるような「希望の打電」でした。

本当はさらっとアンニュイな色の細いペンでさらっと本質を突くようなことを書いて、アンケートを出したかった。そんな作画に生まれたかった。

けれど私は1時間かけてロビーで泣きながら版画刷っちゃう訳わかんない19歳だった。

紙一枚の上で、しかも1時間以内に「劇場内で迷惑がかからずできる表現」を考え抜いていたんです。何か何か生きている証を残したかったんです。もちろん公演中はメモなど取らず没頭するわけですが、開演前と開演後に、うわぁっと、A4の用紙に命を注いでいました。

▲難解さと観客に委ねること

ラーメンズのコントはそのアカデミックな「難解さ」が特徴で。解釈がちょっと分かれるのですが「あれなんだったんだろう?」と見返したくなるようなところが想像力を掻き立ててくれたのだと思います。「分かりやすいものを好まない」というのは今の私の服選びにも直結しています。委ねてくれるようなもの、観客が自問自答できるような仕組みがとても好きでした。

❤️‍🔥「静かな熱狂ができる人」は「生み出せる人」でもある

その頃の体験って実に強烈で。熱に浮かされて、彫刻刀を握って、確かに「静かな熱狂」でした。好きな人のクリエーションを受けて、その「熱狂」を感じられる人は、多分「生み出す側」の才能もあると思うんです。

あの時、本多劇場や銀河劇場や東京グローブ座で、「あぁ」とか「うぅ」とかうなだれながら「紙のアンケート」を書いていたうちの何割かは大人になって「クリエイター側」になったんだろうなと推測しています。(実際に同じ歳のくらいのコント師さんや、ライターさんや、劇作家さんたちのインタビューから「ラーメンズ」と言う言葉が出てくることが多々あって、あのロビーで隣でアンケートを書いていたのかなと思ったりします。)

コンテンツに夢中になったり、誰かを応援したり、あらゆる手段を捻り出して賛美したりすることは「自分の表現手段」を見つけることの助けになるのではないかと思っています。もちろん文章でも、話すことでも絵でも歌でもダンスでも。人(対象)に向けたエネルギーは必ず自分に返ってくるものです。
その捻り出した「表現」は、自分の価値観を知ることや、自分のちっぽけさを知ることにつながって、今の私の宝物になりました。

小林賢太郎さんの舞台を最後に見に行ってから7年くらい経ってしまいましたが、心に灯った炎が消えることはありません。20年前からずっとずっと火柱のような熱狂をさせてもらったこと、今の私の創作に繋がっています。

自問自答ファッションを読んでくださってご感想を書いてくださっている皆さま。会いにきて下さっている皆さま。本当に本当にありがとうございます。

きっとドーンと同じ力量でご自身に力が返ってきます。きっとそういうふうに世界はできています。

私はずっとずっとずっとこれからも賢太郎さんが大好きです。

〜おしまい〜

🦫こちらのnoteは自問自答ファッションあきやの日記(サブアカウント)のようなものです。ビーバーがダムをつくるように、もそもそ書きます、気が向いたら書きます。リツイートや引用やシェアなどもぜひぜひです🫶
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