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手元に集められた数奇な石たち ⑤マラカイトについて調べた


はじめに

 うちに集まった石を調べて5つめになる。未知の鉱物にじわじわと親しみが湧いてきたが、はたしてnoteに掲載するだけの意味があるのかないのか。くわえて静かなる石ブームのなかにあって記述内容にスピリチュアルな内容をまったくふくまない。

メモ書きがわりに残していくのは忍びないので、興味をひくサイトへのご案内でゆるしてもらいたい。こうでもしないとずぼらなわたしは真剣に調べようとしない。

ただひとつだけすじを通している。それはウィキペディアを使わないこと。どれだけ調べられるかどうか。自虐的なことこの上ない。くれぐれも注意願いたいが「鉱物」、「鉱石」、そして「石」の語をあいもかわらず区別なく使っているのでご注意願いたい。

独特な名前は…

 遠い親せきからうちに連れてこられた石ころたち。鎮座して数ヶ月になるがどれもいまひとつ素性を知らないまま。なるべくわかるだけの情報を残そうと意図している。今回も貸し出せた原色岩石図鑑(保育社)(1)をまずは頼りにしたい。

もとは自分の持ち物だったことはシリーズ④でふれた。この本をふくめて寄贈したあとになって石が自分のところへ舞い込んだ。

なんともタイミングが悪かった。自前の図鑑がいつも手元にあるならば、手持ちになった石の記載箇所に印をつけるか付箋を挟めば済むはず。短期間で返却しないといけないので調べるにも身が入る。

ところが「マラカイト」や和名のはずの「孔雀石」では図鑑のさくいんに見あたらない。なんとこの図鑑ではたどりつけない。意外な結果に。

ではネットで。孔雀石ならばまちがいないだろうといつものサイトをめぐる。すると黄銅鉱などの地表面近くにできる二次鉱物らしい。図鑑にないのはこれが理由か。

濃緑色+灰色の鉱石

 手持ちの石の表面の色合いは印象的ないく本ものすじ。濃淡の縞が何層にもつらなっている。前回の④の鉱物も緑色がめだっていたがこの石もそう。今回は銅をふくむため色がさえてきわだっている。

手持ちの石は裏表でみがいた面と自然のままの風合いの面と両方もつ。石を観察する上でそれぞれよい趣向といえる。さてその独特の色のきわだっている理由を中心に探っていこう。緑色のすじがマラカイトmalachite 孔雀石くじゃくせき)の主要な部分で、ここは単斜晶系の炭酸塩鉱物(1)。

上述した黄銅鉱などの銅鉱石に二酸化炭素や水などのはたらきで年月を経て表面を中心に炭酸塩となったと考えていいのかもしれない。その前提になる銅鉱床の成因については、ここ30年ほど専門家のあいだで科学的に探る試みが集中的に行われるようになっているそうだ。

色素とマラカイトグリーン

 マラカイトは和名で孔雀石。孔雀の羽の色や風合いに似た独特の色彩。洋画だったらマラカイトグリーンの絵の具がまず頭に浮かぶ。

だが銅は絵の具として、混色する場合に色が濁ったり、変色や銅や鉛などの重金属を避けたりで、用いられたのは主として19世紀まで。最近では有機合成色素にとって代わっている。

絵の具を取り扱うクサカベ(株)では油絵の具として品番075のマラカイトグリーン(ヒュー)は、ヒュー(Hue) とうしろにつくように代替品の合成色素のはずだ。さまざま混乱を防ぐためか廃番になっている(3)。

一方、日本画の画材として用いられる岩絵の具の材料に興味をもっている。日本画の画材としてもっともスタンダードなものとして、鉱物を中心とした原料の岩絵の具が使われるがなかなか高価だ。

一例をあげるとナカガワではずばり、孔雀石を岩絵の具として取り扱っている(4)。粒子の細かさの違いが色の濃淡に関わる点はなるほどと思う。ごく趣味程度で描くにはやはり代替品の合成の顔料などが用いられている。

コンゴ民主共和国と銅

 手持ちの石はコンゴ民主共和国産。地理で習うこの国の主要な産品として登場する銅鉱石。おとなりのザンビアと合わせると世界の10%の銅鉱石を産出。両国にひろがるカッパーベルトと呼ばれる世界的で高品位な産地。

以前は銅の産地といえばここだった。近年はチリやインドネシアなど他の産地が頭に浮かぶ。アフリカ南部のカッパーベルトは、一時期の内戦による混乱で産出量を落とし、その後の中国資本の参入などで持ち直すなど時代の波が訪れている。

この銅鉱山の副産物だったコバルトがレアメタルとしてEVの生産に必要とあって注目されている。コンゴ民主共和国内で世界の50%を産出しているのはおどろき。

独特な色と感触は…

 マラカイトを化学式で示すとCu2(CO3)(OH)2 (数字は下つき)。
いままでのシリーズ①~④の鉱物とくらべると化学式がシンプルだ。

化学式をよくみるとCu(銅)の割合が大きく、炭酸塩鉱物であることを物語っている。もとは黄銅鉱などの銅鉱石とある。では銅の2次鉱物とはどんなものだろう。山口大学工学部学術資料展示館HPに記載(5)があった。一部をそのまま引用する。


輝銅鉱,斑銅鉱も初生鉱物のみでなく,しばしば2次鉱物として産し,高品位銅鉱として採掘される(青森県上北,チリChuquicamata, La Escondidaなど)。 赤銅鉱Cu2O,黒銅鉱CuO,孔雀石Cu2(CO3)(OH)2,藍銅鉱Cu3(CO3)2(OH)2,珪孔雀石(Cu,Al) 2H2Si2O5(OH)4・nH2O,胆礬CuSO4・5H2O,ブロシャン銅鉱Cu4(SO4)(OH)6などの酸化鉱物,炭酸塩鉱物,珪酸塩鉱物,硫酸塩鉱物などはすべて2次鉱物であり,地表または地表近くで産する。 

山口大学工学部学術資料展示館HP
より

つまり銅についてはいろいろな化学形態があり、成因がさまざまな表情豊かな鉱石が産するようだ。

分類を調べてみると

 分類上の位置づけを岩石鉱物詳細図鑑(2)に基づいて大分類から順に行う。

マラカイト(孔雀石)について調べると、

10種ほどある化学組成にもとづく分類では、炭酸塩鉱物
10種ある炭酸塩鉱物のうち、孔雀石

とあっけなくたどれる。

国内では

 上述の山口大学工学部学術資料展示館HPによると、国内で孔雀石もふくめて銅の原料鉱石として青森県、福島県、山口県などの鉱山で古代から産するようだ。

以前は輸出するほど産出していたが、今では国内では銅を目的とする鉱山は閉山。足尾銅山や別子銅山など名の知れたの鉱山の閉山はもう50年ほど前の話。

おわりに

 今回も前回にひきつづき出ばなをくじかれた。マラカイトが2次鉱物のために図鑑に載っておらず、鉱物としての特徴は探れずじまいでなかなかてごわかった。

それだけ鉱物は地中の環境に副次的な影響を受けやすいと思われる。鉱物の多様性とはこういうふうに生じるとじわりと感じさせてくれる。奥が深い。

参考文献・サイト

(1)原色岩石図鑑 改訂新版(1999)保育社
(2)岩石鉱物詳細https://spotlight.soy/detail?article_id=ktiypccer図鑑 https://planet-scope.info/rocks/minerals/pyroxene.html
planetscope(https://planet-scope.info/index.html)のひとつのカテゴリ。沢田輝氏(海洋研究開発機構JAMSTEC研究員)運営。
(3)クサカベカラーチャート http://www.kusakabe-enogu.co.jp/products/oilcolour/oil_k_lst/oil_k_lst.html
(4)ナカガワ胡粉絵の具株式会社HP http://nakagawa-gofun.co.jp/begin/grain.html
(5)山口大学工学部学術資料展示館HP http://www.msoc.eng.yamaguchi-u.ac.jp/collection/element_12.php

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