見出し画像

【編集部時評】能登地震で飛ばされた手話ニュース 聴覚障がい者への緊急時支援の見直しを

編集部 かわすみかずみ

手話ニュース飛ばしのNHKに抗議

  全日本ろうあ連盟(以下連盟)は、1月1日の地震の際の報道についてNHKに緊急要望を出した。同局は16時10分の地震以後、地震関連のニュースを流し続け、18時55分からの手話ニュースを放送しなかった。連盟はNHKに対し、手話言語による生活を送る聞こえない人を軽視することにつながると強く非難し、臨時の番組構成でも手話ニュースを放送するよう要望した。
  これを受けてNHKは、手話ニュースが休止になったことについて文書で謝罪した。しかし、緊急時のすべての時間帯に手話通訳者や手話を理解するスタッフをつけることは困難だと主張し、字幕をつけていることや官房長官会見などには手話通訳をつけるなど努力していると回答した。

被災した職員が避難所運営 国は予算や人員配置の増強を

  石川県庁の障害健康福祉課に聴覚障がい者への災害時支援について聞いた。担当者に尋ねている間、近くで何本もの電話が鳴り続け、横から声が飛んでいる。担当者はその声に答えながら対応した。
何度も「ちょっと待ってくださいね」と中座し、「かけなおしていいですか?」と言われたことが2回あった。緊迫する県庁の様子が見てとれた。
   県では、聴覚障がい者で配慮が必要な人を、順次希望を聞き1.5次避難所(自宅から一時的に避難する場所)に誘導している。県は手話通訳者を派遣し、派遣できない場合はタブレットなどで遠隔手話通訳を行っている。しかし、まだ手話通訳が届いていない地域もあるという。 県は、手話通訳者の不足はないと回答した。
   だが、日本手話通訳士協会は以前から手話通訳者の増員や地位の向上を訴えていた。県内に聴覚、平衡障がい者は3442人いるが、県内で手話通訳士協会に登録した人は40人だ。県内の自治体窓口で、手話通訳できる職員がいるのは19市町中16市町(20人)で、全市町に配置されてはいない。
  手話通訳者は海外では職業として確立しているが、日本ではボランティアや低所得者がほとんどで、それだけでは生活できない。阪神淡路大震災を機に気象庁や官房長官会見等に手話通訳がついたが、それまでは公的な放送に手話通訳がつくことは少なかった。
   東日本大震災では、手話通訳できる職員が避難所で亡くなり、聞こえない人が配給などの情報を受け取れないことがあった。鳥取県を皮切りに、各県では手話言語条例が制定された。石川県は2018年に同条例を制定したが、具体的な政策は追いついていない。

疑問残る馳知事の緊急時対応

  1月21日の東京新聞、毎日新聞の報道で、石川県が地震による被害想定の見直しを25年間行っていなかったことがわかっている。
  連盟は石川地震直後に手話による避難情報の拡散を始め、被災地域に車で入り、補聴器の電池を配った。連盟は早い段階で義援金を募り、聴覚障がい者への現金支援を始めていた。
  馳浩知事は年末年始を東京で過ごしており、地震直後からの現場指揮は副知事がとっていたという。現場への視察は、岸田首相と初めて17日に入った。ユーチューブ番組「アークタイムズ」(1月8日配信)で現地取材を報告したジャーナリストの堀潤氏は、避難所の運営が困難になっていると伝える。ボランティアが入らず、自治体職員が24時間運営を行っている中で、疲労が限界に達している。自身も被災した自治体職員も多いのに、家族を置いて避難所運営を行っている現状だ。
   障がい者や高齢者、化学物質過敏症者、トランスジェンダーなど、避難所に集まる多様な人々への配慮や避難計画の早急な見直しが迫られる。
避難所運営コストへの予算や人員配置の増強を、政府はすぐに行う必要がある。

ろうあ連盟の震災チラシ

(人民新聞 2024年2月5日号掲載)

【お願い】人民新聞は広告に頼らず新聞を運営しています。ですから、みなさまからのサポートが欠かせません。よりよい紙面づくりのために、100円からご協力お願いします。