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【水も奪われているパレスチナ】イスラエルの水資源政策はパレスチナへのアパルトヘイト(2013年3月5日号掲載分)

マシュー・リチャード&ジャッド・アイザック
「週間パレスチナ電子版」174号(2012年10月)
翻訳・脇浜義明

 44年間以上にわたってイスラエル占領軍は、パレスチナ人の平等で正当な水資源利用権を蹂躙してきた。1967年戦争後、イスラエルはパレスチナ占領、直ちに土地と水資源の絶対的支配を強行した。占領行政は、1967年以前のオスマントルコ法、英国法、ヨルダン法(西岸地区)、エジプト法(ガザ地区)から成る法秩序を解消した。
 現在西岸地区の水資源は、2000件にわたる軍令や布告により、完全にイスラエル支配下にある。これら軍令・布告はパレスチナのインフラ破壊、入植地拡大、分離壁建設によっていっそう強化された。
 占領地の水資源は地下水、西岸地区帯水層系、沿岸帯水層、そして言うまでもなくヨルダン川水系から成り立っているが、イスラエルはこれらのほぼ全部を支配し、利用可能な水資源の約89%を窃取している。
 パレスチナ人に利用できるのは、わずか11%。その上、1967年以後はヨルダン川水系の利用が禁じられた。この10年間で、パレスチナ人が西岸地区帯水層系から汲み上げる水は減少を続けている。1999年には1億3800万立方㍍だったのが、2009年には9300万立方㍍に減少。ガザ地区では、沿岸帯水層系からの汲み上げが毎年1億5500万立方㍍の割合になっており、過剰汲み上げの状態にある。
 これは窮余の策なのだが、生活用水として安全に取水できる水量の300%にあたる。その結果、地下水面が海抜以下となり、塩水が帯水層に染み込み始めている。

パレスチナ人追い出しに手段選ばず

 1993年のオスロ合意では、西岸地区(東エルサレムを除く)をA、B、C地区に分割。A地区は断片的な都市部で、パレスチナ自治政府(PA)の統治下、B地区は民政はPA、治安はイスラエル、C地区はヨルダン渓谷や入植地を含む地域で、全面的にイスラエル支配下、特に土地利用・開発権はイスラエルの占有、と定められた。
 ただしこれは、「5年先に結ばれる最終的地位協定合意までの暫定的措置」とされていた。2000年の交渉断絶のときには、西岸地区の約36%がA地区、B地区で、さらに3%が自然保護区であった。残る61%はC地区。そこには15万人の地元民が暮らしており、そのうち1万8500人が定住村落を形成、2万7500人のベドウィンや、その他の遊牧民が野営生活している。
 C地区の水利用事業やインフラ建設は協同水管理委員会(JWC)とイスラエル民政局の許可が要る。これは時間がかかる官僚主義的手続きで、不許可になる場合が多い。許可なしで作られた昔の水利用施設は、軍によって破壊される。
 最近では、この破壊が増加。2009年~2011年に173の上水道、下水道、浄化施設が破壊された。その中には57の雨水貯水池、40の村落共同井戸や食料生産に絶対必要な灌漑設備、その他20の便所や台所流しが含まれている。1万4937人の人々が影響を受けた。破壊されたパレスチナ人の水施設は貯水池、雨水溜め池、井戸、泉、水タンク、農業用溜め池など。破壊の口実は、「イスラエル当局の正式な許可なしで建設されたから」とされたが、多くは口実も何もなく攻撃され破壊された。
 要するに、パレスチナ人をその地域から追い出すことを目的とした破壊行為であった。入植地拡大とそのインフラ整備に必要な土地なので、パレスチナ人を追い出したいのだ。

水収奪だけでなく
環境汚染源でもある入植地

 イスラエルは、土地と水資源を獲得するために、強奪も厭わない政策を行っている。それは、西岸地区における入植地の位置と入植者の活動に反映されている。政府は、入植地建設・拡大・防御に多大な投資をしてきた。国際社会から違法と見られている行為である。
 占領地には、179入植地に62万8000人の入植者(民間人)がいる。東エルサレムだけでも25万7000人の入植者。治安と軍用を口実にした土地収奪政策は入植者に土地を提供するためで、軍が収用した土地はやがて民間人(入植者)に払い下げられる。こうした過程を経て、パレスチナ人は自分たちの土地の50%以上を失った。
 その上、入植者はイスラエル法によっても不法な入植前哨地を、232も建設。不法であるにもかかわらず、政府省庁から援助金や支援を得ている。政府は、入植地へ水を供給するために、西岸地区に井戸を掘ったり、イスラエル本国の水道につながる水道ネットワークを建設している。
 パレスチナ人と不法入植者の水消費量を比較すると、両者の水配分不平等が明白である。これは、占領軍が占領地の住民を差別待遇することを禁じた1949年のジュネーブ協定違反である。入植者は、一日につき一人あたり平均350㍑の水消費に対し、西岸地区農村のパレスチナ人は一日につき一人あたり73㍑以下で生活している。ところによっては20㍑以下の場合もある。
 最近、西岸地区では入植地付近の泉が入植者の攻撃の的になり、泉が壊されるか、パレスチナ人が近づけないようにされている。国連人道問題調査事務所(OCHA)の報告によれば、攻撃の的になった泉は56、その多くがC地区にあり、イスラエル民政局の記録によっても、パレスチナ人私有地にある。そのうち30が入植者の直接支配下に置かれ、パレスチナ人は使用禁止となった。22カ所は道中で入植者の威嚇や暴力があるので、パレスチナ人は近づくことができない。
 入植者の完全管理にある8カ所の半分は、立ち入り禁止のブロック塀で囲まれ、事実上入植者に接収されている。残る半分は分離壁で西岸地区から分離され、続いて立ち入り禁止軍用地となった。
 辛うじて残っている26の泉も、いつ入植者によって接収されるかもしれない状態。その中には、入植者の慰安旅行の場となり、入植者警備隊のパトロール地になっている所もある。その地で生活するパレスチナ人は、泉にアクセスできず、生活と安全が非常に脅かされている。耕作をあきらめたり、減作せざるを得なくなった農民が数多くいる。そのために、送水管やタンクで運ばれてくる水を購入せざるを得なくなった遊牧民や農家の家計を苦しめている。
 入植地はまた、西岸地区の環境汚染の源となっている。入植地から出た汚水は、未処理のまま地域や農地に垂れ流されているのだ。サルフィトでは、農地と水源が入植地の汚水で汚され、コレラなどの伝染病が発生した。カナ渓谷近くのバルカン入植地は最大の工業団地で、そこからの産業廃棄物がサルフィト周辺に捨てられる。2011年11月にはサルフィト近くのレヴァナ入植地から出た汚水がパレスチナ人農家のオリーブ樹20本を枯死させ、さらに100本を汚水に浸した。
 分離壁建設も、パレスチナ人から水資源を奪っている。分離壁はグリーンラインからパレスチナ側に深く食い込んで作られ、その間の継ぎ目地帯には、238平方キロ㍍の農地と28の地下水井戸がある。これら分離された井戸の年間産出水量は、400万立方㍍になる。西岸地区で新たに井戸を掘ることは禁止されているので、奪われた地下水井戸は取り返しがつかない。この分離壁は、水資源の収奪だけでなく、住居を農地や職場や学校と切断し、社会と文化を破壊している。
 結論として一言でまとめれば、「イスラエルの西岸地区における水政策はパレスチナ人に対するアパルトヘイト制度である」と断じてよい。

パレスチナ日誌(2013年1月4日~31日)

●1月4日、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザで、パレスチナ自治政府のアッバス議長率いるファタハが創設48周年を祝う大規模集会を開き、数万人が参加。07年にハマスがガザを武力制圧して以来、ファタハの大規模集会が開催されるのは初。
●7日、イスラエル紙イスラエル・ハヨムの世論調査で、「2国共存、パレスチナ国家の創設」を尋ねたところ、「支持する」54%、「反対する」38%との結果が判明。一方、54%以上がパレスチナとの和平協定締結は不可能と考え、パレスチナ自治政府のアッバス議長を和平交渉の相手とはみなさないと答えた人も55%。イスラエルが占領しているヨルダン川西岸のユダヤ人入植地建設では、「支持する」43.4%、「建設凍結が望ましい」43.5%。
●11日、イスラエルが東エルサレムとヨルダン川西岸の間にあるユダヤ人入植予定地に入植住宅の建設を決めた問題で、パレスチナ人の活動家らが抗議行動を開始。この地にテント村を設け、入植を阻みたい考え。
●24日、22日に行われたイスラエル総選挙で、選挙権を持たないパレスチナ人に一部のイスラエル人有権者が投票権を「寄付」したと判明。イスラエルとパレスチナの平和活動家らが共同で始めた政治的抗議運動「真の民主主義」の一環。
●29日、イスラエルは、パレスチナ自治区ガザ地区をめぐり、各国が繰り返し非難していることに不満を表明。同国の人権政策を各国が評価する国連人権理事会の「普遍的定期審査」作業部会を拒否。07年の制度開始以来、加盟国の拒否は初。
●1月31日、国連人権理事会の独立調査団は、パレスチナの人権状況に関する報告書を発表。イスラエルによる占領地の入植地拡大を「人権侵害」と批判、「無条件で入植活動を停止し、全入植者の引き揚げを直ちに始めるべきだ」と結論。報告書は3月の人権理事会に提出される。

(人民新聞 2013年3月5日号掲載)

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