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【沖縄「復帰」50年特集②】「それぞれの地元で考え、行動する」元山仁士郎さんインタビュー

 2019年2月に行われた「辺野古新基地建設の是非を問う県民投票」では、県民の7割が反対の意思を示した。それから3年、今日も民意を無視した土砂投入が続く。県民投票運動を率いた元山仁士郎さんは、沖縄を犠牲にし続けるヤマトンチュに何を求めるのか。5・15「復帰」50年特集の第2弾として、元山さんに問題解決に向けた戦略を伺いたく、インタビューした。(編集部)

ーー「基地がなかった沖縄」への「復帰」をめざして

 沖縄の日本「復帰」(1972年)後、生活レベルは改善されましたが、最大の問題である米軍基地の押しつけは変わっていません。「復帰」前と同じ事件・事故・環境被害・騒音被害が後を絶ちません。米国統治下では沖縄の人たちの反対運動が米側にダイレクトに届いていましたが、日本政府が間に入ることで怒りがスポンジのように吸収され、うやむやにされています。
 私は、カギ括弧をつけて「復帰」という言葉を用いています。辞書を引くと、「復帰」は「元の状態に戻る」ことを意味します。日本になるというのではなく、「米軍基地がなかった状態」という意味での「元の状態」をめざしていこうという意味で「復帰」という言葉に違う意味を持たせることができると思っています。
 「復帰」の時は、「沖縄病」と言われるほど色々な運動がヤマトの人たちの間で展開されました。それくらいの規模の運動や世論の高まりが起きれば、辺野古新基地建設をはじめ、沖縄への基地の押しつけを是正すべきという社会の雰囲気になると思います。
 沖縄の基地問題は、持続的に多くの人が関心を持って声を上げ続けることでしか解決できません。関心を持ち続け、意思表示の機会を用意し続けるため、制度的な解決策が必要です。例えば教科書の1ページを沖縄のことに当て、それを先生が1つの授業時間を充てるなどして、考える機会を作れれば良いと思います。議員になることや政治的発言をすることが難しい日本において、教育の効果は大きいです。
 大田昌秀・新崎盛暉氏らは、1995年の少女暴行事件後の96年に行われた県民投票後、「日米安保条約への賛成票が多い都道府県の順に米軍基地を負担する」という条件を付けて、「条約の是非を問う国民投票をすべき」と主張しました。日本国民の8割は安保条約を支持していますが、米軍基地を地元で負担せず沖縄に押しつけたまま安保は支持するとはどういうことなのでしょうか? 問いたいです。
 日本政府が全くと言っていいほど沖縄の要求を聞き入れようとしない態度を見るていと、ヤマトの運動がまだまだ足りないように思いますが、何ができるか?考え、葛藤しながら、それぞれができることをやり続ければ良いと思います。
 沖縄で反対運動が起きても無視できると政府は思っているようですが、東京や大阪のような大都市で反対の声が大きくなれば無視できないので、大都市圏での運動は、重要だと思います。人種差別や環境問題など、その時々に起きる問題と沖縄の基地問題とは繋がっています。こうした点を含めて、集会や運動の参加者や支持者にわかりやすく沖縄の問題を伝えることが大切です。
 私は大学院生なので、研究との両立を図りつつ、社会運動を続けていきたいです。5月9日からは、首相官邸前などで、2019年2月の県民投票の結果を尊重し、新基地建設即時断念を求めるハンガーストライキを行います。(5月15日、151時間目にドクターストップで終了)

ーー中国敵視の自衛隊南西シフト 対中戦争を煽る好戦的政治家

 辺野古新基地建設について沖縄の人々は、20年以上反対し続けているので、「国がこれほどごり押しをするなら、止められない」という感覚を持つのは判らないでもありません。沖縄の基地問題は、国会でもヤマトの主流メディアでも優先順位が低く、手詰まり感があります。さらに、コロナ禍で生活が苦しいなか、お金を出してくれるかも知れない自民党候補を選んでしまうのは、仕方ないと思います。米側でも、軟弱地盤で本当に基地建設が可能なのか疑問視されているのですから、日本政府が沖縄の要求を受け入れ、基地建設断念に向けて米政府と交渉をするのが筋だと思います。
 第二次大戦前と同様ですが、日本政府が中国との交戦を前提にした自衛隊の南西シフトのようなことをしているのは愚かな政策です。安倍晋三氏や高市早苗氏のような好戦的な政治家が、中国と戦争したときにどうなるのかを考えているのか疑問ですし、日中が軍拡競争をすれば日本が負けると思います。国民の生命と財産が、軍拡をしないと守れないという国側の主張には疑問しか湧きません。
 日本の政治家は戦争に対する感覚が薄れてしまっています。佐藤栄作元首相は65年の沖縄訪問時、「沖縄が本土から分れて20年、私たち国民は沖縄90万のみなさんのことを片時たりとも忘れたことはありません。本土1億国民は、みなさんの長い間の御労苦に対し、深い尊敬と感謝の念をささげるものであります。私は沖縄の祖国復帰が実現しない限り、わが国にとって『戦後』が終っていないことをよく承知しております」という演説をしましたが、今はこのような演説をする雰囲気がありません。
 沖縄に苦労を強いているという認識がなくなり、逆に「甘えるな」と言ってしまう雰囲気すらあります。菅元首相が2015年に翁長知事(当時)と会談した際、「私は戦後生まれで、歴史を持ち出されても困る」と発言しましたが、日本軍の方針のせいで4人に1人の住民が犠牲にされた沖縄側には、本土の捨て石にされたという認識が強くあります。まず、こうした歴史観のズレを一致させるのが重要だと思います。

ーー「いつか変わる」と信じて

一人一人が尊重され人権が守られるような社会が訪れれば、沖縄がどの国の領土になろうが大きな差異はありません。しかし日本の現状を見れば、現政権下で沖縄の人権を守るのは難しいと思います。日本政府は認めていないのですが、国連は沖縄の人たちには先住民族としての権利があり、望めば独立のための住民投票が可能だと認めています。こうした権利も含めて行使すればいいと考えています。
 沖縄が先住民族かについては、沖縄の中にも異論があります。しかし、だからといって沖縄というカテゴリーが成立しないわけではありません。制度的差別があるからこそ、国連も沖縄という集団の存在を認めているのだと思います。
 沖縄の人たちは自分たちが抱えている問題に精一杯取り組み、声を上げています。ヤマトでもまずはそれぞれの地元で考えるのが筋です。共感する人を増やし、なぜ沖縄の問題に関心を持ったのか? 議論してほしいと思います。
 5月9日から行うハンストもそうですが、それぞれができる範囲で実践・行動し続けるしかありません。女性や黒人の権利運動同様、「いつか変わることがある」と信じて取り組み続けるしかないと思っています。

<インタビューを終えて>

ーーヤマトの危機と戦うことが沖縄への応答

 県民投票(2019年)で7割以上の沖縄県民が新基地建設に反対したにもかかわらず、国は新基地建設を強行し、ヤマトの世論も容認しています。さらに近年に至っては、中国との対立を煽る自衛隊の南西シフトが進められ、沖縄は再び地上戦の戦場にされそうな状況です。
 これほど急速に状況が悪化する背景には、どこかヤマトの運動側に手落ちがあるのではないでしょうか? また参院選が迫る今、緊急にできることは何があるでしょうか? 今回のインタビューを依頼した私の中に、元山さんがヤマトの運動体に何か行動提起してくれるのを期待する面があったのは否めません。
 沖縄に非道な政策を押し付け続ける国にどう対抗するか、具体的な答えは見えませんでした。ヤマトから無視され続けている沖縄側としては、この際ヤマトと縁を切って自分たちの人権を確保したい、というのが本音かと思います。ヤマトの世論が黙認するからこそ、国はこれほどの悪政を行えるのだから、世論喚起の方策まで沖縄の方々に考えて貰おうとする自分の無責任さを痛感しました。
 本稿をまとめている今、元山さんはハンガーストライキをされています。沖縄の人が命懸けで運動しても全国的な世論喚起に至らない現状は異常です。ヤマトを変えたいと思いつつ、具体的方法が思いつかず、結局沖縄の方々に犠牲を強い続ける自分が悔しいです。
 周辺諸国との軍事対立が強まれば、日本中の基地や原発が攻撃対象になります。また、一地方の直接民主主義に基づく意思表示を政府が完全無視することは、憲法の定める地方自治、さらには民主主義そのものを破壊します。自らの生存権や民主主義の原則が脅かされていることへの危機感を共有することこそ、沖縄への応答になると思います。
 これだけ不当な負担を強いられても、沖縄は抗議を諦めません。ましてヤマト側には無力感に苛まれている暇はありません。粘り強い運動を展開すべく悪戦苦闘し続けねば、と気が引き締まりました。(編集部)

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