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【激化するイスラエル国民の反発】「占領」というテロリズム (連載:イスラエルに暮らして)

イスラエル在住 ガリコ美恵子

ーーイスラエル人によるテロとアパルトヘイトを批判し、パレスチナに連帯するイスラエル人が増えている。米国はイスラエルに、莫大な軍事支援金を贈与しているが、日本もイスラエルに空軍機を売り、イスラエルは空爆の時に使う望遠レンズ(ソニー社)を買うなど支援関係にある。国際社会は占領を止めるよう、声を上げなければならない。日本も同様だ。(編集部)

イブラヒム・モスク虐殺事件29周年デモ


 2月24日ヘブロンで、ユダヤ教右派がパレスチナ人イスラヒム・モスクを虐殺した事件から29周年(注1)の抗議デモが行われた。イスラエル人左派もこれに賛同、送迎バスを出したので便乗した。参加者は、ヘブロン旧市街にあるシェイク・アリ・バッカ・モスクでの礼拝後、旧市街中央へデモ行進した。
 1994年のこの虐殺事件を機に、イスラエル当局はイブラヒム・モスクを分割。半分をユダヤ教礼拝所(シナゴーク)に改装した。しかも、旧市街と市場周辺の約半分を閉鎖し、そこに暮らすパレスチな人を追放。旧市街に隣接するシュワダ通りは、ユダヤ人専用道にされている。こうした占領政策に抗議するデモなので、シュワダ通りに向かって行進したいのだが、「占領止めろ」とスローガンを挙げただけで、イスラエル軍が攻撃を開始。音響弾や催涙弾だけでなく、実弾射撃もあった。男性が顔を怪我し救急車で運ばれたが、イスラエル人左派も手伝った。

ヘブロンのイブラヒム・モスク虐殺29周年デモ。
写真では木陰で見えないが、建物の屋上にイスラエル軍の狙撃兵がいる。

ヨルダン川西岸地区ハワラ/ユダヤ人入植者によるテロ


 2日後の26日、入植者2人がヨルダン川西岸地区の町ハワラに車で侵入。パレスチナ人に銃撃されて死亡した。するとその日の夕方、「復讐」を名目に、約400人の武装入植者が、ハワラとその周辺の村を約5時間にわたって襲撃。車100台、家屋35軒、家畜100頭以上が焼かれた。怪我人は100人以上だ。入植者は救急車にも投石して怪我人救出を妨害し、1人が、イスラエル兵または入植者に撃たれて死亡した。
 軍はメディアの撮影も妨害したが、パレスチナ人カメラマンが民家の屋上からこの様子を撮影。イスラエル兵が入植者を護衛し、助けを求めるパレスチナ民衆に催涙弾や音響弾で攻撃する様子が同時中継された。
 私もこれをネットで同時中継で観ていたが、多数のイスラエル人も観た。
翌朝、パレスチナ親派ではない同僚が、私に向かって怒って言った。「入植者は酷いし、止めなかった軍も酷い。腹が立つ」。

怒りの緊急デモ


 入植者がハワラ周辺でテロ襲撃した翌晩、イスラエル各地で、イスラエル人による抗議デモが行われた。私はエルサレムで参加した。スローガンは「占領はテロだ!どんな言い訳も通らない!」だ。
 イスラエル人権団体は、ハワラで被害にあったパレスチナ住民への支援基金を呼びかけたが、1日で約4千万円が集まった。
 国会議員やニュースのコメンテイターも、襲撃した入植者と、これを止めなかったイスラエル軍と、入植者に襲撃を奨励したスモトリッチ経済相を強く批判した。
 3月1日、「混乱の全国デモ」(*注2)では、高速道路を止めたデモ隊が、警察にこう叫び、抗議した。「ハワラ襲撃をなぜ止めなかったのか」と。
 同週末、約500人のイスラエル人がハワラ住民への連帯を掲げて同地を訪問した。音響弾や警棒を使用してこれを止めようとした軍に対し、デモ隊はこう抗議した。「入植者がパレスチナ人に暴力をふるいに来たら見逃して、平和を求めて非暴力行進する俺たちを暴力で止めるのか」。
 ハワラ襲撃以降、反政府デモで叫ばれるようになったシュプレヒコールは、「あんたたちはハワラ襲撃を止めなかった!」だ。
 イスラエル国民による政府への、反発は激しくなる一方だ。

故・ハワラ襲撃の翌日、イスラエル人が抗議デモして、主要道路を占拠した。
幕は「アパルトヘイトに民主主義はない」と書かれている。

政治的背景:
①パレスチナは、次のように分割されている。行政・治安をパレスチナ自治政府が担うエリアA。行政を自治政府、治安自治政府とイスラエル政府が合同で行うエリアB。行政・治安を全てイスラエル政府が担うエリアCだ。 だがイスラエル軍がパレスチナに侵攻する際は、エリアに関係なく、パレスチナ警察はイスラエル警察や軍に抵抗しない。そのためパレスチナでは、イスラエル軍・警察・入植者による暴力からパレスチナ人を守る機関がない。またイスラエル当局は、パレスチナ人に暴行したイスラエル人に刑事責任を問わない。当局が入植者のテロを黙認・助長するのは、イスラエル政府自体が入植地拡大を方針としているからだ。
②イブラヒム・モスク虐殺事件の犯人ゴールドシュテインを「師」と拝む、イタマル・ベングビール国家保安相は、「警官、兵士は如何なることをしても裁かれることなく、これに反対するパレスチナ人やパレスチナ人に連帯するイスラエル人には強硬手段を使え」と命じている。ハワラで入植者を止めようとした一部の兵士は、入植者に暴行を受けた。入植者8人が逮捕されたが、逮捕されたのは兵士を殴った入植者だけだった。
③2月24日イスラエル国会は次年度の政府予算を可決した。国会予算の約100分の1に当たる339兆円が国家保安省に充てられることになった。

*注1―
「イブラヒム・モスク虐殺事件」
 1994年2月25日ユダヤ人テロリストが、ヨルダン川西岸地区のヘブロン旧市街にある、イブラヒム・モスクに侵入。礼拝中のイスラム教徒を銃撃したテロ事件。29人が殺され、125人が怪我を負った。怪我が元で後に亡くなった人を合わせると、死者は60人に及ぶ。
 これ以降、ヘブロン中心地には検問所が86カ所設置され、パレスチナ人の移動が厳しく制限されている。 9つの道路がパレスチナ人使用禁止にされ、32%の家はイスラエル当局が帰還を許可しないため、空き家になったままで、1500以上の店舗が閉鎖された。800人のユダヤ人入植者を守るために、24万人のパレスチナ人が受けている人権侵害である。
 ヘブロンには約900人の兵士が常駐し、パレスチナ人に暴力を奮う入植者を守り、加勢している。

*注2-「混乱の全国デモ」
 イスラエル政府が裁判所の審議なしで新法策定を可能とする法案に、反対するイスラエル国民による大型デモ。同法案が成立すると、三権分立が機能しなくなり、民主主義が破壊されるからだ。
 参加者は主にハイテク、医療福祉関係、教員、学生で、百万人が参加した。参加者が最も多かったテルアビブでは、デモ隊が国道を封鎖。鉄道も一部に停止させ、高速道路も封鎖した。警察は音響爆弾を使い、約70人を逮捕。11人が怪我を負った。デモが始まって9週目の3月4日には、全国で25万人が参加した。

(人民新聞 3月20日号掲載)

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