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【京都・ウトロ放火事件を考える】総聯 南山城支部委員長 金秀煥さん「差別解消のため被差別者が頑張らなくてもいい社会に」/安田浩一さん

写真:放火現場を案内する金さん

ーー昨年8月、京都府宇治市のウトロ地区で住宅や倉庫など7棟が放火され、12月に容疑者が逮捕された。容疑者は、事件直前に在日韓国民団の愛知県本部にも放火しており、在日朝鮮人への憎悪犯罪の可能性が高い。ウトロ地区は、京都飛行場の建設のために集められた朝鮮人の飯場が起源だが、排外主義者らは以前から「不法占拠」扱いし、暴力を増長している。
 放火で重要な歴史資料が焼かれた倉庫を管理する金秀煥さんと、日本の憎悪犯罪を取材する安田浩一さんに、事件の背景と解決の道を聞いた。(編集部・朴ヘテ) 

金秀煥さん(在日本朝鮮人総聯合会 京都府南山城支部 委員長)

 火災発生後のウトロ地区住民の反応は、「放火だろう」というものでした。一方警察は、「漏電か何かによる失火」と漏らしていたので、私は安心しました。しかし11月の再調査で放火と発表。その時は虚無感と失望感に駆られました。また、火災発生当初、メディアが放火の可能性を疑う取材をしていたので、記事として注目される放火を求めていたのだろうと思いました。住民は、予想していたのか、放火とわかると「やっぱりな」と落胆していました。それが切なかったです。
 犯人に対しては、怒りと共に残念だという感情が強いです。22歳という若さなのにこんなことで人生を無駄にして。厳しい判決もそうですが、何よりも事件への反省を求めたい気持ちです。
 京都府知事や宇治市長などは、自治体として事件に対しての立場を明らかにせず、逃げの姿勢でいます。政治家の反応自体がこの国の人権状況を表していると思います。
 日本では人権が相対化されていると思います。絶対的に大事にされるものではなくなり、拉致問題に象徴されるように、特に他国から受ける被害にだけ敏感になっていると思います。
 90年代末にネットができてから、排外主義的な発言が公然と表明されるようになりました。これが過激化していき、いわゆる「行動する保守」として「在特会」が存在感を高めていきました。朝鮮学校に対する威圧的な街宣や、朝鮮市場を練り歩いての脅迫が行われるようになります。
 ヘイトスピーチ解消法ができるなどして法の縛りが強くなると、差別主義者たちは、再びネット上の活動に力を入れました。そして今、こうした排外主義が放火という「テロ」として現れてきたのだと思います。
 日本では、まだ自国のことを「差別と偏見のない社会」だと思っている人が多くいます。しかし差別は存在しているのですから、その幻想を壊し、一人一人が差別問題に向き合うべきです。「差別解消のためにマイノリティが頑張らなくても良い社会」にしたいと思います。


放火現場は、差別を許容する日本社会の心象風景


安田浩一さん(ジャーナリスト)

 放火現場を訪れた時、私は「異なるものを焼き尽くす」という現在の日本の心象風景を思いました。事件はいつ起きてもおかしくなかった、と思います。2009年には排外主義者による京都府下の朝鮮学校襲撃事件、17年には東京の朝鮮総連の中央本部に拳銃を打ち込んだ事件があります。日本は関東大震災下での朝鮮人虐殺のように、ジェノサイドも経験しています。この放火事件を軽視すれば、必ず似たような事件が起きると思います。
 神奈川県川崎市の池上町も、在日朝鮮人の集住地域で、日本鋼管の敷地でした。ここを外国人排斥グループは「川崎のウトロ」と呼んでいます。地域の名称に過ぎない言葉が、在日外国人の不法性を象徴するような言葉になっています。
 だからこそ、「ウトロ」の歴史と実態を知ることはとても大事です。ウトロは今、「不法占拠」なる状況にはありません。まちづくり協議会をとおして自治体と住民の合意が進み、公営住宅への入居も進んでいます。しかし今でもウトロは、不法占拠という言葉で語られています。こうしたデマが流布される現状に憤りを感じます。この放火事件に対して、ヤフーニュースで「放火はいけないけど犯人の気持ちはわかる」というコメントが多くありました。放火という犯罪以上の問題を感じます。
 憎悪犯罪=ヘイトクライムは、罪の意識なく犯罪を犯し、憎悪を煽ります。厳しい言い方ですが、「これが今の日本の風景」なのだと思います。
 昨年末、東京都武蔵野市議会で、外国人へも住民投票権を拡大する条例案が出されて注目されましたが、否決されました。反対派の右翼は「日本を作ったのは日本人だ! インフラは日本人が作ってきたんだ」と叫んでいました。徴用工という形で朝鮮人たちが強制連行され、工事に駆り出された歴史的事実すら知らない、酷い無知です。
 またメディアは「武蔵野市は分断されている」と強調しましたが、分断を強いているのはマイノリティではなく、排外主義者と、それを放置し煽る国家権力です。こうして武蔵野市は「外国人排斥の戦場」にされてしまいましたが、差別を許容する日本社会の未成熟さが表れたのだと思います。

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