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未来石今日子の予知ごはん

(焼き鯖)

焼き鯖!

昼休憩の5分前。私ははっきりそれを見た。私は予知能力がある。昼は焼き鯖定食だ。私の予知の的中率は、なんと今まで100%。視界の上、頭の隅、脳で眺める確かなヴィジョン。パリッと焼いた皮の照り。

事務所をバシッと昼に出て、ためつすがめつ岩本町。ここらにあったか定食屋?探す猶予はまあ10分。行き当たるのが予知とはいえど。頭の中はすでに鯖。半切りかぼすが添えてある。値段はこっきり千円で。あったかそんな定食屋?

「あった」

あった!

嘘だろ、あった。いやまあ、あるんだろうけどさ。なるほどそうか、日替わりか。空いてるんだろカウンター。わかるよ、さっき座ったから。

「満席でーす」

え、12人待ち?

12人待ち?

いや……その、これ遅刻するのも込みで予知だったりしないだろうな?私にも、私にも社会的信用というものがあってだよ?信用は能力では買えないんだよ?
いや、だが、でも、もう、鯖なんだ。能力とか関係なく舌が鯖なんだよなあ。そこまで含めての予知?どこまで?どこまでが予知?

『…れわれはサステイナビリティの理念に則り地球生命の搾取を実力行使によって!』

因果に悩む私の視界に過激ヴィーガニストの非菜食飲食店破壊トラックが映ったのと、私の左目の高出力レーザーが展開したのは全く同時の出来事で、もちろん予知していたからだ。こういうのには役に立つんだよなあ。そして私はヴィジョンの私と声を揃える。せーの。

『「邪魔すんなッ!」』

今日は鯖なんだよ……。エンジンブロックごと運転席が溶解したトラックが路肩に停止すると、12人いた待ち人数は-1人になっていた。ああーなるほど。こういうディテールはわからなかったわ。「らっしゃーせーぃ!」ありがたくのれんを潜る。

「一人」
「はい一名さまー!カウンターどうぞー!」

焼き台でもうもうと煙を上げる魚。ランチャーをしまう板前。このご時世、定食屋も気合勝負だ。

(続く)


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