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髪型という自己証明

 まずは、読者の方にはここ5日間投稿が滞っていたことを謝罪します。すみませんでした。そもそも読者なんていないだろ、こんな底辺大学生の単なる自分語りのnoteに。とか言わないでください。それは自分が一番わかってます。ただ、今回は自分という読者に対しても、これは謝っておく必要があると思うのです。
 ちょっと実生活の方で色々とありまして、この
5日間は結構バタバタしていたり、もしくはその影響で完全に生気を失ってnoteすら書く気が起きませんでした。躁鬱気質は元からあるのですが、ここ5日間は特に過去一、ニを争うレベルで躁と鬱の波が来ていたような気がします。このことも近いうちに書こうと思います。その中でも、特に躁と鬱の波の間にあった出来事を今日は少し書きます。
 先日、僕はとある家電量販店のバイトの面接に合格し、数日後、店舗に初出勤することになりました。僕は自分で言うのもなんですがかなり用意周到な部分をしています。まあ、これも元々がADHD気質で、気に留めないことを一瞬で忘れてしまう性質があるので、なるべく社会に適合するために中学時代頃から部活でこういった心掛けみたいなものが産まれた気がします。それもあって、僕は事前にメールで送られてきた身だしなみのマニュアルを隅から隅まで読み、必要な物品を早めに揃え、完璧ともいえる準備をしていたのです。そうして迎えた初出勤でしたが、私は一つ大きな間違いをしでかしていました。
 店舗に着き、若い女性の従業員に話しかけ、従業員の事務所に通されると、そこにはなんとまあ寝取られモノの同人誌に出てくるチャラ男と言うべきか、はたまた中学時代は北関東の元ヤン上がりの大学時代は○應でオーラン主催でも経験してきたかのような、何とも絵に描いたような面倒くさい男代表のような従業員がそこにいたのです。
 彼は私を見るなり、挨拶代わりに即刻言った。「えっとさ、キミの今のその身なりはさ、マルだと思う?バツだと思う?」私は少したじろぎながら、「えー、なるべくマルに寄せる努力はしたつもりですけど...」と言った。何か問題でもあるものか。髭も完璧に剃り、革靴のピカピカに磨いてある。髪も、前髪は眉毛にかからないように、サイドは耳にかからないように、後ろ髪は襟足につかないように、まとめてある。しかもゴム2つも使って。完璧なマンバン気味のオールバックである。この状態でどんなコンクールとかに出されても恥ずかしくない。
 さあ、指摘してみろ。
 と言わんばかりの僕の自信は彼の次の一言で砕かれた。「まあ、結論から言うと完全にバツなんだけど笑」
「まず、面接のときに何も言われなかったの?」
「はい、特に何も」
「ああ、そう。面接誰にやってもらったの?」
「鈴木さんです」
よく覚えてるな俺、こんなクソどうでもいいこと。まあ割と可愛かったから覚えてただけだけど。偉すぎる俺。
「あー、なんか言ってた気がする。共有とか全然してくれなかったよねー。」
彼は周りの従業員と話している。
そして、「事前に説明なかったのは申し訳ないけどね、一応これが身だしなみの規則なんだよ。」彼は、俺が事前に5、6回ぐらいは見返したマニュアルを見せてきて、髪型に関する箇条書きの規則を読み上げる。そして髪型例のGood!とBad...の例を見せ、「キミの髪型とこのBadの髪型比べてみて。ほら、襟足掛かってる、眉毛かかってる、サイドかかってる、ほらね、ベェアッッドでしょ!」
僕は彼が何を言っているのかが本気で理解できなかったが、兎に角頷くしかなかった。  group_inouのMV、もしくはホルモンのMVを見ている時に似た文脈と目の前の現象の齟齬という感覚を味わったが、それらのMVから感じる心地よく愉快な違和感とはかけ離れた理不尽な違和感を感じながらただ私は頷いた。そうして私はその日は色々と手続きを済ませて退勤した。帰宅後、私は途方に暮れた。このまま大学に行きながら生活を続けるには自分で働く必要も出てくるが、かといってあんな奇妙で違和感を抱えた家電量販店で働かなくてはいけないのか。私はその時、本気でバックれようとした。何か職は他にある。もっと楽で効率的で覚えることが少なくて、時給がいい職が。ただ面倒くさい。探すのが。とにかく面倒くさいという事実と家電量販店の従業員に可愛い20代前半女性が2人もいるという事実、親だけでなく祖父母からの脅迫じみたまでの大学卒業しろという忠告の電話をその夜貰ったという事実に僕は挟まれ、潰されていった。その夜のことはもうそれ以上あまり思い出せない。
 でも、その次の日は逆に、バイトを初めてバックれてやるぞ!というワクワクと楽しさに包まれ、身も心も飛んだような気分だった。このまま髪型自由のバイトでずっと働いて、俺はカート・コバーンにでもなるんだ!というような野心すら抱き始める。しかし、その躁も長くは続かず、次第に、現実的思考が脳を支配し始める。やはり少しはあそこで働いてみよう。と。髪型なんてものは表面上のものでしかない。変に髪染め、ロン毛に手を出すのはバカ大学生だけだ。俺は違う。などと思考がシフトし出す。支離滅裂である。
 そして次の日、とうとう僕は髪を切る決断を下してしまう。授業と授業の合間に急いで1000円カットへ行き、長塚健斗の画像を美容師に見せ、7:3フェードカットへと僕の頭は変貌を遂げた。
 そしてカットが少し長引き、6限の英語の授業に遅刻するが、そこで教授に遅刻したので小テストあとで受けさせろと言ったが拒否され、しまいには身に覚えのない「君いっつも遅刻してるよね、ちゃんとしなよ」。毎回出るか切るかの6限英語で遅刻とかいう知恵遅れな行為をする筈などないのに。
 そうして私の脳内は燃え上がり、脳内回路は焼き切れ、一切の生命活動の続行を拒否し出したのです。まるで焼身自殺のように。

 大学のとある授業で教授が言っていました。人には皆「アイデンティティマーカー」というものが備わっており、他者から見て自分自身の存在を決定づけるものらしいです。例えば、赤髪や青髪に染めていたら、自分は特別目立つ存在であるというマーカーになったり、ボサボサの髪の毛が他者から見て自分が隠キャであるというマーカーになったり。
 それを踏まえると、私が、社会に迎合するために髪をバッサリと切ったのは、かなり深刻な意味を持つものであったのです。勿論、髪型関係なく、自分自身の行動で全ては決まるのですが、自己暗示的な意味や、他者から見た位置付けという
意味で、髪型という自己証明は、もっと重視されるべき事柄であるのは事実です。
 私はそれに気付かぬまま、それまで背負ってきた怠惰も決意も価値観も、それらは刃に掛かった瞬間切り落とされてしまったような気がしています。
 アイデンティティマーカーを失った人間は、狂ってしまいます。

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