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今日の体験談

俺は、何処にでもいる冴えない男子高校生。勉強も運動も人並み。部活にも入っていないし、友達も数える程度しかいない、どちらかと訊かれれば陰よりの普通キャってとこだったろう。

ーーーそう、ある時までは。

何を隠そう、俺はある時、なぜかは知らないが成り行きで「冴えない男子高校生6人」というコンセプトのアイドルグループ6人組の一人としてデビューすることになったのだ。メンバーは自分と同い年のヤツや年上の大学生、或いは社会人などバラバラの世代のヤツらが集められた。その中でも俺は、リアル冴えない男子高校生としては一番完成された存在であるといえるだろう。

とある学校の体育館のステージでデビューライブをすることになった。各々のメンバーが控室でフリフリの衣装を着せられ、俺は黄色い花柄スカートと白いブラウスを着せられた。
俺がブラウスを気終わるかという時に、開演の合図が聞こえ、急いでステージへと向かう。俺の立ち位置は客から見て一番右だ。ステージでは既に赤いフリフリを着たメンバーがMCを始めていた。何か面白いことを言っている。そして結構ウケている。俺のところには、おそらくライブの後半にMCが回ってくる。
俺も、どんな質問を受けてもとりあえず面白く返す自信はあった。俺は会話において、面白い雰囲気やテンポ感を演出するのが上手いのだ。まあ、意図的にできるものではないのだが、相手が普通の笑いの感性を持っている相手だったら、俺の雰囲気を面白がってくれることが多い。だから、少し自分に不都合なことを訊かれても、「えーっと、まぁ無回答で。」とか言えば最低限まあウケるっしょ。なんせ俺だから。普通のヤツが言ってもウケないようなことも俺が言うとウケちゃうんだよねぇ。アイドル楽勝すぎワロタ。
てかそんなことより、今気づいたけど、リュック背負ったままステージ上がって来ちゃった。しかも黒いノースフェイスの。流石にこれはダサい。いくらコンセプトがコンセプトとはいえ、いくらなんでも黄色い花柄スカートに白いブラウス、そんで黒いノースフェイスはダサ過ぎるのだ。そんで何故か隣のメンバーもリュックを背負ったままステージへ上がって来ているが、俺と同時に気づき、すぐさまそいつはリュックを脱ぐ。しかし、俺のノースフェイスは何故か肩紐が異様に絡み合っていて、何重にもして固く結ばれている。中々紐を解くことができない。MCはもう終わるかというところだ。一応客にはまだバレてはいなさそうだが、、これはやばい。もうすぐ曲始まっちゃう。どうにか解けろ...。となったとこでようやく紐が解け、同時にメンバーの皆が定位置につく。

これから、一曲目が始まる。そういえば、何の曲が流れるかだとか、一切知らされてないな。当然振り付けも分からんから、とりあえず皆んな適当に踊ってとプロデューサーに言われていたような気がする。どうしよう。こんなん絶対に醜態晒して黒歴史確定じゃあないか。Twitter(X)に投稿されてしまうかもしれない。何でこんなメチャクチャなことになっているんだ。ちくしょう。
でも、今更ステージを降りるなんてダサすぎる。それこそそっちの方が黒歴史かもしれない。もう眼前にある事実を受け入れる方が楽なのかもしれない。ああ、きっとそうだ。もう余計なことは考えない。何がどうなろうとまあいいや。これはそもそも見世物小屋なんだ。俺らははじめから笑い物にされる為にこのステージに上がらされたのだ。今更何を緊張する必要があるのか。無心でいればいい。そう心を決めて、俺は定位置に凛と立つ。


ーーー流れてきたのは、「ハレ晴レユカイ」。


あー、振り付け昔ちょっと覚えたことあるけど全然覚えてねぇ。ていうかそもそも世代じゃないし。まあいいや、とりあえず己の心の赴くままに身体を動かそう。私は左手を高く突き上げた。

ーーーそして異変に気づく。

あれ、全ッ然思うように身体が動かない。それまで普通に身体は動いてたはずなのに、今も曲はちゃんと聴こえてるのに、身体を動かす機能が、普段の四分の一も仕事してくれていない。
なんだこの感覚。気持ち悪い。
遭難した時に助けを求めながら溺れていく時とかもこんな感覚なのだろうか。

ーーーそしてどうにかしてもう一度左手を振り上げたその瞬間、

その手は白い石膏の壁に当たり、私は散らかった布団の上にいた。

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