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雨と宝石の魔法使い 第八話 図書泥棒ー後編

校舎の外にでると、快晴だったはずなのに、強い雨が降っていた。露露ちゃんは傘も差さずに一直線に歩いている。
しかし、不思議と彼女は濡れていないように見える。僕は鞄を頭の上に乗っけて付いていく。

その先に、取り巻きに囲まれている龍ヶ崎先生を見た。

龍ヶ崎先生は取り巻きに向き直ると何か喋っている。そして、彼女たちに挨拶をすると走り出した。雨に濡れてしまうからだろう。

露露ちゃんは、それを追う。
ちょうど龍ヶ崎先生が一人になったとき、凄い速さで露露ちゃんは間合いを詰める。

僕の視界から二人が消え、置いてきぼりをくらう。

***

露露は降っていた雨を龍ヶ崎の真上だけ氷のツララに変えた。ツララの雨が龍ヶ崎に降り注ぐ。龍ヶ崎に当るその瞬間、その氷は燃え上がり湯気に変わった。

「慌てるなよ、ルル」 
龍ヶ崎は振り向いた。
振り向き様に炎の矢が露露目掛けて一直線に飛んだ。露露は手のひらから水の矢を作り出し、ぶつけたが、その炎は水の矢を包み込みさらなる勢いで露露に襲い掛かった。
露露は何事か呟き足元から氷の壁を作り出し、その炎を防いだ。

氷の壁が、湯気を上げて蒸気に変わる。

綱は角を曲がって彼らがいるところから少し離れた背後に躍り出た。
二人の肩やその周りからゆらゆらと湯気が立っている。綱には二人が雨に濡れて、汗が湯気として立っているように見えた。

「相変わらずだなルル。何百年ぶりかな?」
「二度とその口を開けないようにしてやろうか。あんな昔話を生徒にするなど胸糞悪い。コソコソ嗅ぎ回っていたのも、本を盗んだのもお前だなサラマンダー」
「ダメだよちゃんと名前で呼んでくれないと。ヒトや君の付き人君がビビっちゃうだろ」
「うるさい。おまえはまだ誤解をしている。調べても何も出てこぬぞ」
「ふん、それは俺が決めることだ」
「口の減らぬ奴だ。精霊の力は無限ではないのだぞ」
「当たり前だ。だから調べるんだろ」
「お前、まさかその足りない力を変えるために、再び世界を不安定にしようとしているのではないだろうな」
「さて、どうかな?」
「お前のように大きな力があるのにも関わらず無駄なことに力を使っているような愚は犯さないさ」
「貴様という奴は。恥を知れ!」
露露の目が青く光ったかと思うと眩い閃光が龍ヶ崎目掛けて飛んでいく。まるで青い竜のような形だった。


青い竜だ…さっき龍ヶ崎先生が言っていなかったっけ…

その光が龍ヶ崎を飲み込もうとした瞬間、龍ヶ崎の体から赤い炎が竜のように立ち昇った。青と赤の竜が虚空で激突して消えた。

僕は腰が抜けて、尻餅をついた。

これは現実なのか?いや?すごい大きさの雹とかが降っているとか?それで湯気が出たのかな。そう信じたい。

龍ヶ崎先生は千本の火の矢を自分の身体の周りに揺らめき立たせ、露露ちゃん目掛けて放った。
ように綱には見えた。

「馬鹿もん、何度やっても同じだ。無効化されるだけだ」
「どうかな?」
不敵に笑う龍ヶ崎。
千本の矢は露露ちゃんの上空を通り越して、何故か綱の方に飛んできている。

僕はやはり夢を見ているのだと思った。しかし、随分と熱い。

「馬鹿もの!巻き込むやつがあるか!サラマンダー!」
言うが早いか露露ちゃんは、地面に手をつき、大きな気合を入れた。
綱の周りに氷の壁が立ち、炎の矢を悉く蒸発させた。

「ぐっ」
龍ヶ崎先生は膝をついた。
僕にはよく見えなかったが、キラキラしているものが龍ヶ崎先生の肩に何本も突き刺さっている。

「なぜ!?」

「用意は周到にするものだぞサラマンダー」
「ルル、お前の気は逸れたはずだ」

「やはりこの鉱石…お前は二人分の力を持っているんだろ」
「だからそれが誤解だと言っている」
「嘘をつくな」
「信じろ、よく考えたらわかるはずだ。契約は一度きりだと」
「ああ、そうして俺は1000年も騙されたわけだろう」
「違うと言うに…」
「本は返してやるよ…お前の弟子の命と引き換えにな」
サラマンダーは言い終わると風のように消えた。

同時に幾千もの火の矢が僕の頭上から雨のように降り注いだ。同時に露露ちゃんが何かを怒鳴っているのが聞こえたような気がした。


全身が焼けるように熱く、目の前が真っ暗になった。

***

雨が強く降っている。
顔に当たる雨粒の大きさと強さで僕は目を覚ました。
「死にぞこないが。なぜ追いかけてきた」
露露ちゃんの美しい顔が倒れている僕を抱き抱えながら覗く。
「だって、付いてこいって言ったじゃん」
「馬鹿もんが…」
そう言って露露ちゃんは僕を抱きしめた。暖かい。さっきの焼けるような熱さではなく、暖かい温もりを感じた。

「最後に役に立ったな」
そう言われて気がつくと、首に掛けていた青いサファイアが粉々に砕けて、サファイアを結んでいた紐は燃えカスになっていた。

「やはり一所にいるのは良くない。長居が過ぎたようだ。資能の時に学んだのだがな…」
露露は苦笑いした。

露露ちゃんは今度こそいなくなってしまう気がした。
「露露ちゃん。ダメだよいなくなったら。そばにいてよ。俺がなんとかするから」
「何をしてくれるというのだ、弱いくせに」
「い、いやそうだけど」
「気持ちだけ貰っておこう。縁があればまた会えるだろう。安心しろ。龍ヶ崎はもうここには来ない」
綱は涙を流していた。

これだからヒトは困るのだ。

「ほれ、もう一つこれをやろう。お前の涙に俺の祈りを込めた。この先もお前を守ってくれるだろう」
「いらないよ、露露ちゃんがいてくれればいいんだから」
露露は何も言わずに綱を見た。

「またな」
露露はそっと綱を地面に寝かせ、歩き出した。
雨が止み、太陽が顔を覗かせた。

「露露ちゃん!ルル!」
綱は露露の名前を叫んだが露露はもう振り返らなかった。

「ルルーシュ!!」
綱が叫ぶと、露露は一度歩みを止めた。しかし振り返らずに再び歩き出す。
露露はその時ニヤリと笑ったが、綱には見えなかった。

私は雨と宝石の魔法使い。雨宮露露。
今日も静かに世界を守っている。

終。


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