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狸は夜半よく小屋へいたずらに来た。戸をほとほとと叩くので、出てみるとたいてい誰もいない。外の木かげなどにかくれて見ていると、戸のところに逆立ちして尻尾でたたいているものだそうである。

一番こまるのは夜半のいたずらで、イロリの火でもきえると小屋の中へはいって来て顔を前脚でなぜまわしたり、舐めたり、時には胸の上に上ったりする。

宮本常一「世間師(1)」『忘れられた日本人』岩波文庫

明治時代の山の暮らし。このころまではまだ、ひとは狸に舐められていた。