以前「みんな大好きだから大っぴらには言えないけど自分はなぜか嫌いなもの」についてnoteに書いた。今回はその続編である。

今回は卵3連発だ。

諸君、私は卵が好きだ。本当に好きだ。「私の愛する食材ベスト3」とか「最後の晩餐に食べたいものランキング」とか「冷蔵庫になかったらめちゃくちゃ機嫌悪くなる食べ物5選」とかを問われたら、まず1位は卵だろう。初めて1人で料理したのも卵だし、人生で最も多く料理したのは間違いなく卵だし、初めての著作で1万字を費やしてまで暑苦しく語ったのも卵だ。とにかく物心ついた時からずっと、私は卵を愛していた。

卵であれば和洋中なんでも、どんな温度でも、どんなシチュエーションでも好き。お店のメニューに卵料理があったら1000%注文する。だがしかし、そんな完璧な素材・卵にも落とし穴がある。「その状態にされると食べられない」バージョンが存在するのである。しかもその状態は「大抵みんな好き」なので、しばしば「え〜なんで〜美味しいのに〜」とか「人生の半分損してるよ！」とか「ちゃんと美味しいのを食べたことないんじゃない？」とか余計なことを言われたりする。それがこの3つだ。

★温玉

オンタマ、その意味はまったくもってわからない。半熟卵でいいじゃないか。なんでわざわざ温度調節してまで「固まってるんだか固まってないんだかどっちつかずの柔らかすぎて水っぽい白身」を作り出す必要があるんだ。白身のせいですべての料理がびちゃびちゃだ。美味しいローストビーフも、カラッと揚がった唐揚げも、新鮮な刺身もすべからくびちゃびちゃだ。

おまけに温玉はステルス機能がある。メニューにわざわざ「この料理は温玉のっけですよ」とうたってないことが多いのだ。みんな大好きだから、予期せぬ温玉がやってきても誰も怒らないのだ。運ばれてきたなんとか丼を見て「しまった！温玉のっけか！」と愕然としている人がいたらそれは私だ。除去できるかどうか、どうしたら被害最少で済むのか必死で計算中なので、しばらくほっといてくれたらありがたい。

★月見そば・うどん

蕎麦もうどんも大好き。だが月見だけは意味がわからない。だって生だよ？ただの生卵ですよ。せっかくの熱々だしを無様にぬるくし、そのくせ固まることはせず、ただどろりんと丼の中をたゆたう生卵。邪魔！はい邪魔！大掃除中の夫より邪魔！

温度もさることながら、テクスチャの違いも耐えられない。キリッと腰のある麺を味わいたいだけなのに、否応なく口に入ってくるどろりん白身。あー無理。仲良しメンバーだけで行くつもりの飲み会に強引に参加しようとする上司くらい無理。好きな人はよく「白身にうっすら熱が入って”月にむら雲”って状態がいいんだよな」とか言うけど、その程度じゃどろりんは解消できてないから。許さないから。

ちなみに卵とじは大好物。

★卵かけごはん

卵かけごはん自体は大好物である。それこそ最後の晩餐の候補でもある。好きな銘柄の米を、好きな水加減で炊く。卵も醤油もこれまでの人生で選んできた好きな生産者のものだ。小鉢に卵を割り入れ、醤油をふた回し。新鮮がゆえ、かたくなな黄身に箸を突き立て、超高速でかき混ぜる。ふう。ここで米が炊き上がるとベスト。炊き立て熱々のところに溶いた卵をサラッとかけ、かきこむ。ごはんの熱で下の方はもっちり粘度を増してるのが微笑ましい。それが私の「TKG」こと卵かけごはんの理想である。

ところがだ。
近年、市井のお店でも卵かけごはんを出す店が増えてきた。しかしその多くは「ごはんの上に割った卵がそのまま乗る」タイプなのだ。なんてこった。これじゃ私の流儀に最も大事な「黄身と白身をよく混ぜる」ができないじゃないか。ごはんの上でちまちまこねくり回してたら、どうしたって白身のどろりんが解消できないじゃないか。

そろそろ自分でもわかってきた。私は「白身のありよう」が気になるたちなのだろう。どろりんは最も苦手とするが、温玉のような水っぽさも嫌う。言われてみれば自作の目玉焼きは「白身が固まってること」が最優先だし、ゆで卵も「この鍋で6分半、それで白身が固まり黄身はとろり」を遵守しようとする。だし巻きも、オムレツも、スクランブルも「白身の固まりがない」ことを念入りにチェックする。いわば白身警察だ。

私の名誉のために付け加えるなら、卵かけごはんに関しては私と同じ気持ちの人はもっといるはずだ。うちの店で出していた時によく観察していたが、ほとんどの人は「小鉢に割った卵に醤油を入れ、よくかき混ぜてからごはんにかける」スタイルだった。そのままごはんに乗せる人はゼロ。軽くかき混ぜる程度の人が少々、そんな感じだ。1人だけ「自分で卵割らないと卵かけごはんじゃない！」って人もいたけど、まあ、これは激レアかなw

そんなわけで、私が「食わず嫌い選手権」に出る時には「ローストビーフ丼・温玉のっけ」で勝負しようと思う。クックック、まさか温玉が嫌いとは相手チームもわかるまい。